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迷路の迷宮 作者:パブロン

迷宮の落とし穴

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ガチャと陣地とボスモンスター

 オブジェクト制限値の限界まで罠や施設を設置した所で第一〇階層の改修を終える。

「ディアさん、これでどうかな」
「素晴らしいかと。敵は相当な出血を強いられる事になるでしょう」
 しかし、とディアは悔しげに続けた。

「それでも、防ぎ切れないでしょう」
 コアルームに繋がる通路の前には<決戦場>が設置されている。決戦場は魔物収容数に上限がない。しかしコアルームの前にしか置けず、更に罠やアイテム類の類も設置出来ない、文字通りに最終決戦を行うためだけのエリアなのだ。

 ボス部屋を抜かれると敵部隊は決戦場に辿り着いてしまう。

「よし、行こうか」
 ヒロトが決戦場へと移動する。

「主様、ダンジョンの改修、終わったの?」
「うん、これで後三時間は持つと思う。そっちは?」
「もうすぐ終わる」
 クロエが指を差した先には城壁が聳え立っている。コアルームへの入り口を塞ぐように築かれたそれは高さ五メートルを優に超え、厚さも三メートルはあろうかという頑丈なものだった。

 ダンジョンバトルが始まるやいなや、クロエは奴隷達に指示を出し、決戦場の前に巨大な防御施設を構築させていたのだ。

 決戦場には罠や施設、アイテム類を設置する事は出来ない。しかし自分達で簡易陣地を作り上げるくらいは許される。その特性を利用して防衛施設を築いたのだった。

 <シルバーゴーレム>が石灰や砂利を運び入れ、子供達が<土壁>の魔法を唱えて壁を作っていく。松明に灯った火が消えないように発動された魔法は効果が終了した後も残り続ける。そして土魔法はその場にある材料が使われる特性があり、発動場所に材料を置いておく事でコンクリートの壁を作ることが可能なのだ。

 土壁の魔法は単発実行すると高さ二メートル、厚さも一メートルほどが限界なのだが、同じ場所に同タイミングで土壁を放つ事で<魔法連鎖>が発動して高さや厚みを増す事が出来るのだ。

 子供達の中には魔法の才能を有している者もいる。ヒロトはダンジョンマスターの特性によってその才能を見抜き、教育を施してきた。今では一〇〇名からなる星付き魔術師を動員出来るようになったのだ。

 完成した城壁の前には弓や杖を携えた奴隷達が緊張した面持ちで立っている。彼らを守るように盾を構えた<シルバーゴーレム>が待機している。感情のないゴーレムは文字通り命を賭けて子供達を守るのだ。

 城壁の内部は空戦を想定して石柱が至る所に埋まっている。石柱を壁にする事も出来るし、これを足場にする事で上空の敵にも近づく事が出来る。更にレアガチャチケットで手に入れた<巨大蜘蛛>達が石柱の間に巣を張っている。

 子供達やドワーフ職人、元商人の知識奴隷に至るまで二〇〇〇名が完全武装で待機していた。更にシルバーゴーレム、普段は育成にしか使っていないシルバースライム、レアガチャチケットで手に入れたまま死蔵されていたハズレモンスターまで総動員している。

 決戦にはヒロトも参戦する予定だ。DPを使ってステータスを上げたり、各種戦闘スキルを手に入れたが、果たして使い物になるだろうかと少し不安である。

「敵は未だに万を超える戦力を残しているでしょう。<決戦場>まで来られたら多くの犠牲者が出るでしょう……最悪は全滅する可能性さえあります」
 ディアは重々しい口調で告げる。迷宮神が背後にいる以上、生半可な戦力ではあるまい。

「それでも貴方達はこの場所を守らなければなりません。決戦場を抜かれたら、コアは奪われ、<迷路の迷宮>は消滅します」
 ダンジョンの消滅はつまりヒロトの死を意味する。それは奴隷契約を結んでいる子供達、更には眷属達の死も意味している。

 コアルームの入り口、本陣にはダンジョン防衛の切り札たる<メイズ抜刀隊>がウォルター等眷属達と一緒に夕食を食べていた。スタンピード狩りで度重なる戦功を挙げた彼等は他の奴隷達とは異なり、自然体でくつろいでいる。

「ご主人様!」
「目が覚めたのですわね!」
「心配したよーよかったよー」

 ヒロトが近づくとすぐに気付いたようで子供達が笑顔で駆け寄ってくる。歴戦の勇士然とした様子は欠片もない。

「ごめんね、皆……」
 子供達はきょとんとした様子で首を傾げた。ヒロトが謝る意味が分からないようだ。

「この戦いは今までのとは違くて……その、勝てないかもしれない……君達の誰かが死んでしまうかもしれなくて……」
「なんだ、そんな事か」
「まだ調子が悪いのかと思った」
「相変わらずお人良しですわね!」
 子供達が楽しげに声を上げた。

「ヒロトよ、大丈夫じゃ。皆、最初から覚悟しておる」
 ウォルターが言えば、子供達が当たり前だとばかりに頷く。

「でも……」
 ヒロトがなお言葉を続けようとしたとき、強く肩を叩かれた。

「問題ねえよ、大将。ちっとでっけー蜂ぐらいぶった切ってみせるぜ」
 振り返れば金髪碧眼の偉丈夫、元帝国軍人のキールが快闊に笑ってみせる。

「そうですよ、僕達は嬉しいんです。僕達は戦える! 魔物に怯えて逃げ出すだけだった以前とは違うんです! そうでしょ、皆!?」
 ルークが円らな瞳に闘志を宿す。

 鬨の声が挙がる。あどけない子供達の顔に闘争心が浮かび始める。それは復讐心、あるいは殺意と言い換えてもいいかもしれない。

「皆、本当にごめんね……」
 ヒロトは年端のいかない少年少女達を死地に追いやる事に今更ながら罪悪感を覚えた。

 彼らを奴隷から解放したらどうだろうか。
 罪の意識で自棄を起こしそうになる。

 ヒロトは昂ぶる気持ちを必死に抑えるのだった。





「大将、これからどうするんで?」
 キールが尋ねてくる。

「これを使おうかなと思って……」
 ヒロトはこれまでせっせと貯め込んでいた<レアガチャチケット>を取り出した。その数は九枚。ダンジョンバトル連勝の副賞をヒロトはずっと溜めていたのである。

「上手く行けば四ツスーパレア級のモンスターが手に入るかもしれない!」
「……主様、それは……多分無理」
「無理だな」
「うむ、無理じゃな」
「何でさ、分からないじゃん……」
「ヒロト様の引きの悪さは有名ですからね」
 古参組やディアの辛らつすぎる言葉に、ヒロトは割りと本気でへこんでしまう。

「大丈夫ですよ、ご主人様! みんなで戦えばきっとどんな敵だって倒せます!」
「ルーク君、君はこのままで居てくれ!」
 素直な少年剣士に抱きついた。遠回しに期待していないと言われていたのだが、ヒロトは全く気が突いていないようだった。

「一〇連続ガチャは来年以降にお預けかなぁ……」
 ともあれ、やれる事は全てやるべきだ。

 ヒロトはレアガチャチケットを掲げると『使用』した。

 金色の光に包まれた。





「これは……」
 ガチャチケット実行時、その光る色によってどのレアリティの魔物が出るか推測することが出来る。三ツ星級であれば銀色、それ以上は金色となるのだ。

「嘘じゃろ……」
「……あの大将が」
「信じられない……」
「これは夢だと思います!」
「ふはは! これが強運というものだよ!」
 眷属達の散々な言葉をヒロトは笑い飛ばす。

 これまで数多の<レアガチャチケット>を引いてきたのが、その結果は散々なものだった。四ツ星級はおろか三ツ星上位――ワイバーンやヴァンパイアといった強い種族――さえ引いた事がなかったのだ。

 これまで手に入れた中でまともに戦えそうな魔物といったら<シルバーゴーレム>ぐらいなもので、それだって耐久性が高いだけで純粋な戦闘能力では中の下だった。

 しかしこの窮地で金色の光が出た。つまりガチャの中に大当たりがあるのだ。

「私は信じてましたよ、ヒロト様」
 サポート役の酷い手の平返しにクロエが『ちょ、おま、ずる!』と嘆くが、ヒロトは聞いちゃ居ない。

「やったよディアさん! これで勝てる!」
 ヒロトは思わずディアの手を取り、振り回した。金色の光が徐々に収まっていく。

 そして召喚されたモンスター達が姿を現す。そこから出てきたのはシルバースライム四体、巨大蜘蛛が三体、シルバーゴーレムが一体――いずれも三ツ星級ダブりである。

 そして最後の一体は――

「あれ、もう一匹は……?」
 全員で周囲を見回す。もしかしたら隠蔽に特化した魔物なのかもしれない。しかし主人たるヒロトがいくら呼びかけてもスーパーレア級モンスターはついぞ姿を現さなかった。

「あ、あ主様、これ……」
 クロエが震える声で足元の宝玉アイテムを指差した。

「えっと、ディアさん、これ、何て魔物?」
 ヒロトは宝玉を掴みあげると尋ねる。

「これは……ええっと……いい物ですよ」
 まさかの展開にディアでさえ言いよどむ。曰くこの宝玉は<維持コスト半減>というアイテムらしい。ダンジョンコアに取り込ませる事でダンジョン内の全モンスターの維持コストを半分にしてくれるそうだ。

 ダンジョンマスターなら喉から手が出るほど欲しい逸品。四ツ星級どころか五ツ星級と言って差し支えないほどの神アイテムであった。

 でも、

「今欲しいのはそういんじゃない」
 ヒロトはその場に崩れ落ちた。

「……ご主人様、どんまいです」
「まあ、人生こんなもんだわな」
「むしろ私達が引けばよかった?」
 古参大人組も軽口を叩いて励ましてくれるものの、やはり若干期待していたようで皆、肩を竦めてみたり、妙に明るく振舞ってみせたりする。

「ご、ごめんよ……みんな……」
 リアルラックの低さでは定評のあるヒロトである。自分自身、この土壇場で状況を引っくり返すようなレア物が出てくるとは思っていなかった。

「チケットは迷宮神が直接構築した機能です。ここで四ツ星級モンスターを引くなんてドラマチックな展開に期待を寄せるほうがどうかしています」
 クロエが『ちょ、おま、性格悪う!』再び噛み付くが、失意の中にいるヒロトには聞こえていない。むしろ確率をいじられてシルバースライムを九匹引いてしまわなかっただけで万々歳と言えるかも知れない。

「ボスモンスター、なんにしよう……シルバーゴーレムしかないよね……逆にシルバースライムとかいいかも」
 自暴自棄になったヒロトが言う。ボス認定されたモンスターは全てのステータスが向上する。弱点である生命力のなさを補ったシルバースライムなら案外良い仕事――時間稼ぎ的な意味で――をしてくれるかもしれない。

「のう、ヒロトよ」
「ん、何? ウォルターさん?」
「以前、お主の眷属になれるとかいう券があったじゃろう? それをワシにもくれんかのう」
 恐らく<眷属任命チケット>の事だろう。眷属になるとダンジョンレベルに応じて各種ステータスも向上するだけでなく、不老の存在となったり、ダンジョンの操作権限が与えられたり、ダンジョン内転移が出来たりなど様々な特典がつく。

「もちろんいいですけど……本当に、いいの?」
 ウォルターは奴隷達の中でも突出した戦闘能力の持ち主だ。ダンジョンシステムで三ツ星級上位と判定されるルーク、キール、クロエ等の腹心けんぞく達が三人掛りで戦ってようやく互角とかいう正真正銘の化物である。三人は眷属化によってステータスが上がっているので能力値に差はないはずなのだが、何故か勝てた例がないという。

 確かに元竜殺しの英雄にして剣聖と名高いウォルターが眷属化してくれるならダンジョン防衛にとって大きなプラスとなるだろう。

 眷属契約は主たるヒロトに忠誠を誓う必要がある。肉体に制約を課すだけの奴隷契約とは異なり、眷属契約は宣誓でもって魂を縛り付ける。単なる奴隷契約なら全身を蝕む激痛にさえ耐え切れれば命令を拒否出来る。ウォルターともなると痛みに耐えながら主に攻撃を加える事さえ出来るのだが、しかし眷属になってしまうと主の命令を拒否する意志さえ抱けなくなるのだ。

「ヒロトの言う通り、死んだら終わりじゃ。魂を売り渡しさえすれば子供達が守れるというなら眷属化もやぶさかではない」
「失礼な、まるで悪魔との契約みたいじゃないか」
「まあ、人類の敵ダンジョンマスターじゃし、似たようなものじゃろう」
「まったくですね……じゃあ、はい、どうぞ」
「ふむ、ありがたく頂戴するぞい」
 軽口を叩き合いながらチケットを渡す。

 ウォルターがチケットを左胸に当てる。全身がうっすらと光り、眷属化は完了した。信頼や忠義のためではなく、子供達を守るために人類の敵たるダンジョンマスターにその魂を売り渡す。まさに英雄らしい自己犠牲だった。

「ふむ……」
 ウォルターは大きく息を吐くと剣を引き抜き一閃した。ディアが目を細め、古参三人組が一歩後ずさる。

「師父、凄い……」
「やべぇ、近くにいるだけで鳥肌が立つなぁ」
「ウォルターお爺ちゃん、ちょっと恐い……?」
「ほっほ、すまんのう。あまりにも体が軽くてな。ついつい嬉しくなってしまった。若い頃に戻ったようでの。少し力に酔いそうじゃ」
 ウォルターは皆に軽く侘びを入れると朗らかに続けた。眷属化すると不老の状態となる。つまり老いや寿命から開放される。結果、加齢により発生する<老化>というバットステータスが解除されるようだ。つまりウォルターは今、眷属化によるステータスアップに加え、全盛期の活力さえも取り戻したというわけである。

 その身体能力はもはや人外の領域へと達しているはずだ。

「ヒロトよ。我侭ついでにもうひとつ頼みを聞いて欲しい事がある?」
「え、うん。僕に出来る事なら何でも言って?」
 ならば遠慮なく、ウォルターはそう呟いてから告げた。

「ワシをボスに任命せよ」
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