表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/129

初期設定と銀髪碧眼

「……何も起こらないなぁ……」

 しばらく待ってみたものの、特に何か変わった事が起きるわけではない。コアルームの外壁が変ったり、空気の感じが変ったりを期待していたのだけど<洞窟>と<土属性>を選択したせいか全く変化が感じられない。


「さてと次はモンスターの召還かな……それとも、ダンジョンの拡張でもしようか……」

 ヒロトはウィンドウ上で新たに選択出来るようになった<召還>を開く。


ーーーーーーーーーーーーーーー

召還可能リスト

[粘液]

 スライム       1DP

 ポイズンスライム   3DP

 ヒールスライム★   5DP

 テタラクト★    15DP

[土塊]

 サンドドール    12DP

 ノーム★      20DP

[鬼]

 ゴブリン       4DP

 オーク       12DP

[蟲]

 キラーアント    12DP

 ビックワーム★   20DP

ーーーーーーーーーーーーーーー


「いや、ろくなのがいないな……」

 ダンジョンレベルが低いせいか召還出来る魔物は極端に少なかった。相性のいい種族だけが、数種類ずつ召喚出来るようだ。名前の横についている星はレアリティを表しているみたいだ。星が増えるほど強く希少なモンスターというわけである。スライム系の召還コストが異様に低いのは<主力>で選んだからだろう。


 ちなみに召還した魔物には維持コストがかかる。ダンジョン内で食料を生産し、分け与える事で節約も出来るらしいが、魔物みたいな大型生物を養い続けるだけの食料なぞ生産出来るはずもない。


 召還は後回しにして<拡張>を選択する。するとウィンドウ上にRPGのダンジョンマップみたいなものが浮かび上がった。


 小さな部屋が一つ。これが今の迷宮の姿なのだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーー

■施設リスト

通路         0DP

T字路        0DP

交差路        0DP

階段         0DP

小部屋        5DP

部屋        10DP

大部屋       25DP

魔物部屋      50DP

大魔物部屋    100DP

迷路         5DP

大迷路       10DP

ーーーーーーーーーーーーーーー


 通路や階段などはDPなしで好きなように設置出来るらしい。部屋は複数の魔物を配置出来る迎撃施設だ。サイズによって置いておける魔物の数が異なるようで、小部屋なら五体まで、部屋は一〇体まで、大部屋になると二五体まで配置出来る。


 魔物部屋――いわゆるモンスターハウス――は召還コストが半分となり、維持コストも半分で済むという特典の付いた部屋である。良い事尽くめのように聞こえるが一度魔物部屋に配置された場合、その部屋を出られなくなってしまうらしい。魔物部屋は最大一〇体まで、大魔物部屋は五〇体を配置出来るそうだ。使い所の難しい施設といえるだろう。


 続いては迷路系だ。ゲームだと中盤くらいから出てきそうな施設だがダンジョン名<迷路の迷宮>やテーマが<迷路>なのおかげで補正が働いたのだと思う。また普通のダンジョン経営ゲームなら結構なDPを取るはずの施設なのだが、設置コストまで大きく抑えられているようだ。非常に助かる。


 <迷路>は一辺一〇〇メートルほどのサイズがある。<大迷路>になると一辺がなんと二五〇メートルにもなるそうだ。内部は狭く入り組んでおり、容易には踏破できないようだ。迎撃では侵入者の足留めしたり、分割したりする役割を担っている。なお、迷路は広いだけで魔物や罠はあまり配置出来ないらしい。迷路で五体、大迷路でも二五体までしか配置は出来ないそうだ。

 

「今はこれだけか……」

 ダンジョンレベルが上がれば選択肢が広がっていくらしい。<牢獄>や<宝物庫>などの実にダンジョンらしいものから、<温泉>や<宿>に<商店>と<武器屋>みたいに観光・商業系も選べるようになる。更に配下の魔物を鍛えられる<訓練場>だったり、怪我の回復を助ける<診療所>、知性を育てる<私塾>なんかもあるそうだ。頑張ればシムシティみたいな事も出来そうである。


 更にページを捲っていくと次は罠や宝箱みたいなアイテムリストに入る。


ーーーーーーーーーーーーーーー

■設置物リスト

落とし穴       5DP

落とし穴(槍)   10DP

飛び出す矢     25DP

ボロい宝箱      1DP

木の宝箱       5DP

扉          1DP

鍵付き扉      10DP

藁のベッド      1DP

木のベッド      5DP

水がめ        1DP

井戸        10DP

竈         10DP

パン         1DP

乾し肉        1DP

乾燥野菜       1DP

畑の土       10DP

鳥小屋       10DP

ーーーーーーーーーーーーーーー


「ああ、そうか……ここで生活しなくちゃなんだ……」

 生活用品や食料品の名前が見えた時、ヒロトは酷く落ち込んだのだった。





「結局、何の説明もなしか……」

 小部屋を一つ作り、スライム一匹を召還、小部屋の中央に落とし穴を設置してみた。施設、魔物、アイテムの基本機能は全てを使った事になる。


 チュートリアルクリアボーナスはないらしい。メッセージが来るわけでもない。しばらくぼんやりとステータス画面を眺めていたのだが、結局何の変化も起きなかった。


 玉座のある部屋――コアルームと呼ぶべきか――から今しがた作ったばかりの小部屋に向かう。そこはちょっと広いだけの何の変哲もない洞窟だった。


 足元に目をやれば水色をしたゼリー状の物体が近寄ってきた。今しがた召喚したばかりのモンスター<スライム>である。


「これからよろしくな?」

 声を掛けるとスライムは何の反応も示す事無く通り過ぎていく。ずるずると小部屋の中を這いずりって落とし穴に落ちていった。


「…………」

 そして何事もなかったかのように這い出し、部屋を徘徊し、また落とし穴に落ちていく。出来の悪いルンバみたいである。


 ――これからやっていけるんだろうか……。


 元の世界に未練はない。何がなんでも生き残りたいなんて意思もない。しかしそれでもヒロトは何とも言えない不安に駆られる。


 ちょうどそんな時、コアルームのほうから声が聞こえた。


「すいません、遅くなりました……あれ? 誰もいませんね……」


 ――誰だ?

 家政婦よろしく小部屋の角からそっと覗き見る。


 そこに居たのはキャリアウーマンだ。


 フレームレスの眼鏡、肩から流れる緩くまとめた銀色の髪。黒いベストにタイトスカートにガーターベルト。襟の立ったブラウスを押し上げる豊かな丘陵。手元には革張りの手帳があり、デキる社長秘書みたいな雰囲気を醸し出している。


 ――なんか、違和感が凄い。


 目頭を抑えながらそんな事を思った。ファンタジー世界に連れてこられたのを真っ向否定されているような現代日本風の衣装であった。


 ヒロトの心情など知る由もなく、銀髪碧眼のキャリアウーマンは涼やかな目元を隠す眼鏡をくっと上げた。


「もしや外に出てしまったのでしょうか……とするとダンジョンの出現位置を決めてしまった!? どどど、どうしましょうっ!? これでは物件が無駄に!」

 そんな事をのたまいつつ玉座前で慌て始める。


「もしも王国以外の場所に居を構えられたら……人里近くであれば新しい不動産を用意すれば……しかし、秘境になっていたら……ああ、なんでもっと早く来なかったの私!」

 美人さんは肩を落とした。これは相当な残念っぷりである。しばらくずーんと落ち込んでいたが、開き直ったのか顔を上げる。


 一頻り反省したところで今度は横目で玉座を盗み見ていた。


「これが噂の……へぇ……ふぅん……」

 興奮した猿のように玉座の周りをうろつき始める。周囲を見渡し、何故か抜き足差し足、玉座に近づき始める。ちなみにピンヒールを履き慣れていないのか、特徴的な甲高い足音は全く消せていなかった。


「ちょ、ちょっとなら……いいよね?」

 ゆっくりと玉座に腰掛ける。脚を組み、ふんぞり返った。


「フハハ、愚かな侵入者共め! そのような矮小な力で難攻不落にして電光石火、七転八倒一攫千金難攻不落、我が大迷宮<ディアの千年要塞>が落とせるものか!」

 そうしてディア(?)さんは高笑い。肘置きを楽しげに叩いたかと思えば痛そうに手を押さえていた。


 ――このダンジョンにまともなのは居ないのだろうか……?


 ヒロトは先ほどスライムを見た時と同じかそれ以上の不安感に襲われるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ