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ダンジョンバトル開催

 年明けから一月が経った。その間、ダンジョンは何事もなく平和そのもの。唯一の懸念であるウォルター率いるメイズ討伐隊だが、毎週送られてくる報告書によれば味方の被害は発生していないそうだ。


「ディアさん来ないね」

 クロエは不安そうに頷く。いつもなら昼前にはダンジョンを訪れるディアだが、もうすぐ日が暮れるというのにまだ姿を見せていない。

「ディアが遅くなる時はたいがいロクでもない事が起きる」

 結局、ディアは姿を見せたのは日付けが変わる直前であった。


「申し訳ありません。本部で会議が長引きました」

 会議が終わったその足でダンジョンに来たのだろう。ディアの装いはいつものスーツ姿ではなく白い貫頭衣ーーギリシャ神話に出てくるような服ーーであった。


 食事も取れていないというので屋敷のリビングに招き、サンドイッチを振る舞う。よほどお腹が減っていたのか、大皿に山と盛られたそれを平らげてしまった。


「何かあったんですね?」

「はい、来月よりダンジョンシステムに仕様変更が入り、機能追加が行われます」

 ディアは答えながら残ったポタージュスープを飲み干した。唇から溢れた白い液体が首筋を伝い落ちていく。胸元の緩い衣装のせいでたわわに実ったあれが垣間見えそうになり、ヒロトはそれを鉄の精神力で耐えた。


「ダンジョンバトルという機能になります」

 現在のダンジョンランキングは年度内にどれだけの侵入者を撃破あるいは撤退させたか、侵攻時にどれだけの戦果を得たかをポイント化して決めている。しかしそれでは近くに人がどれだけ住んでいるかでランキングが決まる事がある。それでは不公平であると考えているそうだ。


「ダンジョンの設置位置は自分で決めたものなのに、不公平も何もないと思うけどね」

「はい、もちろん建前です。ダンジョンマスター達にもっとやる気になってもらいたいというのが本音ですね」

 現在、ダンジョンとして積極的に活動しているのは半数以下の五〇〇ダンジョンほどだという。

 その理由は簡単で公開から一年足らずで三〇〇近いダンジョンが攻略されてしまったためである。気の弱いダンジョンマスターは出入り口を隠し、引き篭もるようになったのだ。


 彼等は時折迷い込んでくる人間や魔物なんかを仕留めることで生活しており、ダンジョンレベルはほとんど上がらない。しかし地脈から吸い上げられるDPだけでも最低限の生活は営めるために積極的に動かないのだという。


「今後ダンジョンマスターには年に一度、ダンジョンバトルを行う事が義務付けられます」

 ダンジョンバトルはダンジョン出入り口同士を繋ぎ、お互いの配下のモンスターを使って相手ダンジョンを攻略し合うというものだ。


「勝敗はダンジョンマスターを殺害するか、ダンジョンコアの奪取をするとその時点で決まります。その場合、勝者側の配下となる事が決まります。つまり眷属化されるわけです」

「これは……随分と過激なルールですね」

「ええ、ただしバトルでは不当な戦いとならないようランキング上位者――格上からの挑戦は拒否する事が出来ます。格下からの挑戦は断るには幾つかの条件をクリアしなければ出来ません」

 格上、格下の判定は自分と相手のランキング差によって決められるそうだ。


 普通のダンジョンは自順位から上位一〇%以上が格上となる。一〇〇位以内にいるランカーは自ランキングより上位一〇位以上が格上扱いになる。一〇位以内、ナンバーズと呼ばれる上位ダンジョンは全て同格となるらしい。


 例えばランキング五〇〇位のダンジョンの場合には四五〇位以降が格上と判断される。九〇位である<迷路の迷宮>の場合、八〇位以上が格上となる。ナンバーズである九位からは一位も八位も同格になる。


「バトルの申し込みはダンジョンマスターの判断で自由に拒否する事も出来ます。最低でも年に一度はダンジョンバトルをしなければいけないという制約が課せられています。一度も参加しないとペナルティが課せられます」

「なるほど……そうすると対戦相手が見つけられない人も出てきそうだね」

「はい、それも狙いのようです。ペナルティはかなり重いです。見せしめのための罰ですね。そうする事でダンジョンマスター達が積極的に動くようになると考えているようです。ダンジョンバトルに勝つには、負けないためには強くならなければなりません。自然とダンジョンとして活動しなければならなくなります」

「コア奪取かダンジョンマスターを殺すのはかなりキツそうだね。勝敗着くのかな?」

「はい、運営側としてもそこは考慮しています。基本的には同ランク帯での戦いなりますからコア奪取はほとんど起き得ないと考えて良いでしょう。延々と戦い続けるのも無駄ですのでバトルには二四時間という制限時間が設けられています。

 二四時間以内に両者がコア奪取またはダンジョンマスターを殺害出来ない場合、魔物をどれだけ撃破したかをポイント化して勝敗を決めます。魔物の星の数によってポイントが代わり、星が一つ増える毎にポイントが一〇倍となります」

 無印モンスターであるスライムやゴブリンは一ポイント、一ツ星であるオークの場合は一〇ポイント、二ツ星のオーガやトロールであれば一〇〇ポイントと加算されていくようだ。


「更にポイントでの勝敗が付かない場合、与ダメージ量の総数で判定されます。それでも決着が付かない時には引き分けとなります」

「引き分け、あるんだね」

「はい、運営はまず起こらないと考えています」

「普通に戦ったら討伐ポイントもダメージ量も同じなんて奇跡みたいなものだしね」

 水泳の世界大会で同着なんてものもあるが、それと同程度のレアケースと考えているのだろう。


「はい、その通りです。また勝利報酬ですが、ダンジョンマスターの殺害あるいはコア奪取に成功した場合にはダンジョンの全てを奪えます。DPや配下のモンスターはもちろん、これまで相手方が取得してきた経験値まで全てを奪えるのです。更に敵ダンジョンマスターの処遇まで思う侭です。

 判定勝ちの場合には対戦相手のランキングに応じたDPを奪えます。更に敗者が所持する魔物かアイテムを奪う事が出来ます。対戦相手のランクが高ければ高いほど奪える数が増えていく仕組みです。また格上に勝利した場合には別途運営側からボーナスをお渡しします。

 最後に勝敗に関わらずダンジョンバトル参加時には運営から参加賞も配布していますね」

「なるほど、引き分けは?」

「引き分けの場合は参加賞だけですね。まあ、通常の勝敗に比べると一〇分の一にも満たない収益となりますが」

「なら、良かった」

 ヒロトはにやりと笑みを浮かべた。


 ディアからメニュー操作方法を教えてもらう。画面操作は簡単だ。ランキング順に並んでいるダンジョン名を選択。ダンジョン情報を閲覧し、<挑戦>ボタンをタップするだけ。相手に勝利した場合に獲得できるDPや経験値量も同時に表示される仕組みだ。


 対戦相手を選び終えるとダンジョンバトルの申込書<果たし状>が虚空から自動印刷される。そこに幾つか必要事項を明記して担当サポート役に提出すれば手続き完了とのことである。ハイテク何だかローテクなんだかよく分からない仕組みだ。


「ありがとう、よく分かったよ。引き分けの場合にはDPやアイテムなんかを奪ったり奪われたりは全くないんだよね」

「はい、その通りです」

 ヒロトはほうっと息を吐いた。


「なるほど……それならウチでも何とかやっていけそうだ……」

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