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ギルドの在り方

「バグ修正だけでなく、ギルド関係にも大きな変更が入っています」

 ディアはそう言って説明を続けた。


「まずはギルド設立のために<共同出資>が可能となりました。最大五つのダンジョンで設立条件である一〇〇万DPを集めることができれば、ギルドを立ち上げることができるようになります」

「なるほど、それなら上位ランカー以外でも設立できるようになりますね」

 これまでギルドを立ち上げるには特定のダンジョンが一〇〇万DPを供出しなければならなかった。


 この条件を満たせるダンジョンは、基本的にナンバーズかそれに匹敵する上位ランカーに限られてくる。運営としては、組織のトップにあたるダンジョンを人類と敵対する急先鋒に据えることで、ギルドメンバーへ影響を与え、人類と敵対――運営の考える真っ当なダンジョン経営を――させることを狙っていたようなのだ。


 しかし、この共同出資機能により上位陣以外でも、ギルドを立ち上げることができるようになった。


 これにより百番台以下のミドル層はもちろん、<ガイア農園>や<大漁丸>、<俺を乗せて>のような生産系ダンジョンがギルドの立ち上げることも可能となる。間口が広がったことで、ミドル層以下のダンジョンもその恩恵に与れるようになるわけだ。


「ただし共同出資の場合、共同出資者はサブマスターという、発起人であるギルドマスターに近い権限を持つ存在になります。サブマスターは、ギルドマスターの特権であったメンバーの追放や、ギルドダンジョンの構築に一定の権限を持つ、言うなれば共同経営者です。

 サブマスターを追放するためには、ギルドマスター含めた出資者の過半数以上の票が必要となり、逆にサブマスター全員ならびにギルドメンバー過半数の同意があればギルドマスターを追放することさえ可能となります」

「つまり、ワンマン経営の会社から、株式会社に切り替わる感じですかね」

「ええ、平たく言えばそんな感じですね」

「マスター、すいません、ワンマン経営ってなんでしょうか? あと、株式とか?」

「あーごめん、絶対君主制の政治だけだったのに、議会による合議制政治での経営も選択できるようになったというか……」

 ヒロトが言えば、ルークが不思議そうに首を傾げている。農村生まれの少年に、国の政治体系の話をされても何を言っているか分からないに決まっていた。


「キール先生、お願いします」

「あ、俺かよ!? ……あー、つまりだ、えっーと、今までは王様が居て、そいつが全部決めちまう国しか作れなかった。そこから元老院みたいな議会が出来て意見を交わし合いながら政治をする国を作れるようになって……クロエ、頼んだ」


「……ん? 今まで全部お父さんが決めてけど、これからはお母さんやおじいちゃんおばあちゃんとも話し合って決めようって家族が増えてくる感じ?」

「なるほど! 平和になったんですね」

「そ、なんかいい感じになった」

 年少組のやりとりのおかげか、コアルームがどこかほんわかとした空気に包まれる。


「じゃあ、みんな共同経営にしなかったんですか?」

「権限を集中させることで意思決定を早められるなどのメリットはあるからね………ディアさん、お願いします」

「今度は、私ですか……えっと、そうですね、例えば戦いの時、一人の優れた指揮官が全将兵を統率する戦闘部隊と、複数の優れた指揮官がそれぞれ部隊を率いる連合部隊、どちらが強いと思いますか?」

「もちろん一人ですね。複数だと作戦を立てるのに時間が掛かります。最悪はそれぞれの部隊が違う行動を取ってしまうかも知れません……」

「しかし、その一人の指揮官が暗愚だった場合はどうでしょう? 仮にその指揮官が暴走した場合に止められる者がおりませんね?」

「なるほど、どんな組織でも良し悪しがある、ということですね!」

「はい、理解が早くて助かります」

 あれほど苦労していた組織の説明だったが、家族や戦いに例えたら一発だった。誰かに物事を説明したい場合、相手にとって身近な物に例えると、理解が及びやすいというが、その典型的な例と言えよう。


 ルークも理解できたところで、ディアは次の説明に移った。


「ギルド立ち上げ方法だけでなく、今年はギルドバトルにも変更が入りました。変更点は大きく分けて三つ。まずは開催時期と回数の見直しです。昨年は四月と十二月の年二回に分けて開催されましたが、本年度からは年に一度、六月に開催されるのみとなりました」

「あー、これはボクらのせいだね」

 ヒロトの呟きに、ディアは苦笑いを浮かべる。


 年末は冒険者たちの活動が活発化する繁忙期だ。冒険者たちは、スタンピードの規模を抑えるべく積極的にダンジョンに潜り、間引きを行うのだ。

 そんな時期に、ギルドバトル用に戦力を供出していれば、防衛戦力が低下するのは当たり前のことといえよう。


 現に、十二月に開催された年間王者決定戦では、ギルドバトルの真っ最中に、対戦ギルドの戦力が本拠地に乗り込んでくる――あまつさえ、そのままダンジョンを攻略してしまう――という非常事態まで発生している。


 実行犯にあたるヒロトとケンゴは五ツ星級を誇る強力なユニット――将棋でいうなら飛車角レベルの大駒――であり、<俺を乗せて>の協力を得て、上空からダンジョンに直接乗り込むという大幅なショートカットをおこなった上で成功した作戦だった。


 しかし、相手は序列第一位、最強最悪と言われたダンジョン<魔王城>。魔王と四天王と呼ばれる高位の眷属たちが揃っている状態なら、こうもあっさりと攻略はされなかったであろう。冒険者との戦いや、ギルドイベントが重なったことで、ダンジョンの守りが手薄になっていたことが原因なのは間違いない。


 今回は魔王こと、ケンゴの妹であるマシロを救い出すというのが目的だった――そして結果的に迷宮神の陰謀を阻止できた――とはいえ、何の対策も打たなければ、いずれギルドイベントを悪用する輩が出てくるに違いない。


 そのため運営はギルドバトルの開催月を、ダンジョン閑散期にあたる六月に変更したのである。


「そして、ギルドダンジョンへの投資額にも上限を設定しました。今後、<資本金>の多寡に関わらず、一〇〇〇万DPまでしか投資することができなくなります」

 ギルドバトルではこれまで<資本金>の許す限り、投資することができていた。しかし、そうなると大量の<資本金>を用意できる四ツ星級ギルド<闇の軍勢>を筆頭とした上位ギルドによるごり押しが可能となってしまう。


 上限額を設定することで下位のギルドでも、ギルドバトルを制することが可能となってくるのだ。


 また、ギルドバトルにのめり込むあまり、ギルドランクを下げてでも資金投入を行うギルドを防ぐ目的もある。トラブルの温床となりかねないと判断されたようだ。


「なんというか……主様を狙い撃ちにした感じだね」

「仰る通りです、すいませんでした」

 クロエの言葉に、ヒロトはぐうの音も出ない。これらの仕様変更内容は、全てヒロトが行ったルールの隙を突く――戦法を防止するための対策であった。


「元はと言えば、迷宮神がルールを甘く設定したのが原因ですからね。気にする必要はありません」

 ディアはそう言ってフォローをする。


 ガイア神族きってのトリックスターで知られる迷宮神は、ギルドバトルを盛り上げる――恐らく自分が愉しむのが一番の狙いだろうが――ために、あえて隙を作っていたと思われる。


「しかし、奴はもう居ません。これからはビシバシ取り締まっていきますからね」

 ディアが挑戦的な笑みを浮かべて告げる。


 迷宮神が抜けたおかげでダンジョンシステムの運営には穏健派――ディアや<ガイア農園ユウダイ>を担当する大地母神ミルミル、<メラではないメラミ>や<王の剣ケンゴ>を担当する知神リーズといった非迷宮神派閥――の意見が通りやすくなっているという。しかも、首魁を失った迷宮神派は内部分裂を起こしており、むしろ主導権争いでは一歩リードしている状態だ。


 つまり、ディアがその気になればヒロトのバグ技など全て防がれてしまう。


「あーその、どうか、お手柔らかにお願いします」

 ヒロトはそう言って苦笑いを浮かべるのだった。


「ええ、特別扱いはできませんが……話を戻しましょう。最後の変更点ですが、ギルドバトル順位による資本金の加算方式を変更しました。従来の下位ギルドから没収する形ではなく、使用DPが少ないほどが多くの資本金が得られるような形式にしました」

 これまでは下位ギルドがギルドバトルに使用した投資額に応じて、資本金を奪う形であった。しかし、ギルド解散などのトラブルが頻発していたため対策が取られたようだ。


 ギルドバトルで優勝した場合の報奨金――資本金への加算額――は最大で五〇〇〇万DPと決められた。そこからギルドバトルに使用した投資額に準じて、報酬を減算していく形になる。


 使用額一〇〇万DP毎に、二五〇万DPが減っていくそうで、投資額が一〇〇万DP未満なら五〇〇〇万DPが丸ごと手に入り、投資額二〇〇万DP未満なら四七五〇万DPに減らされる。三〇〇万DPなら四五〇〇万DP、四〇〇万で四二五〇万DPと続いていき、上限額である一〇〇〇万DPまで使った場合には、半分の二五〇〇万DPが資本金に加算されるそうだ。


「ちなみに今回は準優勝した場合にも資本金を増やせるようにしました。ルールは優勝時と同じで、基準となる報酬額が二五〇〇万DPになる形ですね」

 一〇〇万DP毎に二五〇万DPが減ることを考えれば増加額は雀の涙だが、ギルドバトルで二位に入っても資本金は得られなかった変更前のことを考えれば、かなり改善されたと思っていいだろう。


 少なくともギルドバトルによる敗北が原因で、ギルド解散などのトラブルが発生することはなくなった。


 ちなみに報酬部分で変わったのは資本金の加算だけで、副賞は変わらないようだ。多額のDPと、いつものチケット三点セット――三ツ(レア)級以上が確約されている〈レアガチャチケット〉、三ツ星級モンスターの〈渦〉が作成可能な〈原初の渦〉、特定の配下をサブマスターにできる〈眷属任命チケット〉――が引き続き贈られるとのこと。


「なんというか、本当にクリーンな……遊びみたいなイベントになったんですね」

「いえ、むしろこれまでが異常だったのです。ギルドの本来の目的はダンジョン同士の交流にあるのですから」

 迷宮神の思惑により色々と歪められてしまったギルド機能だったが、本来はダンジョン同士に横のつながりを作り、お互いの知識を共有、不足する物資を補い合うことで生存率を高めることを目的とした機能だったのである。


「これでみんな――特にランキング下位にあたるダンジョンは、楽になりそうですね」

「ええ、そう願っています」

 ディアはそう言って、目を細める。苦労したかいがあったとでも言いたげな表情である。


 実際、方向転換にはかなりの苦労があったのだろう。それでも先に述べた設立条件の緩和も含め、ディアを筆頭とした穏健派が改革を主導してくれたおかげで、ギルド機能は今後、ダンジョンマスターたちの強い味方として機能してくれるはずである。


「本日はこの辺で失礼します。次のダンジョンに説明へ行ってまいります」

「ん、マシロんとこ?」

 クロエが尋ねると、ディアは頷き、満面の笑みを浮かべる。


「はい、お昼ごはんを用意してくれるそうで」

「食べ過ぎてお腹壊さないようにね」

「言っておきますが、私は子供じゃありませんからね!?」

 ディアはそう答えると、足早にコアルームから去っていった。


「ディア、何だか寂しそうだったけど……なんでだろ」

 その横顔に僅かな憂いを感じ取ったクロエは、不思議そうにつぶやく。


 マシロとはディアは、ダンジョンマスターとサポート担当以上の信頼関係で結ばれている。友達と言い換えてもいいだろう。そんな気の置けない仲間たちと食事に向かうとは思えないような重たい表情だったのだ。


「……というよりも、今日はどこか変だったね」

「ん、ちょっと他人行儀な感じ……?」


「迷宮神のせいで担当外されて、しばらく会えていなかったから緊張してるのかもね」

「もしかしたら、食事会が楽しみでわざとお腹を空かせてて、限界が来たのかも……」

「そんな、子供じゃないんだから……」

「普通の大人は、子供たちのためのパーティで、ケーキを独り占めしたりしない」

「確かにそうなんだけどね」

「そして、それ以上に問題なのは、ディアのために作ってしまったこの巨大なお弁当をどう処理するかだと思う」

 クロエは、そう言ってバケツサイズのお弁当箱を取り出した。


「……ちょっと、暇そうな子供たちを集めてくるね」

 ヒロトはそう言って、コタツから出るのだった。


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