リザルトと乾いた笑い
大筋は変更していませんが、
一部のダンジョン名や、バグ技、設定等、
細々とした部分が書籍版で直しが入っております。
以降、WEB版も書籍版の設定に合わせていきたいと思います。
タイミングを見て直します。
びっくりさせてしまったらごめんなさい。
主な修正点
■<ハニートラップ>戦の時にガチャで引いたレアアイテム
<コスト半減>→<神獣の首輪> 効果:五ツ星級の野生モンスターをテイムできるマスターボール的なやつ
■ダンジョン名の変更
<俺も乗せて>→<俺を乗せて>
■バグ技 ヒロトのダンジョンで、ケンゴのモンスターを育てる
技名なし→<お泊り保育>
他に思い出したら順次ご報告いたします。
「それでは昨年度のダンジョンランキングの報酬をお支払いします」
ディアが言うと、どんちゃん騒ぎを続けていたメンバーも口を閉じた。
「まずランキング第一<魔王城>への報酬です」
贈られたのは多額のDPとチケット三点セットの束だ。ちなみにチケットの内訳は、いつものごとく、三ツ星級以上が確約されている〈レアガチャチケット〉に、三ツ星級モンスターの〈渦〉が作成可能な〈原初の渦〉、特定の配下をサブマスターにできる〈眷属任命チケット〉である。
流石にランキング優勝報酬というだけのことはあり、その額はかなりものとなっていた。更にチケットセットについては縦にしても立つぐらいは分厚い。
「あれ? これだけですか?」
マシロが尋ねると、ディアは申し訳なさそうに答えた。
「はい、本年度よりトロフィーの類は廃止となりました」
これまで事あるごとに報酬に組み込まれてきた記念トロフィーは、ダンジョン経営に有用な特殊効果を持ったアイテムでもあった。
しかし、このトロフィー類は、迷宮神自ら作り上げたアーティファクトであるらしく、製作者が封印状態にある今、作成することができないのだという。
「いえ、そこは別に気にしていないんですけど」
さもありなん。トロフィー類はかなり大きく、金や赤、青などの原色を多用した目が疲れる色合いもあって、悪趣味極まりない容姿をしていた。そのため、ダンジョンマスターたちから非常に評判が悪かったのだ。
もらえるから使うけど、まあなくても困らない類のものだったのである。
しかし、<属性の宝珠>――昨年度、ナンバーズ特典として配られたダンジョンの基本情報を変更できる貴重なアイテム――のようなナンバーズ特典まで消えてしまったのは痛い。
「申し訳ありません。トロフィーと同じ理由で数を揃えることが難しい状況です。当面……我々がシステムを完全に掌握できるまでは特典のほうも中止させてください。その分、DPやチケットを増やしておりますので」
こういった特殊アイテムは、ダンジョンシステムに密接に関係しており、管理者であった迷宮神が居なくなった現状、安易に手を出すのは危険だという判断が下されたようだ。
現在は、システム管理者が育つまで――迷宮神を領袖としていた派閥が内輪もめしているため目途は立っていないそうだ――最低限のシステム保守を続けていく方針なのだという。
「ひとり情シスなのに担当者が突然、退職しちゃった、みたいな感じなのかしらね」
「メラミ先輩、分かる言葉で説明してください」
「うーんと……あげぽよ?」
「ダメだ、この人」
「伝わらないじゃん、掲示板の嘘つき」
ちなみに、ひとり情シスとは、会社のシステムの面倒を見る人間が一人しかいないような状態を指す言葉だ。今の運営のようにシステム管理者――迷宮神――がいなくなった途端、会社の業務が回らなくなってしまう。
メラミあたりを貸し出せばすぐに解決できそうな問題ではあるが、ダンジョンマスターにシステムメンテナンスをさせるわけにもいかないだろう。
「ただ、ナンバーズだけの特典というのも不公平な気がしますよね」
「ええ、それを我々も考えており、特典の見直し案を提出している状況です」
ナンバーズ特典については掲示板でもよく知られており、これらのレアアイテムが欲しいがためにランキング競争が激化してしまっている側面もあった。
例えば二年前、親友であったショウは、ヒロトをだまし討ちしてでも、ナンバーズへの返り咲こうと目論んだ。他にも、このランキング順位を少しでも上げんがために、無理な経営――冒険者などを呼び込み――を行って、逆に攻略されてしまったダンジョンもあったそうだ。
迷宮神はこういった競争原理を働かせるために、ナンバーズやランカーといった風に区別し、報酬面で差をつけ、名実ともに特別扱いしていた節があった。
「こういった特典などを用意しない代わり、下位ダンジョンへの手当を厚くするよう働きかけているのです」
そこでディアを筆頭とした穏健派――他に<ガイア農園>を担当する大地母神ミルミル、<メラではない>や<王の剣>を担当する知神リーズといったダンジョンマスター保護派の神々――は、こうした格差の見直しを行い、ダンジョンマスター全員が利益を得られるような仕組みを考えているのだという。
「なるほど、それなら何も言えないね」
「ん、むしろ良い事だと思う。ディア、ナイス」
「上手くいくといいですね、ディアさん」
「ご理解いただけて何よりです。まあ、これまでに比べて意見が通りやすくなっていますから近いうちに良いご報告ができるかも知れません」
これまで運営の方針は、迷宮神による独壇場であった。この集団転移の発起人であり、システムの管理者であり、最大派閥の首魁であった奴の発言力は高く、ほとんどワンマンといっていい状態だった。
しかし首魁を失った迷宮神派は勢いを失っており、むしろ、派閥内で内部分裂を起こしているそうだ。おかげで少数派だった穏健派の意見も通りやすくなっているという。
「では、次は第二位ヒロト様の<迷路の迷宮>ですね」
「ありがとうございます、ディアさん」
ヒロトはそう言って報酬を受け取る。DPやチケットの数は<魔王城>の半分ほどだったが、母数が大きい分かなりの量となった。
「じゃ、次は私ね」
その後、知神リーズが引き継ぎ、担当ダンジョン――ランキング第四位<メラではない>と第九位<王の剣>――に報酬を配っていく。
<俺を乗せて>や<大漁丸>、<ガイア農園>が報酬を受け取ったところで、ギルドランキングの報酬に移った。
こちらについては、ギルドバトルの支払い同様、ギルドマスターへランキング報酬を支払い、その後、メンバーへと分配する形となっていた。
ギルドへの貢献度などを加味して独自に分配率を変えるなどの可能性が考えられたため、こちらに関しては手を加えるつもりはないようだ。
その後は恒例のチケット交換会である。<眷属任命チケット>が欲しいケンゴと、<レアガチャチケット>の欲しい下位グループでチケット交換が行われていく。
和気あいあいとした雰囲気の中、園長ことユウダイが口を開く。
「それにしてもギルマス、すげー出世したよな」
「え? そ、そうかな……」
「そりゃそうだよ。序列第二位のナンバーズで、同じくナンバーズの<魔王城>と<メラではない>をサブダンジョン化だもんな」
「それだけじゃないよ。この二ダンジョンを配下に収めているということは、実質三ツ星級ギルド三つを支配下においているのと変わらないからね」
困惑するヒロトへ、船長マサルとゴロウ大佐が続く。
「それだけじゃないわよ! ピロト君ったら会長さんと組んで、PKギルドはじめましたって言われてるのよ?」
「メラミッ、ちょっと!」
クロエが慌てて、メラミの口をふさぐ。
「あはは、まあ、実情はこんな感じだけどね」
ヒロトは乾いた笑い声をあげるのだった。




