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閑話 魔王の君臨

「マシロ、今度は北の連中が来た……」

 最近<巨なる暴君>への進化を果たしたティティから報告が上がってくる。


「くそ、連中。また押し付けるつもりか!」

「何てことしてくれんのよ、折角、四カ国との国交正常化したってのに!」

 <魔人狼>ウルトが頭を抱えながら憤り、マシロが声を荒げる。


「いえ、攻め込んで来ないだけで国交を結んだわけでは……」

「ディアさん、そんな事を言っている場合ではありませんわよ?」

 ディアの冷静な突っ込みは<真祖吸血鬼>であるシエルの正論に掻き消される。


「マシロちゃん、とりあえずボクが追い払ってくるよ!!」

 <死霊王>プリムが部隊を編成しに飛び去っていった。


 全員が慌しく動き出し、ダンジョン防衛が始まった。





 ダンジョン公開から二度目の十一月。ダンジョン<魔王城>ではある問題に直面していた。


 近隣ダンジョンによる戦闘部隊の擦り付け問題である。


 遥か昔から戦場として利用されてきた魔王領は付近の霊脈の集合地点となっている。そのためこの地を中心にして霊脈が伸びており、周辺地域には多くのダンジョンが存在していた。


 最も近いダンジョンは東から<孤高の砦>、西に<ギルティ・ギルティ>、南は<バードストライク>、北の<ブルーリボン軍>となっている。


 この四つのダンジョンは初年度の<スタンピード祭り>を始めとする各イベントに欠かさず参加する野心的なダンジョンであり、同時にかなりの曲者でもあった。


 この四ダンジョンは<進攻チケット>の有効期限設定に伴うチケット特別配布、そこで開催された<ポッキー賞味期限騒動>に参加した。


 別に一斉スタンピードに参加するのはいい。別に個人の自由だし、近隣四カ国の国力が削ってくれるならむしろありがたいくらいである。


 ――でも、自分の尻ぐらい自分で拭きなさいよ!!


 スタンピードでは人々が住む集落や軍事拠点を制圧すると、スタンピード後に特別ボーナスが得られる。スタンピード終了まで占拠し続けるか、完全に破壊して使い物にならなくするかのどちらかである。


 基本的には<占拠>の方がポイントが高いのだが、彼等は確実に戦功を確保するため近隣の村々を手に入れると住民を虐殺、物資を略奪した上ですぐに火を放ち<破壊>する。


 そして次の村へ襲い掛かっていくのだが、そこは四カ国だって馬鹿ではない。発生位置が露見している事もあって、すぐに事態を把握し、軍を組織したり、冒険者ギルドと手を組んだりして戦闘部隊を出動させる。


 で、そのスタンピード軍が戦闘部隊と戦ってくれるならいい。しかしボーナスが出ず、手強い戦闘部隊との戦いを嫌う彼等はすぐに逃げ出してしまうのだ。


 その逃げる先というが国境紛争地帯であった魔王領になるわけだ。ここには敵の基地もなければ戦闘部隊もいないいわば空白地帯。しかも敵国との国境も近いため戦闘部隊もうかつに手を出せないのだ。


 しかもダンジョン側の事情など知る由もない各国の戦闘部隊は、魔物の群れが<魔王城>から派兵されたものと勘違い。そのまま戦闘行為に至るというわけである。


 ――なんで、私達ばっかりこんな目に……。


 おかげさまで<魔王城>はてんやわんやである。今月だけで一万人以上の侵入者がやってきていて、防衛部隊はほとんど休みなく戦い続けている。


 ――私達は平和にのんびり暮らして行きたいだけなのに……。


 そもそも初年度に四カ国の軍勢と戦わされたのだって元を正せば連中が<スタンピード祭>に参加したのが原因だ。おかげで人畜無害な<魔王城>は危険度五ツ星級の凶悪ダンジョンのレッテルを貼られた。


 昨年末に<進攻チケット>を使ってしまったのだって四ダンジョンが<クリスマス大作戦>なんてイベントに参加したせいで大量の冒険者がやって来たのが原因といえなくもない。


 ――八割くらいはお酒のせいだけどね!


「あーほんと最悪だわ」

 四人娘は、魔王領に侵入した魔物の群れを追い払ったり、戦闘部隊を迎撃するのに忙しく愚痴なんて聞いている暇はない。


 マシロはやるせない思いを誰かに聞いてもらおうと、あるいは同じような被害にあっている人がいないかとダンジョンメニューを立ち上げた。掲示板には親切な有志の方が立ち上げてくれたまとめサイトがあり、マシロはこの板に掲載されている情報をよく閲覧していた。


――――――――――――――――――

【悲報】オル国TUEEE

【裏山】ワイ、ハーピー娘と朝チュン

……………………

【胸糞】俺氏、魔王様に敵軍なすりつける(new)

――――――――――――――――――


「……ぶっ殺す」

 マシロはちょっと年頃の女の子が出しちゃいけないような低い声でそう言った。








 結局、この板を立ち上げたふざけた輩を特定する事は出来なかった。だけど近隣四ダンジョンは確実に<魔王城>にすり付けをやっているわけで、しかも挨拶もなければ侘びの一つもない。


 有罪は確定。とりあえずマシロ達は<進攻チケット>を使用。四人娘の実質的なリーダであるシエルを留守に残し、二万人にまで増えた戦闘要員を引き連れて近隣ダンジョン征服ツアーに出かけることにした。


「ギルティさーん、あっそびましょー!」

 マシロを先頭にダンジョンに突入する。


 ダンジョン<ギルティ・ギルティ>はダンジョンランキング四三位のランカーダンジョンだ。かつて罪を犯した犯罪者達が送られる鉱山に作られた洞窟型のダンジョンである。


 鉱山地帯でよく使われるゴーレム系の無機物モンスターと、犯罪者の無念から生まれたゾンビやスケルトンといったアンデットが主力のバランスのいいダンジョンである。


 攻め込む。これはダンジョンバトルではない。ダンジョン同士の命を賭けた戦争だ。制限時間は存在せず、どちらかの戦力が枯渇するまで続く泥沼の殺し合いだった。


 多少緊張していたマシロだが、戦ってみれば何という事はない相手だった。序列百位以内のランカーダンジョンといえど序列第一位にして人狼、吸血鬼、死霊、巨人と攻守に優れた<隠れ種族>の大軍勢を押し留められるはずがなかったのだ。


 マシロは部隊の先頭に立ち、攻撃魔法を放った。ダンジョンマスターの潜在能力は四ツ星級と言われている。序列第一位の高位ダンジョンマスターであるマシロの力量はそれに輪をかけて強かった。


 更に彼女は城に残されていた魔導書により、古代魔法を幾つも習得していた。竜種のブレスにも匹敵する古代魔法<地獄の業火ヘルフレイム>や<爆撃>といった範囲攻撃魔法を受けて無事で居られる者などいない。


 道中の罠は感覚に優れた<魔人狼>ウルトが確実に捕捉し解除する。

 敵の数が多ければ<巨いなる暴君>ティティがその封印を解いて暴れまわる。

 猛烈な毒も深い呪いや怪我さえも<死霊王>プリムが即座に癒してくれる。


 隠し通路や鍵付き扉といった足止めギミックは部下が勝手に開けてくれるため、マシロはひたすら魔法をぶっ放していればよかった。


 ダンジョン攻略は僅か二日で完了した。魔王城から敵ダンジョンに到着するまでのほうが時間がかかったくらいだった。


 マシロは<決戦場>に残っていた五〇〇程の魔物を範囲攻撃魔法を連射して軽く屠ると堂々とコアルームに進入する。


「も、申し訳ありませんでした!」

 コアルームには床に頭を付ける小太りの男が居た。マシロは反射的に一歩下がってしまった。ダンジョン<ギルティ・ギルティ>のダンジョンマスターの体型はどことなく自分を無理矢理浚い、犯そうとした元王都グループ社員の男に似ていたのだ。


 マシロは腕組みをして睥睨しているが、その実、全身を襲う悪寒を抑えているだけだ。蛞蝓が口の中を這い回るような感覚。衣服を破かれ素肌を晒す屈辱。何も出来ないと涙を流すしかなかった諦観。


 あの忌まわしい記憶の総てがありありと思い出される。


「もう、二度と、二度とはむかいま――ぎゅ!」

 男が頭を上げようとしたところ、マシロは反射的に踏みつけてしまった。


 マシロは母の教えとレイプ未遂により、男性に触れる事が出来なくなった。しかし虫を潰すような感じで足裏で踏みつける分には問題なく出来るらしい。


「とりあえず、手持ちのチケット類を全て渡しなさい。そうしたら命だけは許してあげる」

 俄然強気になったマシロは、ぐりぐりと後頭部を踏みつけながら命令するのだった。






――――――――――――――――――

【速報】帝国でダンジョン学会設立される

【衝撃】ワイ、サハギンと朝チュン

……………………

【胸スカッ】俺氏、魔王様に〆られる(new)

――――――――――――――――――

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