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迷路の迷宮 作者:パブロン

迷路の入り口

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プロローグ

 人生は迷路だ。

 狭くて、長くて、苦しくて、後にも先にも無機質な時間だけが続いている。





『みなさんも、このように――……』
 長い挨拶。どうしてこうも年寄りは話が長いのか。ヒロトは大きく欠伸をすると体育館の窓に目をやればちらほらと細かな雪が舞っていた。

 ――道理で寒いわけだ。

 ぶるりと身震いをひとつ。四隅に設置された大砲みたいなヒーターが轟々と熱風を吐き出しているが、体育館のど真ん中にいる二年生まではその恩恵にあずかれないのである。

「今年はホワイトクリスマスかぁ」
 左隣から声が届く。その方に目をやれば眉目秀麗なお顔立ちの青年が立っている。

「ロマンチックだよな、ヒロトも思うだろ?」
 幼馴染のショウが尋ねてくる。

「ショウからすればそうだろうけどさ」
 ショウは端正な顔立ちをしているだけでなく、性格も明るく、頭脳明晰、運動神経抜群なんていう三拍子も四拍子も揃った学年一のモテ男である。クリスマスのスケジュールなんてさぞびっしり詰まっている事だろう。

 ショウのようなリア充連中にしてみれば雪化粧した町並みなんてロマンチックでいいのだろうが、一人身のヒロトにとっては迷惑以外の何物でもない。体は冷えるし、道も滑る。電車だって止まるかもしれない。万一積もってしまった翌日から雪掻きをしなくちゃならない。

「まあ、そう言うなって。そうだ、ヒロト、お前も今夜来ないか? クラスの連中を誘ってカラ――」
「あ、大丈夫」
 皆まで言わさず笑顔で断る。その目が笑っていない事に気が付いたのだろう、ショウは気まずそうに顔を歪めた。

「すまん」
「いいよ、別に。気にしてないから」
 なるだけ平坦な声となるよう感情を切り離て答えると壇上へと視線を移した。

 ヒロトは独りだ。それはクラスで孤立しているとかではなく、三年前のクリスマスに大切な家族を失ったのだ。

 ――あの日も今日みたいだったな……。

 憂鬱になる。

 あの日、ヒロト達は父の運転で千葉県にある某テーマパークに向かっていた。高速道路で渋滞が発生し、スピードを緩めた所、後ろからトラックに追突された。

 降雪によるスリップ事故。幸せな一家を襲ったクリスマスの悲劇。事故当日、ニュースではそんな風に伝えられた。

 そんな中、ヒロトだけが助かった。いや、助かってしまった。

 トラックの運転手も死んでいた。運転手が努めていた運送業者は社長から役員まで総出で葬儀に来て謝罪をした。運転手の家族も一家の大黒柱を失った悲しみもある中、参列してくれた。

 ヒロトはこの理不尽に対する怒りを、家族を失った悲しみを、孤独がもたらす苦しみを、空しさを寂しさを誰にぶつける事も出来なかった。

 月日が経つに従い、心の傷は癒えていく。その代償とでもいうのか大切な両親、優しかった姉、可愛かった妹、大好きな彼等の記憶が薄れていく。

 空しさだけが広がっていく。

 ヒロトは無感情に窓を眺め、意識を失った。




 気が付けば真っ白な空間にいる。
 周りを見渡せばクラスメイトがいる。
 突然の事態に皆困惑し、あるいは騒然と――出来なかった。

「――――」
 声を荒げる少年、
「――――」
 悲鳴を上げる少女、

 ――声が、聞こえない……?

「ショウ、聞こえる?」
 幼馴染の肩を叩き、声を出す。

 繰り返す。大きくゆっくりと口を開く。単純な同じ言葉を繰り返せば相手にだって伝わるだろう。

「――」
 ショウは困惑したように首を横に振った。

 聞こえない。

 ショウは口の動きで伝えてきた。

 恐らくはそういう空間なのだろう。原理は分からないが、自分の声は聞こえるし、体は動く。少なくとも視覚、聴覚、触覚は生きているようだ。

 しかし今はこれで良いのではないかとヒロトは思った。この場には一〇〇〇名以上の人間がいるはずだ。ヒロトが通う東部文化高校は一学年につき一〇クラスあり、終業式には殆どの生徒が参加していたはずである。彼らを教育する教師の数だって数え切れない。これだけの人数が無秩序に騒ぎ出したら収集が付かなくなる。

 幸か不幸か音が響かないこの空間がパニックを防いでいる。周囲が混乱していると自分も混乱してしまう。

 ――とはいえ、いつまでもこのままというのは困るな。

 ヒロトは小さく息を吐くと、親友と視線を合わせ、肩をすくめる。

『はいはーい、皆さん注目!』
 ちょうどそんな時、声が聞こえた。音のない世界において脳に直接響く声。この不思議現象の犯人と見て間違いないだろう。

 ヒロトもまた周囲に視線を送り、中空に何かがいる事に気づいた。

 ――天使?

『みんな気付いたかな? 僕は管理者――君達的に言うと神様の使いです』
 鮮やかなプラチナブロンド、白い羽衣、純白の羽、なるほど聖書に出てくる天使そのものである。

 見た目だけは。

 周囲の反応は様々だ。突然の状況に抗議の声を上げる者――声は聞こえないが――超常現象的な存在に悲鳴を上げる者――もちろん聞こえないが――彼等の反応が落ち着くのを待つほど善良な存在ではないのだろう――天使らしき存在は続ける。

『君達には僕等が管理する世界に行ってもらって、ダンジョンマスターになってもらいます――』

 愛らしいその顔にはニタリという嫌らしい笑みを浮かべていた。

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