至難の業
五十嵐老人は、ああ…、と呻きながら手を合わせ、ナンマイダブツ、ナンマイダブツと唱え始めた。
だが五十嵐老人の経文を聴きながらも、繭はゆっくりと大きくなっていく。
風車は狂ったように回り続け、その音だけで、五十嵐老人の呟きはかき消えてしまう。
その音の背後から、吹雪ちゃんの声が聞こえた。
「安彦、聞こえてる?」
吹雪ちゃんが安彦の名前を呼んでくれる、など初めてのことだったので、安彦は破裂しそうな笑顔で振り向いた。
吹雪ちゃんは、その笑顔にげんなりしながら。
「六つの神を同時に祓うって言うのは、かなり難しいのよ。
だから、あんたには一度結界の外に出て、この札を繭それぞれに貼って欲しいの。できるわね」
「もちろんだよ」
笑顔で言ったが、さすがに難しい事は分かった。
「いい。
残念なことに、今回は赤い恋人は使えないの。
繭を刺激して、タイミングが狂ったら、もう手に負えないから。
だから赤い恋人を出さずに、カイコが体に付いたら、付いたまま六つのお札を貼ってきてほしいのよ」
安彦は考えた。
赤い恋人は、体に収めていても小さな霊など弾き飛ばしてしまう。
それを今回はコントロールし、カイコにも体を侵されたまま歩かなければならない。
出来るかどうか、判らなかったが安彦がやるしかなかった。
出来ないと言えば、吹雪か、白尾春奈ちゃんがやることになるだろう…。
「やってみるよ」




