双葉さんの部屋
病院内は、ウジ虫、改めカイコで埋め尽くされていた。
警備員や医療関係者の体にはカイコがびっしりと張り付き、その場にへたれ込んでおり、動けない状況だった。
とにかく双葉さんのいる六階に行こうと、エレベーターへ向かうが、安彦たちにもカイコの群れが、じりじりと床を這って迫っていた。
「あんた、川の土手で泥を止めたみたいなのを、もう一度やってくれる?
あたしたちは、力を温存したいのよ」
「えー、出来るかできないか分からないよ。やってみるけど…」
安彦は、赤い恋人を出して、両手を合わせた。
防御壁のような物が再び現れ、カイコを、バシ、バシ、と弾き出す。
一面の雪をかき分けるようにカイコを弾き飛ばしながら、エレベーターに辿り着き、ドアが開くと、エレベーターのカゴ内にも無数のカイコが、床だけではなく壁や天井まで覆っていた。
「いや…、俺、この手のものが苦手なんだよね…」
牧名正がエレベーターに乗り込むのを尻込みするが、吹雪が。
「じゃあ、ここで待っているのね」
と冷静に言うと、すごすごと乗り込んだ。
病院のエレベーターは、車椅子やベッドも入るように広くなっている。
安彦たちは、カイコと睨み合いながら、六階に行った。
エレベーターの扉が開くと、複数のナースコールが鳴り響いていたが、看護婦たちはカイコに覆われて、カウンター内に倒れていた。
安彦は、防御壁を張りながら、廊下の一番奥、双葉さんの部屋に向かった。
入り口は開いていた。
床も壁も天井も、カイコがびっしりと張り付いていたが、安彦たちはゆっくり前進していった。
近づくと、あの結界の風車が、回転する音が聞こえてきた。
相当な勢いで回っているらしい。
用心しながら近づくと…。
双葉さんのベッドの四隅で風車は回り続け、その外側は、びっしりとカイコが取り囲んでいた。
安彦たちは、カイコを弾き飛ばしながら、結界の中に入って行った。
風車は、ヘリコプター並みの高速で回転していた。
「これじゃあ、いくらも持たないわね…」
吹雪は呟く。
回転すれば、当然に風が生じる。そのため、この結界風車は、首が回るように作られていたが、今や、その横回転だけでは力を逃がしきれないらしく、床に打ち付けた鉄の土台が、グラグラと揺れていた。
「とりあえず、風車が倒れたら終わりよ。
押さえて」
牧名正、伊沢直樹、高嶋裕、それに山本さんが、風車を支えてしゃがんだ。
吹雪ちゃんと白尾春奈ちゃんは、カバンから荷物を取り出し、何か用意していたが。
「なぁ、おい。虫が集まってきていいるんじゃないか?」
安彦は、今まで忘れていた事実に気が付いた。
「皆、カイコが見えるの?」
当人たちは、えっ、と驚き。
「見えるけど…、何か、マズかったか?」
山本さんや五十嵐老人まで、カイコは見えていた。
「病院の人たちにも見えているのかな?」
「外から見た感じでは、一瞬で大発生して窓が割れたようだから、見る時間もなかったんじゃないかしら…」
と白尾春奈ちゃん。
「さ…、殺虫剤で駆除…、とか、できないよね…」
「この風車を見ればわかるでしょ、これは霊障なのよ。力が強すぎて誰にでも見えるだけ」
話している内にも、カイコが入り口から、双葉さんの病室内に侵入をし続け、やがてカイコの山が出来てきた。
「お…、おい、なんか変だぞ!」
牧名正が指差すところでは、山となったカイコが、白い糸を吐いて、大きな繭を作り始めていた。
人間が入れそうな、巨大繭だ。
「それ、こっちにもあるよ…」
と伊沢直樹。
繭は、部屋に六つほど出来上がっていた。




