退魔
パワーシャベルを停めた屋外駐車場に、吹雪ちゃんをはじめ全員が集まっていた。
吹雪ちゃんは、牧名正たちに大きな円を描かせている。
「何、これ?」
合流した安彦が問うと吹雪ちゃんは。
「ま、簡略的な魔方陣と思えばいいわ」
「普通、色々と文字とか入れるもんなんじゃないか?」
と牧名正。
「漫画の読みすぎよ。あんなもんはただの飾り。外と内を区切れさえすればなんだっていいのよ」
言っているうちに円が描けた。
「さ、中に入って。泥がそこまで来ているわよ」
泡消火で泥人間は崩せても、泥自体を防ぐことはできなかった。地下駐車場から溢れ出た泥が、円の周りに集まってくる。
吹雪ちゃんは筆を手に持ち、空中に何か描いて。
「この線は、外と内とを区切るもの。境の神、ちがえしの大神の御名を書き記す」
ぽん、と柏手を打ち、筆で線をなぞると、線が心なしか光った気がした。
ほぼ同時に、泥が安彦たちの周囲に流れ込むが、円の内側には侵入できない。
「継子だからと お山に捨てられ
石の背に乗り お里に帰る」
言いながら吹雪ちゃんはカシマサマの欠片を目の前に置いた。
「鷹の谷間に 放って落ちて
若に拾われ お里へ帰る」
沼倉村で拾った、白い、石ではないが固い物を置く。
「船に乗せられ お島に流れ
漁夫に見つかり お里に帰る」
川の中州で見つけた赤い浮きを置く。
「穴に落とされ 埋められて
殿に知られて お里に帰る」
地下三階で見つけた標本を、目の前に置いた。
パン、と柏手を打ち。
「かしこみ、かしこみ、申し奉る
御神トトサ
これらの称えごとをへ奉り
忌部の弱肩に太たすき取りかけて持ちゆまはり仕え奉れる御幣を
神主祝部等受け賜わりて、事過たず捧げ持ちて奉れと宣う」
ぱん、と柏手を打ち、吹雪ちゃんは空中に何かを筆で書いた。
円の内外の音が、一瞬消えた。
安彦の全身に、鳥肌が走った。
今、安彦は、自分が神に見おろされている、と実感した。
突然、地面が鳴った。
地震かと思ったが、それは笑い声だった。
「中島吹雪…。
なかなか面白い遊びをする」
ごろごろと、安彦たちの足元が笑っていた。
「別に帰ってほしいのならば、帰ってやろう。
さて…、あれ、をお前らはどうするつもりなのか、見せてもらおう」
地鳴りが、爆笑のように轟いた。
安彦は、茫然と、消え去っていく神意を感じていた。
「…あ…、あれ…? もしかして、トトサって、あの蛆虫を退治してくれるつもりだったのかな?」
「みたいね…」
吹雪ちゃんは憮然と言ったが、白尾春奈ちゃんが。
「おそらくトトサと、そのウジ虫、が戦っていたら、この辺りは沼倉村同様になってしまうわ。
吹雪の判断は正解だったのよ」
その時、秩父総合病院の、全ての窓ガラスが、一斉に割れた。




