穴
「ところであんた、本当にアレとトトサが出会えば何とかなると思ってんの?」
吹雪ちゃんが、小声で聞いてきた。
「いや…。無理かもね…」
「無理なのかよ!」
横で聞いてしまったらしい牧名正が叫んだ。
「判らないけど、そうそう自然現象みたいに対消滅、ってわけにもいかないかもしれないじゃない…」
「じゃあ、どうするんだよ?」
牧名正の質問に頷き。
「ほら、歌があったじゃないか」
「歌? 歌って、あの民謡の事か? しかし聞く前にオープンリールが真っ二つだぞ!」
「あの歌詞だよ。
あれって、つまり、なんて言ったっけ…、風林火山みたいな…」
「武田信玄か?」
牧名正に白尾春奈ちゃんが。
「それを言うなら孫氏じゃない?」
「あ、いや…、そうじゃなくて…、自然現状的な…」
風吹がため息をつき。
「もしかして地水火風って言いたいの?」
「あ、そうだよ、そうだよ。
さすが吹雪ちゃん。
で、歌詞にある山は裏山でしょ。水は川、谷の沼倉村が火…、なのかどうかは分からないけど…」
「いや、地水火風に山は無いし…」
牧名正が突っ込む。
「山を、火と例えることも出来るかもしれないわね、谷は風、かしら…」
と、吹雪ちゃんが言った。
「そうだとしても、何が判る、って言うのよ?」
「つまり、相対するものがあるわけだよ。
山は、石の背に乗り、だろ?
谷は若に見つかり。
島は漁夫で、穴は殿」
「だとすると…、どうなるんだ?」
牧名正の問いに安彦はポケットの中のものを取り出した。
「山は石、カシマサンの欠片を持ってきた。
谷は沼倉村、若が何なのか分からなかったけど、この白い、石みたいだけど軽い物を持ってきた。たぶん、何かの骨だよ」
吹雪ちゃんが、安彦の手の、白い、石のような物を触った。
「おそらく…。
人骨、指の骨よ」
げっ…、と叫ぶ牧名正をよそに安彦は続ける。
「で、川の中州で、この赤い釣りの浮きを拾ったんだ。
なんとなく、古そうだろ?」
それは、漆塗りのように朱色に光っていた。
木造のようだ。
牧名正は木の浮きを手に取る。
「骨董品の価値のある浮きなら、かなりいい値が付くぞ。
江戸時代の物とか…」
安彦は、空になった手をひらひらさせて。
「あとは穴なんだけど…」
全員が安彦を注目していた。
安彦はアハハと笑い。
「穴が何なのか、殿が何なのか判らないんだよねぇ」
牧名正は唸った。
「おいおい、泥はそこまで迫ってるんだぞ。
あ…、穴。
穴って言うと地下街とかか?」
「どこに地下街があるって言うのよ!」
吹雪ちゃんが怒りだす。
「ねぇ…」
と白尾春奈ちゃん。
「病院って、都市伝説なのかもしれないけど、必ず地下室があるもんじゃないかしら?」
「あ…!」
全員が叫んでいた。
「泥が迫っている!
地下を探っている時間がない!
高嶋! この際、警察車両を弾き飛ばしてでも、最大速度で病院に走り、時間を稼ぐんだ!」
牧名正が叫んでいた。




