市街地
パワーシャベルが、キャタピラーを軋ませて進み始めた。
トトサの泥は、まだ震えていた。
「でも窪田、坂道を登ってくるような泥だぞ。どこに逃げるんだ?」
牧名正が問う。安彦は。
「逃げるんじゃないよ。
今、一番危ないのは双葉さんなんだ。
秩父総合病院に向かって、双葉さんを助けるのが目的だ!」
「助ける? どうやって? 相手は泥だぞ?」
牧名正は目を丸くする。
「たぶんだけど…」
ちらり、と吹雪を見る。
「俺が見た、双葉さんに祟っている神はトトサじゃないんだ。
このまま、俺たちが病院までトトサを連れて行ったら…。
トトサと、その神がぶつかることになる。
まずは、そこまでトトサを誘導するんだ」
「それで上手くいくのか、中島?」
牧名正は吹雪ちゃんを見た。
「さぁ?
でも、こうなったら、その辺に期待してみるのも一案ね。
差し当たって、今、泥に捕まったら、さすがに死ぬわよ」
「そうだよなぁ…」
牧名正は肩を落とした。
パワーシャベル上で会話しながらも、パワーシャベルは廃工場を曲がって、市街地を轟音を立てながら走り抜けていた。
うわぁ! と伊沢直樹は妙に喜んだ。
「ガルパンみたいだね!」
「意外と速度が出てるよなぁ…」
安彦は驚く。
「メーターは五十キロまであるよ」
高嶋裕は教えた。
パワーシャベルは公道を、制限速度を守って走っていたが、さすがに背後に泥が迫ってきた。
「あれに対抗策はないのかな?」
安彦の問いに吹雪は。
「この戦車に結界を張ってみるけど、それで安全、なんて保証はできないわよ」
そろそろ夕焼の時間が近づいた空の下、泥とパワーシャベルは必死の競争を繰り広げていた。
前に来たときは、今井の殿様と一緒に車で、直接、病院まで飛ばしたので気が付かなかったが、総合病院に近づくにつれ、町は賑やかになってきていた。
コンビニエンスも頻繫にあるし、飲食店の看板も目に付く。
そんな町中を巨大なパワーシャベルが疾走していたが、それ自体はそれほどには驚かれなかった。
なぜなら、その背後にはビルを飲み込むほどの泥の濁流が町を破壊しながら膨れ上がっていたからだ。
電線を切ると、一瞬、泥の中がギラリと輝いた。
路上駐車をしていた車は、泥に弾き飛ばされ、周囲の家屋に突っ込んだ。何が爆発したのかは分からないが、真っ赤な炎が巨人の拳のように広がった。
信号や街灯がバタバタと倒れ、街路樹は、根を噴き上げて吹き飛んだ。
中には、スマホで映像を撮ろうとする猛者もいたが、相手が悪かった。
トトサは、そういう人間を見逃すほど寛容ではなかった。
泥から、瞬間的に巨大な腕が伸びると、猛者を掴んで、泥の中に引き摺り込んだ。
高らかにサイレンを鳴らした、警察車両や消防車が到着したが、迫りくる泥に打つ手はなく、遠くから見守ることしかできなかった。




