表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
77/94

逃亡

前に双葉さんが訪れた時には、沼倉村はまさに沼になっていた、というが、五月になってから雨は一度も降っていない。

川沿いの広い土地は一様に乾き、地面には罅が入っていた。


山が動き、うねり、生えていた木や内部の石が吹きあがっていたが、幸い平地は安定していた。


安彦たちは必死に走り、村の中央部まで到達した。

五十嵐老人が、ああっ、と喘ぎ、倒れてしまう。

怪我は無さそうだったが、これ以上走るのは無理のようだった。


振り返ると、山の木は全て倒れ、土砂が沸騰したように沼倉村へ流れてくる。

とはいえ、元々幼児が遊べるほどの山、というか丘だったので、安彦たちのところまでは土は到達しなさそうだ。


安彦たちは五十嵐老人を囲むように集まった。

茫然と、今だ蠢き続ける山を見ていたが…。


「…ちょっと、あれ…」


高嶋裕が低く囁いた。


彼が指さしているのは、地面だった。

罅割れる程に乾いた土、にしか見えなかったが…。


なにか、小さな白いものが、今しも、土の中からモゾモゾと這い出てこようとしているのが、分かった。

見ていると、それが一つではない。

一瞬、あの巨大ウジ虫か、とも思ったが…。


安彦は、足元の白いものを触ってみた。


石のようだが、もっと軽いものだ。


土の中から、何かが地表に現れようとしている。

その白いものが、数センチ、土から現れたところで、牧名正が叫んだ。


「おい! これ、白骨の指なんじゃないか?」


牧名正の声と同時に、片腕が、罅割れた地面を砕くように飛び出した。


橈骨と尺骨二つの骨に支えられた手根骨、まごうことなき人間の腕の骨だった。


腕の骨は、何かを掴むように、ぐにゃり、と動いたが。

見ているうちに、骨の周囲に、泥で出来た筋組織が纏い付き、その外を泥の皮膚が覆った。


罅割れた地面を突き破って泥の奔流が現れ、そこに数十人の泥人間が立ち上がった。

あまりのことに唖然としていた安彦に、吹雪ちゃんが叫んだ。


「霊障よ! 赤い恋人で対抗して!」


ああ、と安彦は、左手で右肩を開くように触れた。


ごう、と風が撒き、巨大な霊が現れた。


赤い恋人の腕の一閃で、泥人間は吹き飛んだ。


だが…。


「わぁ! こいつら、一瞬で復活するよ」


粉々に砕けても、すぐに泥が骨を包み込み、見る間に泥製の目をぎらつかせた、泥人間に再生し、安彦たちを取り巻くように包囲した。


白尾春奈ちゃんが、「任せて」と言いながら、ポーチから白い紙を取り出した。

それは普通の正方形の紙のようだったが。


春奈ちゃんが空中に投げると、紙が二つに折れ、四つに折れ、ぺらり、とめくれると…。


一羽の折鶴になった。


鶴は一回、パタリ、と羽ばたくと、そのまま宙を飛び、泥人間の首を落とし、別の一体の腕を切断し、次の泥人間の腹を切り裂き、春奈ちゃんの元に戻ってきた。


「凄い…」


安彦が呟くが。


「窪田君の方が凄いわよ。操魔を使って何日もたってないんでしょう?」


「くだらないお喋りは後よ! とにかく逃げないと、いずれ泥につかまるわよ!」


吹雪ちゃんが叫んだ。

吹雪ちゃんは、いつの間にか、小さな弓を手にしていた。


弓を引くと、そこに矢が発生し、矢を泥人間に命中させると、泥人間が爆発する。


「川に向かおう! 水に入れば、泥人間は溶けるかもしれない!」


安彦が叫ぶ。


五十嵐老人を高嶋裕が背負い、全員は沼倉村を抜けて、その先にある川に向かって走った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ