山の祠
「なんで逃げているのよ!」
走りながら、吹雪は叫んだ。
「もう、ちょっとなんだよ。
あと一か所に行けば、たぶん分かると思うんだ!」
安彦は言葉を返しながら、スマホを探った。
マップを出し、やっぱり、と言って。
「その奥の坂道を、そのまま上るんだ!」
滝沢邸の裏庭を横切り、小型車でも通れないような細い道を上っていく。
「どういうこと?」
白尾春奈ちゃんが聞いた。
「滝沢さんは、ほんの幼児の頃から廃工場と裏山を遊び場にしていたんだ。三歳、四歳の子供が、車で何分もかかる場所に一人で遊びには行かないし行かせない、と思って。
マップを見たら、すぐ上だったんだよ。
車で行く場合、迂回して時間がかかるんだ」
「あんた、また工場に行くっていうの!」
吹雪が怒鳴る。
「タゴサとマゴサは交互に祭る神だったんだ。それを何で昭和二十年から同時に祭っていたんだと思う?」
「二十年。確か太平洋戦争が終わった年だっけ?」
と伊沢直樹。
「それが判るって言うの?」
白尾春奈ちゃんが聞いた。
「思った通りなら。祠に行けば、大体のことが判ると思う」
吹雪は盛大にため息をついて。
「馬鹿に火をつけると、本当に止まらなくなるのね!」
「ごめん、もう、ちょっとだから…」
安彦は謝りつつ、坂を上った。
小道を十メートルも登ると、そこは通りを挟んで廃工場の入り口だった。
「こんなん、なってたんだ?」
牧名正は驚いた。
車道を横切り、廃工場の裏手へ回り込む。
そのまま山道を登って、すぐに祠に出た。
「うわぁ…。気味が悪いね」
薄暗い小屋の天井から吊るされた、二柱の木像。
体は、無数の布で包まれていた。
「で、何よ、交互に祭るはずの神像を、いっぺんに祭れた理由って」
吹雪が聞いた。
安彦は、小屋の床を指さした。
「これ…。カシマサマだよ。本当は二柱同時に祭っちゃダメなものだけど、もう一柱、三柱の神として同時に祭ってしまったんだ。
たぶん、1945年、昭和二十年から、おそらく滝沢さんのお母さんが亡くなった年までのぶん、この石の顔があるんじゃないかな」
祠の床には、無数の石が置いてあった。それが、あの写真の顔石なのは、たくさん積みあがっていたので、よく気にして見れば分かった。
ただ、二柱の吊るされた木像の下、地上一メートルぐらいまで壁板があったので、一見では陰になって、見えなかった。
吹雪ちゃんは、むぅ、と唸っていたが。
「で、どういう神様だと思うわけ?」
「俺が知るわけないじゃない。
ここまでは分かったから、あとは師匠に話して、聞いてみてよ」
安彦は吹雪ちゃんにスマホを渡した。
吹雪ちゃんは、おっかなびっくり、スマホを手にしたが、急に背後から男の怒鳴り声がした。
「お前らが泥棒か、ここで何をしている!」
頭の禿げあがったお爺さんが、憤怒の形相で肩で息をしていた。




