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日記5
「私は、しばらくぶりの知的興奮を味わっていた。
詩の意味を吟味したり、再び歌を聞いたりして、一週間を過ごしていた。
そしてY大学病院に行き、山口先生に幻聴はどうなったか、と聞かれて愕然とした。
この一週間、全く幻聴はなくなっていた。風呂も、シャワーも、列車の中も平気だったのだ。
山口先生は、病は気から、と仰り、私もそうか、と思った。
なにも、目が少し見えなくとも、最近では落語のテープも出回っているし、ラジオだって、面白可笑しい番組はいくらでもある。
もっと、気晴らしを自分で見つけていけば、なんとでなるのではないか、と前向きに考えられるようになった。
そして、帰りのタクシーから駅について、私は気が付いた。
前より、僅かだが周りが見えるような気がした。
列車にも、人を避けて歩けたし、気にして窓の外を見てみると、明るい場所は何となくだが、見えるように思ったのだ」
「気のせい、だったのかな?」
伊沢直樹は言ったが、安彦は、この話の結末を知っていた。
その滝沢氏に見下ろされながら、この部屋に入ってきた。




