障りの正体
吹雪は顔色一つ変えるでもなく、カラスの死骸を調べた。
「相当に切れる刃物、しかも骨も切断出来る刃物ね。
さしずめ、銀座のすし屋の出刃包丁ってところかしら?」
安彦も、カラスの首の骨の切断面には気づいていた。
まるで祖父源重郎が切った藁束のように、滑らかな切り口だった。安彦が同じ藁束を切っても、藁は潰れてバラバラになってしまう。
「まるで殺生石のような話ねぇ」
白尾春奈ちゃんは、カラスの死体の三メートル以内には近づかないようにしながら、のんびりと言った。
「せっしょうせき?」
安彦が首を傾げると、イラついた吹雪が解説を加えた。
「九尾の狐よ。
安倍晴明が中国から来た大妖怪、九尾の狐を退治したけど、その死骸は石になり、上空を飛ぶ鳥さえ、力にやられて、空中で息絶え、落ちてきた、って話よ。
そのぐらい、人に聞かないで、隅でググってくれないかしら」
「あー、そう言われれば、知ってる」
安彦は頷いた。
「阿部晴明が裏面のラスボスって話だろ」
逆に吹雪が首を傾げる。
「あー、あのゲームね…」
牧名正が思い出した。
安彦世代の小学生は、誰もが遊んだゲームだった。
「残念ねぇ。吹雪はゲームとかしない子なのよ」
と白尾春奈ちゃんは笑った。
吹雪は怒りだしそうになっていたが、安彦はカラスの死体を巣のある木に運び、簡単に埋めた。
それから、車からティッシュを取るとざっと車の屋根を拭き、自分の手も拭った。
「そろそろ行こうよ」
「まぁ、手を合わせなかったのは褒めてあげるわ」
吹雪は、言うと車に乗り込んだ。
「あ、そう言えば手は合わせなかったなぁ」
「障りのある場所では、迂闊に手を合わせると、寄って来られちゃうこともあるから、気を付けてね」
白尾春奈ちゃんは解説を買って出た。
車が、動き出した。
「これも、障りなのかな?」
安彦は聞いた。
「空中でいきなり首が切断されているのよ。間違いなく障りでしょうね」
「でも、障りって、いったい何なんだろう? 廃工場の重機を倒したり、カラスの首を切ったり、双葉さんも襲おうとしてるし、何か意味があるのかな?」
「霊の考えなんて分からないわ。ある程度、見立てることは出来るけど、それは障りの大本が、どういった類のものなのか、分かった上でのことよ。
社に祭られているものの正体も分からないのでは、迂闊な判断は危険よ」
「だけど、なんとなく廃工場に立ち入られたくない、みたい、って思えないかな。
沼倉さんに話を聞いた直後に双葉さんが襲われてるし、今も廃工場に立ち入った途端にカラスの首が切れるし」
「そう思っても、あんたは滝沢さんの家に行く、っていうのね」
「いや、たぶん…。
昨日の奥さんの感じからしても、双葉さんが危ないんじゃないかな?
たぶん俺たちが、今日一日でどういう成果を上げるか、次第で双葉さんは相当に危険なことになるような気がするんだ」
「まぁ、可能性だけで言えば、そうでしょうね」
車は、やがて陰気な荒れ果てた家に着いた。




