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神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
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旅立ち

「これで車に乗せるものは全部?」


安彦は、首から下げたタオルで汗を拭いた。


昨夜、生首が出現した後、しばらく全員が黙っていたが、安彦は、自分の服から桑の葉が見つかった、と告げた。


「もし、の山が桑畑だったら、だいぶ判ると思うんだよ。


障りには近づかない、でも白尾春奈ちゃんも付いてきてくれる、って言ってるんだ。

もう一度だけ、秩父に行こうよ!」


吹雪は、なにか叫びそうになったが、その前に師匠が言った。


「吹雪、分かってるでしょう。

すでに道は出来ているのよ。真意に逆らって、別の道に逃げたところで、遠回りして同じ場所に戻るだけよ。

あなたが、安彦君や、春奈ちゃんを失いたくないなら、あなた自身の勇気をしぼって、全力で二人を護って見せなさい。

さぁ、吹雪、尻尾を立てるのよ」


芹沢奈々枝さんに説得され、吹雪ちゃんも秩父に行く決心をした。


そして翌日、日曜日、吹雪ちゃんのアパートの前には、大型ワゴン車が停まり、荷物を積み込んでいた。段ボール箱三つ分の道具が、車に運び込まれた。


やがて白尾春奈ちゃんも到着したのだが…。


「ちょっと! 春奈、なに考えてるのよ!」


白尾春奈ちゃんの後ろには、牧名正、伊沢直樹、高嶋裕の三名が付いて来ていた。


「えっ? 白尾さん?」


白尾春奈ちゃんは困った笑顔を浮かべた。


「それが、昨日の話、こいつらも聞いていたみたいなのよ」


「えっ、朝の? でも聞いていたなら、とんでもなくヤバイ話だって分かってるよね?」


「知ってる」


と、牧名正は言った。


「俺は、ずっと中島を誤解していた。一年以上同じクラスにいたのに、だ。

窪田は一週間で、すっかり中島のことを理解して、手を差し伸べていた。

自分が恥ずかしいんだ。だから、協力させてくれ」


後ろで、伊沢直樹と高嶋裕も頷いている。


「あんたたちに何ができるって…」


吹雪ちゃんの言葉を、白尾春奈ちゃんが遮った。


「まぁ、彼らのことぐらいは、私が守れるから、吹雪は窪田君を導いてあげなさい」


白尾さんは、意外と男前にニカァと笑った。


吹雪ちゃんは憮然としていたが、仕方なく車に乗り込んだ。


「あんた、なに、喜んでるのよ」


安彦は何も言っていなかったが、心の喜びが顔に出てしまったようだ。三人の参加に、あるプランを思いついてしまったのだ。


「いや、伊沢君が参加してくれるなら、滝沢さんの自宅も調べられると思ってさ」


「あんた、なに考えてるのよ。それは犯罪よ!」


「いや、でも昨日、奥さんに双葉さんを助けて、って依頼されているんだし…」


ニコニコと安彦は提案した。

吹雪ちゃんは、ハァ、と溜息をつき。


「あんたって、よくあるおバカな推理ドラマの登場人物と一緒よね」


「なにそれ」


「バタバタと連続殺人事件が起こっているのに、自分だけは死なないと思って、面白半分で首を突っ込む頭の悪い登場人物が必ず一人はいるじゃない。


殺人犯は、警察でも足取りがつかめないほど頭もよくって、しかも、ちょっとしたきっかけで人を殺してしまうシリアルキラーなのに、怖いとかいう感性が全くない人物。


言っておくけど、現実では、そういう、逃げる判断も下せない仔羊が一番先に殺されるのよ」


「芹沢先生も控えてくれているんだから大丈夫でしょ」


「師匠がいくら気にかけてくれていても、東京にいる退魔師が、秩父で起こる障りに出来る手立てなんて、ほとんどないのよ」


「心配しないでくれ、中島。

俺だって、牧名竜門作の神刀、橘を借り受けてきた」


と、牧名正は、安彦が木刀だと思っていた白木の棒を突き出した。


「あんた、馬鹿なの! 銃刀法ってものがあるのを知らないの!」


「大丈夫。神刀だから」


よく分からないが、牧名正は請け合った。


「とんだ肝試しになりそうね!」


捨て台詞を吐き、吹雪は精神統一のための瞑想に入った。

車は武州街道に向かっていた。


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