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神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
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桑の葉

安彦は家に帰り、机の上のノートを見て、溜息をついた。


埋めるはずだった三つ、いや四つの謎は、永遠に埋まらなくなってしまった。


① の滝沢氏が聞いた声。

これは、内容は歌を歌ってくれ、という言葉だったと分かったが、歌自体は、地元の者でも年寄りしか知らない民謡、としか分からなかった。


② の双葉さんの話も聞いていない。なんでも、雨でもないのに、タイヤと道路の間に水の入る、なんとか現象が起きた、という。それ自体が不可思議な事象なのだから、双葉さん本人に聞けば、もっと何かが出た可能性も高いだろう。


③ の元従業員の話も、全く分からないままだ。

一応、工場に泥がぶちまけられていた、との話だったが、従業員の反応から察するに、彼らが、村の外から来た奥さんや娘さんへの嫌がらせで泥をまいた、等という単純な話ではなさそうだ。


また、当初安彦が見落としていた、④ の謎、そもそもは何の工場だったのか、も分かっていない。


気になることで頭が一杯だったが、自室の引き戸をノックされた。


「ん、なぁに?」


身の回りのことをしてくれている谷口さんが、制服をクリーニングに出すという。


「え、いいよ、そんなに何日も着ていないし」


染みになるので、駄目だ、と言われた。作ったばかりの赤服を手にし、谷口は驚いた。


「あれぇ、桑の葉ですか、この辺じゃあ珍しいですねぇ」


「え、桑の葉って?」


「今の若い人は知りませんかねぇ。

私らの頃は桑畑で桑の葉を作って養蚕をする農家がたくさんいたもんですよ」


「えっ、養蚕って、富岡製糸場みたいな?」


「そうです、そうです。

あんなに大規模じゃなくても秩父あたりにはたくさんの製糸工場があったんですよ」


安彦は唖然とした。

ここ数日は暑かったので、Yシャツで登校していた。

作ったばかりの赤服を着ていたのは確か…。


「えっ、谷口さんって秩父の人なの!」


「子供の頃に少しいただけですが、なにか?」


「あ…、いや…」


タゴサとマゴサという神様を知らないか、と聞いたが知らないという。

だが秩父には、沢山の霊場があり、秩父三十四か所観音というのだという。

また秩父神社、三峯神社など有名な神社も多いらしいが、今のところは、そういった有名どころには用はなかった。

誰も知らない、マニアックな神様を探しているのだ…。


安彦は慌ててPCで検索し、どうしようか…、と頭を抱えた。


ただ、廃工場の奥の山に、たまたま一本の桑の木があり、その葉が服に付いたのだったら、何でもないことだ。


しかし…。もしも、あの裏山が、元は、例えば昭和五年までは桑畑で、その中心に社があったのだったら、これはほぼ廃工場の正体が製糸工場、という事になる。


それならば、神様の数も絞れるし、障りの正体だって、もしかしたら分かるかもしれないのだ…。

そうしたら、例えば吹雪ちゃんが一人前の退魔師ではないといっても、見立てたのは中島吹雪、という事になり、今井の殿様あたりが後ろ盾についてくれる、というのならば…。


中島永信だって、迂闊に手を出せないかもしれない…。


だが…。

吹雪ちゃんはこの話から手を引きたがっていた。

安彦は、本心を言えば、せめて四つの謎、ぐらいは解明したかった…。

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