依頼
「いやぁ、何度も呼び立てて悪かったね。
吹雪君のおかげで、双葉ちゃんもすっかり調子を取り戻してくれたよ。
本当にありがとう」
「いいえ、あたしは出来ることをしたまでです」
吹雪ちゃんは、硬い口調で言った。
「君の手際は見ていて敬服した。優れた退魔の術だ」
吹雪ちゃんは困惑し、俯いた。
「そこで、ものは相談なのだが、私は中島流は駄目だ、と思っている。
今後、あの物件の退魔を他の者にやらせるつもりなのだが、どうだろう、君が見てくれれば一番良いように思うのだが…」
吹雪は俯いたまま溜息をついた。
「会長、あたしは、まだ一人前の退魔師ではないのです。とくに、あの廃工場のような難しい物件は、私の手に余ります」
安彦も、吹雪がこう言うだろう事は分かっていた。だが一言、声をかけた。
「吹雪ちゃん、お師匠さんはどうなの? お師匠さんがやってくれれば、殿様も助かるんじゃないの?」
吹雪は首を振る。
「師匠は一人仕事の退魔師よ。あの廃工場は一人で手に負える物件じゃないわ。あそこには過去の信仰に端を発する入り乱れた呪が広範囲に広がっているの。
廃工場も、双葉さんの危篤も、同じ呪の表れだと感じるわ。
すると、あの地域全体を覆うような障りが発生している、と見なければならない。
とても一人でやり切れるような退魔ではないのよ。
迂闊に手を出せば、おそらく人死にが出るでしょう。
わたしは、これ以上は、あそこに近づきたくない。そう考えます」
きっぱりと吹雪は言った。
「そうか…、いや、私も退魔のことは何も分からずに、変なことを言って悪かったね。
だが、実際問題として工事ができない、ということは、一日で、何十、何百万もの見込み損が出るということなのだよ。
吹雪君、申し訳ないが、お師匠様から、誰か信頼のおける退魔師を紹介してもらえないだろうか?」
吹雪ちゃんは、ちょっと考え、頷いた。
「師匠に伝えます」




