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神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
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元服の儀式3

なにが、何もしなくてもいい、だ!

ムチャ振りにも程があるではないか!


足音も荒々しく山を登っていくと、目の前に弓と矢が現れた。

と、思うと、はるか彼方に光の点がポゥと灯った。


ええっ! と安彦は固まった。


柔道や空手、それに個人的な理由でキックボクシングなどはやってはいたが、弓は、ほとんどやっていない。

的に矢を淡々と当てるだけ、と言うのも退屈なイメージだし、強そうな感じが全くしない。


二、三度、祖父源重郎の手ほどきを受けた、ぐらいの経験しかなかった。


大体が、和弓と言うのは難しい。


世界の、和弓以外の全ての弓は、弓の中心に矢をつがえるが、和弓は弓の三分の一の部分に矢を持ってくる。


当然、真っ直ぐ飛ばない。

安彦は、幼児の段階で、和弓を投げ捨てていた。


もちろん、熟練した使い手ならば和弓も真っ直ぐに飛ぶ。

有名な三十三間堂の堂内で、天井や梁にも当てずに、端の的まで当てる競技が、江戸時代には盛んに行われてもいた。

が、それは名人上手の技術であり、そうそう簡単に身に付くものではない。


第一、あの小さな炎は、三十三間堂よりもはるかに遠く、的は、より小さい。


今度こそ、本気で逃げ出す算段を、安彦は始めた。

だが相手はおそらく、ここが神の山であることを考えれば、神である。

逃げたところで、無事に帰れる保証はなかった。


安彦は、額から脂汗を滲ませながら考えた。


そう…。


無様に逃げるぐらいなら、とにかく挑戦し、失敗して、神様の方から、残念だったね、帰ってください、ぐらいに言われて帰った方が安全ではないか!


仮に安彦の元服チャンスが、これ一回で、一生元服できなかったとしても、最悪、窪田の家を継げない程度で終わるはずだ。

母方の、谷川のお祖母ちゃんを頼るなり、何とかなるはずだ。幸い学業も底々にはできるし、幼い頃より身に付けた武術の腕もある。

自分でいうのもなんだが、今からやればプロにだってなれるかもしれない。


ゴクリと唾を飲み、息を吐きだした。


弓を手に取り、矢を持った。


理論上、真っ直ぐな矢を射るためには、大きな力を使い、早い矢を射った方が良い。


ただ和弓は、弓の中央を使用しないために、それだけでは飛ばない。弓を持つ手を柔らかく、矢を放つ瞬間、弓が掌で回るように射る必要がある。

安彦も、祖父源重郎や父、道場の大人たちの弓扱いを見ているから、それは判る。

自分では出来ないだけだ。

殴る、蹴る、といった直接戦う武術の方が性に合っていたのだ。


足を大きく開き、大地をしっかりと踏みしめた。


頭上に掲げるように弓を持ち、下におろしながら、弦を引き絞っていく。


窪田流剛体術の呼吸を行い、ギリギリまで弦を引いた。


はるか彼方の炎の点を、静かに狙う。


カンと金属的な音がして、安彦の掌で弓が回った。


吹き消されたように、炎の点が、消えた。


しばらく、安彦は消えた光の点を見つめていた。


まさか、当たるとは思っていなかったが…。


手応えがある、とはこういうことを言うのか、と初めて体感した。


意外と、弓って面白いな…、と安彦は、こんな状態で弓矢の魅力に気が付いていた。




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