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神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
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双葉の病室

美代子さんと一緒に、安彦と吹雪も殿様の車に乗り込んだ。


神様が振動していた。

何かが起ころうとしているようだ。


すっかり夜も暮れた頃、車は秩父の総合病院に着いた。


病院ロビーの自動ドアが開くと、沢山の人がロビーにごった返していた。


「ふぅん、こんなに夜でも、病院が混んでいるんだね。夜間診療でもしているのかな?」


安彦はフロアを見回す。

吹雪は安彦を、チラリと見。


「あんた、あれ、分かる?」


吹雪の指差した先にあったものを見て、安彦は飛び上がった。


「何、あれ! 芋虫、いや、もしかして真っ白い色から見て、巨大だけどウジ虫か!」


手の平から溢れるような巨大なウジ虫が、病院のビニールシートの床で、ウネウネともがいていた。


しかし殿様たちは人込みを走り抜けるように奥のエレベーターに向かっていた。

安彦たちも追いつき、飛び込むようにエレベーターに乗り込んだ。


「吹雪ちゃん、いったいあれは!」

「はっきりとは言えないけれど、これは何かありそうよ…」


確かに…。

安彦の顔の横で、神様もブルブルと震えていた。


エレベーターの数字が六階に灯り、扉が音もなく開いた。


「うわぁ!」


安彦は、背中をエレベーターの壁にぶつけた。


病院の廊下に、溢れるばかりに重なり合って、無数のウジ虫が、蠢いてた。


驚く安彦だが、この極限状況の中、医師や看護師は、何事もないように普通に歩いていた。

医師の足元で、ウジ虫が潰れ、不気味な色の汁が床に飛び散り、医師の靴はドロドロに汚れていたが、全く意に介していなかった。


「吹雪ちゃん、これって…」


「霊障ね、間違いなく…」


殿様や美代子さんは、全くウジ虫が見えていないらしく、どんどん先に進んでいく。


「ついて来なさい」


吹雪が進むと、ウジ虫が、電気で弾かれるようにバチバチと弾け飛んだ。


「凄い、吹雪ちゃん!」


吹雪はチラリと安彦を見て。


「悪いわね。あたしは双葉さんを守るために準備をしなければならないのよ。あんた、先に行ってくれる」


えっ…、と思ったが、情けない姿を見せるわけにもいかなかった。安彦は頷き。


「判った!」


思い切って足を進めた。


安彦が踏みつぶすまでもなく、何かに飛ばされるようにウジ虫は飛ばされ、空中で爆発した。

どうやら安彦に、吹雪は何かの術をかけてくれたようだ。

これならば、と心を励まし、安彦は進んだ。


双葉さんの病室は一番奥のようだった。

開いた、入口ドアから、こぼれる様にウジ虫がはみ出していた。


部屋の中では複数の医師や看護師が、忙しく立ち働いていたが、彼らの体にも容赦なく、ウジ虫が這いあがって、顔や手まで覆っていた。


看護師が、がたん、と躓き、頭を振りながら立ち上がる。


医師たちの動きも緩慢になっていく。


無理もなかった。

もはや医師と言うより、人であるかも分からないほどにウジ虫に覆われていた。


「あんたは、ちょっと部屋を歩いて、ウジ虫を蹴散らして頂戴。これじゃあ結界が張れないわ」


安彦は頷き、部屋を歩き回った。

ウジ虫がどんどん弾け飛び、医師たちも動きやすくなったようだ。


吹雪は、何か呪文を唱えながら、部屋の四隅に長い棒状のものを打ち付けている。その先端は、赤や青、緑といった色の風車になっていた。


風車は、風もない病室で、カラカラと音を立てて回り始めた。


「窪田君、結界の中から、完全にウジ虫を追い払って!」


安彦は、看護師の方のウジ虫を払い、双葉さんのベッドの上も払った。


「まだ、どっかにいるわよ! 見つけ出して潰して!」


安彦は、急いで、ベッドの下やカーテンの影を探した。

最後に、窓際の観葉植物を持ち上げると、一匹、特大の奴がいたので、手で潰した。


風車の音が高まった。


「いいわ! 結界を張るわよ!」


吹雪はブツブツ呪文を唱えながら、四本の風車の周りをゆっくり歩き、指先で、何かを空に描いている。

風車の首が、三百六十度にくるくると回り始める。


安彦はその不思議な光景を見ながら、吹雪を目で追っていたが。


ふと、結界の外を見てしまった。


ウジ虫が、結界の外に山を作って盛り上がっている。

一匹一匹のウジ虫たちが蠢きながら、どんどん山を高くしていくようだ。


そのウジ虫の山の山頂から。


細い手が、ズルズルと突き出ていく。

やがて腕が伸び、肩が現れると、肘を折り曲げ、ウジ虫の山を押すようにして、体を這いあげていく。


「ひっ…」


安彦は引き攣った悲鳴を上げた。


ウジ虫の山から、小柄な少年が現れた。


なにか、恐ろしく首の長い仮面をつけたような少年だ。

仮面は、南洋の森の民のような、細長くて歪な気味の悪い面だった。


吹雪が、高い声で、何かを叫んだ。


瞬間、ウジ虫も少年も、掻き消えた。



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