虫の話
安彦は二日連続でカフェテリアに向かった。
昨日と同じように大盛りどんぶりにご飯を詰め込み、揚げ物のコーナーでコロッケを二つ取り、煮物のカレー鍋に進んだ。中辛と大辛があったので、試しに大辛をかけてみた。
吹雪の指定席はわかっていたので、そこに向かう。
「座ってもいいかな?」
「誰のものでもないんだから、勝手に座ればいいわ」
吹雪は昨日と同じメニューらしかったので、そう言うと。
「残念ね、今日はコーン入りよ」
吹雪の今日のメニューはチリビーンズとコーン入りどんぶりだった。
「だいたい、創意工夫に欠けた人間は、簡単にカレーに走りたがるのよね」
と安彦のランチを批判した。
安彦は批判を受け流しつつ、カレーを口に運ぶ。
「うーん。
大辛という割には普通の辛さかなぁ…」
「いいことを教えてあげるわ。スパイスのコーナーで一味唐辛子と胡椒を加えれば、好みの辛さに調節可能よ」
安彦は早速レジ横のスパイスコーナーで、唐辛子と胡椒を投入した。
「うん。このぐらいは辛くないと、カレーを食べてる気がしないよ」
「ここの麻婆豆腐、そのまま食べてもピンと来ないけど、山椒をスプーン一杯加えると別物よ」
「あ、それ、今度試そう!」
「気づいてないかもしれないけど、ここのチョリソーは、中々よ」
「うわっ、チョリソーまであったんだ!」
「本当は、担々麺があるといいのよね」
「あっ、そうそう、辛い系のラーメン美味しいよね。あ、そういえば、渋谷にトムヤムクンラーメンの美味しい店があるよ」
「トムヤムク…」
吹雪は、涎を垂らさんばかりに絶句した。
「そ…、それは美味しそうねぇ」
思うより、ずっと、吹雪は辛い料理がイケる口のようだ。
「よ…、よかったら、今度行ってみない?」
安彦は精一杯の勇気を振り絞って誘ったが、吹雪の目が、ふっ、とすわった。
「あんた、ちゃんと瞑想しているんでしょうね?」
安彦は、ハハハと笑い。
「毎朝、毎晩してるんだけどさぁ…、必ず雑念が出てきちゃうね。
今朝は、子供の頃飼っていたカブトムシの翅が見たくなって…。ちょっと捲ってみるつもりが…」
喋りながら、食事中の話題ではないな、と気が付いた安彦だったが、吹雪がガッツリと食いついてきた。
「判るわ!
あたしも子供のころ、バッタを捕まえようと思って、飛んで逃げて、それを追って走って走って、思わず足で抑えようと思ったら…」
「ああ。あるよね、バッタ系って、子供が手で持つと、思うよりあっさり足がとれちゃったり!」
「そうなのよ、あのモロさは危険なのよ!
あと、夏になるとコンクリートに落ちている蝉が…」
安彦の予想外に、二人は虫談議で盛り上がっていた。




