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神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
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早朝の戦い

安彦は朝、軽くランニングをして帰ってきた。


昔から、祖父源重郎にたたき起こされ、やっていたが、中学に上がるころからは少し疎かになっていた。しかし吹雪ちゃんの手伝いをするためには、もう一ランク、二ランク上の力を持たなければいけないだろう。


門を潜ると、源重郎に見つかってしまった。


「おお、朝から精が出るな。よし、ちょっと手合わせをしてやろう」


「いいよ、祖父ちゃん。俺は自分のペースでしているんだから」


「まぁ、そういうな」


安彦は道場に引き摺られていった。


これが嫌だから、朝のトレーニングをサボっていたのだ。

祖父源重郎は、こと闘いに対して、決して手を抜くような男ではなかった。

幼少期から、安彦は、投げられ蹴飛ばされ、殴られて、育ってきた。安彦の武術の腕は、主に覚えなければ死んでしまう、という極限状態の中で磨かれてきたものだ。


道場で向かい合うと、さすがの安彦も観念した。

老人とはいえ、源重郎は、まだまだ安彦より数段強い。

だが源重郎に勝てなければ、魔になど勝てないだろう。


安彦は、独自に習ってきたキックボクシングのフットワークを踏んだ。

むろん、源重郎対策で近所のジムに通っていたのだ。


テレビの格闘技戦で見ると、空手にはキックボクシングが有効に思えた。


「ふふん、小癪な…」


源重郎はニタリと笑った。


安彦は源重郎の正面に立たないように、左に回り込みながら、ジャブを打った。


が、源重郎は巨躯であり、巨大な掌で安彦のパンチは受け落とされる。


安彦は、タイミングを見てローキックを放った。


安彦のローは強い。

近所のジムでは、高校生をロー一発で倒している。


源重郎はキックボクシングなど知らないので、もろに道着の太ももにローが突き刺さった。


が、反応がない。


普通、即座に倒れてもおかしくないし、そうでなくとも、顔をしかめるぐらいは当然の当たりなのに、すぐに安彦の顔面に正拳突きが飛んできた。


いい当たりだったので、一瞬、動きを止めてしまった隙をつかれたのだ。


慌ててサイドステップして難を逃れた。


が、冷汗と共に安彦は思った。


こいつ…、ローを知ってやがる…。


武道馬鹿だとは思っていたが、ムエタイかキックボクシングか、ローキックを受けたことも当然あり、しかも防御もしないで真正面から受け、眉一つ動かさないとは!


サイドステップで避けた先に、ブンと唸りを上げて前蹴りが入る。


安彦は飛退いた。


が、前蹴りから、腰を落として回し蹴り、と連続攻撃が続く。


百八十センチの源重郎に連続蹴りを出されると、百五十無い安彦は苦しい。


仕方がないか…。

本当は嫌だが、どうも源重郎の懐に飛び込むしか勝機は無いようだ。


唸るような、とは言うが、源重郎のパンチやキックは本当に唸っている。


鞭の音は、音速を超えた時に出る衝撃波だというが、まさかにそれは無いにしろ、安彦の耳のすぐ横で、源重郎の巨大な足が、音を立てて過ぎていく。


一切の手加減は無かった。


と、言うよりは…。


源重郎に、うっかりローを入れてしまったがために、源重郎の攻撃は逆に勢いが生まれていた。


本気になってしまったのだ。


安彦が、自らキックボクシングを習い、フットワークを駆使してスピードで源重郎に対抗したというのに、本気の源重郎は、スピードでも安彦に負けてはいなかった。


百八十センチ、百キロの巨躯が、舞うように華麗な連続技を、もう数分間も放ち続けている。


シャープな前蹴りが安彦の頭を狙ったとみるや、下段突きと正拳突きの連続攻撃に、ボクシングで言うフックや、アッパーが混ざってくる。


滑るように安彦が距離を取ると、後ろ回し蹴りが安彦の顔面を襲い、距離を潰すと裏拳と掌底が回転する源重郎から放たれる。


いや、むしろ…。


ゾーンに入ってやがる!


絶好調のアスリートのように、八十の源重郎は、むしろ楽し気に技を出しまくっているのだ。


空手技で、これだけの連続技の数々を踊るように続けてくるのは、技術という点でも未だ現役クラスと言わなければなるまい。


そして、体力においてもモンスター級である。


ぶん、と飛んできた正拳を潜り、安彦は源重郎の懐に入ると、そのまま襟を取って投げ落とした。


体重が三桁の男だ。


自重だけでも効くはずだが、相手は源重郎である。


相手の体に覆い被さるように安彦自らの体重も乗せて、投げ落とす。


源重郎は頭から、落ちた。


安彦は素早く裸占めに行こうとするが。


倒れたままの姿勢から、源重郎の掌だけが、ぶん、と飛ぶ。


一瞬で安彦は腕を取られた。

あ、と思った瞬間には安彦は倒され、背後に腕を決められている。


やばい。


あと一センチ動いたら腕が決まる、と言うところで、安彦は剛体術を使った。


ギリ…。


腕が止まる。


だが、背後で源重郎が、ニヘラと笑うのが分かった。


そう。


安彦に剛体術を教えたのが源重郎なのだ。


源重郎は、ゆっくり息を吐いていく。


ギリ…。


マジか…! ここで腕を決めるために剛体術を使うつもりか!


ギシッ…。


安彦の腕に、途方もない力が加わる。


剛体術とはいえ、術であるからには、筋肉量に、その力は比例する。

つまり、体重四十二キロの安彦より、百キロの源重郎の方が、当然に剛体術で発揮されるパワーは大きくなる。


倍以上の体重差であり、むろん筋肉量であった。


ギシ…。


安彦の腕が軋む。


あと五ミリ、動けば腕が決まる。


もし一センチ動かされれば、腕は折れるだろう。


くそ…。


安彦は、もてる最大限の力を腕に込めた。


ギリギリギリ…。


腕が軋んでいく。


安彦は唸った。


ぐぬぅ…。


安彦の唸りと、源重郎の唸りが重なる。


と…。


ふいに力が抜けた。


源重郎が立ち上がった。


「うむ、なかなか良かったぞ。以後も精進を怠るな」


言うと、道場から出ていった。



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