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神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
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瞑想

「ど…、どういう修行をしたらいいのかな?」


滝に打たれる、とか、四国の霊場を巡る、など難しい苦行を連想した安彦だったが、意外にも最初は一回三十分、朝晩の瞑想だけでいいらしかった。


「瞑想って言われても、どうしたらいいのかな?」


「教えるわ。いい加減な本でも読んで、第三の目を開かせよう、とか言われても困るし。

まず、最初に心を空にするために読経や真言を唱えてほしいんだけど、あなた、家の宗教は仏教?」


「うん。家は代々そうだけど…」


「南無阿弥陀仏?」


「ううん。南無妙法蓮華経」


「それなら、それでいいわ。まず頭を空っぽにするために、ずっと唱え続けて心を空にするのよ」


「あんまり、お経とか覚えていないけど…」


「南無妙法蓮華経とだけ唱えれば十分よ。お経も真言も、他のどんな言葉も同じだけど、それ自体に意味を求める必要は全くないのよ。むしろ呪文として、神に向かって言葉を発する、という行為に意味があるの。


黒猫先生も言っていたでしょ。あなたの目の前のもの全てが、息をする空気の一片一片までもが神なのよ。

だから神棚でお経を唱えようが、神社で十字を切ろうが全く問題ないわ。


元々、明治になって強引に寺と神社を分ける前は、それはむしろ当然だったのよ」


安彦は、そんな古いことは判らなかったので、ふーん、と聞いていた。


「あ、でも足とか、こんな風に組むんだよね」


胡坐から、足を組もうとするが痛くてできない。


「全く必要ないわ。

涅槃像と言うのを知っているかしら。仏が横に寝ている仏像」


「なんか外国にあるってテレビで見たかも」


「元々仏陀は苦行に意味は無いって言っているのよ。

瞑想は、自分の楽な姿勢で行えばいい。

胡坐でもいいし、正座でもいいし、横になってもいいのよ」


やってみろ、と言うので安彦は胡坐で経を唱え瞑想に入った。


しばらくは無心でいられたのだが、だんだん雑念が浮かんでくる。


突然、中一の頃のことを思い出した。

クラスの紺野さんと言う女子が好きだったのだが、ふと机に覆い被さって寝ている間に、周りで女子たちが話し始めたのだ。

紺野さんは高等部の男子と付き合っているという。

安彦は、愕然としながら寝たふりをし続けた。


必死に無心になろうとするが、一度浮かんだ雑念は、まるで当時の衝撃そのままに頭に広がり、安彦は、うわぁ、と叫ぶように瞑想を解いた。


「何か雑念にとりつかれたようね」


「吹雪ちゃん、俺、こういうの向かないような気がする…」


「問題ないわ。ただ黙って、いくらでも座っていられるような性格なら、その方がずっと問題なのよ。

いま、あなたの心に浮かんだのは心の滓。

人間は、何も考えずに普通に生活しているように思っても、実際は無意識下で色々な滓にぶつかって、行動を自ら狭めているのよ。


瞑想は、そういう無意識下の心の滓を意識化していく作業なの。

例えば、今日、永信叔父さんの呪を受けて、あなたはどう感じたの?」


安彦は懸命に思い出そうとした。


「なんか、お湯の中に浮かんでいるみたいに気持ちよかったよ。読経がなんか、こう、一定のリズムで体をマッサージしてくれているみたいで…」


吹雪は大きく頷いて。


「それは胎内記憶よ。

人間には皆、お母さんのお腹の中にいた時の記憶を持っている。

普遍的な、心の滓の一つ。


それは心の一番深いところにあるものだけれど、さすがに永信叔父さんは実力者だから、一気に相手の胎内記憶まで掘り下げてしまうのね」


安彦はふと、テレビで見たことを思い出した。


「もしかして、それって生まれる前の記憶とか…」


吹雪はケラケラ笑った。


「馬鹿な催眠術師が子供に催眠術をかけて、術者が言わせたいようなことを誘導尋問のように、逆に子供が見た、と思わせるように言わせているやつね。


まずは未成熟な子供に催眠術をかける、と言う行為が浅はかで非人道的な行為だ、と言っておくわ。

安心しなさい。ちょっと瞑想したぐらいで、そんなものは見えないわ。

それでも、言葉だけなら、そういう場所の言葉はあるわね。アカシックレコードと」


「アカシックレコード?」


「魂が流転していく際の全ての記憶があるそうよ。普通に考えてそんな膨大な情報量を人間の脳がアクセスできるわけもないけど…。


馬鹿な心配をしないで、黙って瞑想しなさい。

しばらくは忘れていた嫌な記憶を思い出したりすると思うけど…」


瞑想の話をしているうちに、すっかり夜も更けてしまった。

安彦は帰ることにするが、心配になっていった。


「俺、吹雪ちゃんは、夜ぐらいは安全に護られて暮らしているんだとばっかり思っていたんだけど…」


吹雪は笑っていった。


「護られているわよ。

このアパートは、全体をしっかり結界を組み上げているわ。ここにいる限り安心よ」


「そうなんだ。でも今日は、何で、あんな遅くに外へ…」


台所に袋が置かれていた。

スーパーの弁当が入っている。

視線を感じて吹雪は顔を赤らめた。


「近所のスーパーでは、十時になると、お弁当が半額なのよ…」


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