神様の呼びかけ2
安彦は走った。
ただ神様の指し示す方角に走った。
どう角を曲がったものか覚えていなかったが、磁石のように方角を示す神様に従った。
やがて大通りに出たので、タクシーを止めた。
どこ、と言えばいいのか一瞬考え。
神泉へ、と声に出した。
吹雪ちゃんは歩いて下校していた。
とにかく、神仙の近くには違いなかった。
むろん、どこからかバスに乗る、とか、あの日は買い物があった、と言った場合もあるのだろうが、神様の指し示してくれている場所は、神泉だ、という不思議な確信があった。
山手通りを南下して神泉に近づいてくると、神様の脈動も激しさを増す。
「その角を曲がってください」
神様を頼りに、安彦は運転手にお願いし、神様の振動の激しさから近くだと判断して、カードで料金を払った。
どのみち学校で使うぐらいなので、財布に現金は千円も入っていない。
安彦は走った。
神様が安彦の前に出て飛んでいるので、間違いようがなかった。
鍋島松濤公園の近くの道を曲がると、白い髪の少女が歩いていた。
そして、数メートル離れて、一人の男が足早に吹雪ちゃんに近づいてきていた。
男が、コンビニ袋を投げ捨てると、その手に銀色の金属が現れたので、安彦はダッシュした。
男も、今や小走りに吹雪ちゃんに迫っている。
窪田流剛体術。
それは力を引き出す術でもあったが、身体強化という側面もある。
ほんの一瞬ではあるが、安彦は短距離選手並みの走力を引き出すことが出来た。
男に飛びつくと、サバイバルナイフを持った腕を取り、剛体術の力で強引に腕を決めると引き倒した。
「あ、あんた、また何やってるのよ!」
吹雪ちゃんが叫ぶが、安彦も叫び返した。
「吹雪ちゃん! こいつ異常だ! 剛体術並みの力を出しているんだ!
訓練も無しにこんな力を出したら、普通の人は死んじゃうよ!」
吹雪にも事情が呑み込めたらしい。
両手の指を複雑に組みと、声にならない、何かを発した。
安彦には分からなかったが、もしかすると、それは、気、と言われるようなものかもしれなかった。
サバイバルナイフの男は、一瞬、ぶるん、と震えると、一気にゴムのように力が抜けた。
安彦は、助かった、と力を緩めるが、吹雪は叫んだ。
「まだよ! 上を見て!」
ふと頭上を見上げると、夜の闇に白い霧のようなものが蠢いていた。
それは瞬間、髪を振り乱した女の顔、のような姿となり、安彦に襲い掛かってきた。
やばい! あの白い霧が魔だとすると、人間にとり憑く、吹雪の言っていた心に入り込むやつだ。このままじゃあ、俺が吹雪ちゃんを襲ってしまう!
思ったが、その時には、すでに霧は安彦の顔を覆っていた。