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神鳴りさんと夕立ちの午後  作者: 六青ゆーせー
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学食2

「いつまで、突っ立ってるつもりよ!」


背中から声が聞こえ、安彦はアセって、カエルでも踏んずけたような声を出してしまった。


「ふ、吹雪ちゃん!」

「いいわ、あたしに付いて来なさい」


吹雪ちゃんは真っ直ぐ炊飯器の前に立ち、大ドンブリにご飯をギューギューと詰め込んだ。

そのままオーブンコーナーで、刻んだゴーダチーズを山盛りにご飯の上に乗せる。

そして、煮物のコーナーの奥に向かった。


赤い、ミートソースみたいなトマト煮風のものだ。


「吹雪ちゃん、それは?」

「チリビーンズよ!」


吹雪ちゃんはゴーダチーズの上からチリビーンズを丼一杯に流し込んだ。

会計に行くと、二百円だという。


「ソース一種で百円、ご飯五十円でチーズ五十円よ」


得々と吹雪は説明した。


「安いねぇ!」


安彦は驚く。


「ご飯と卵なら百円よ」


一食百円とはお財布に優しい食堂だ。

トレイに丼を乗せてテーブルに行こうとしたが、吹雪ちゃんは、待て、と制止して横に行った。

お茶とコーヒーは無料で飲めるのだという。


安彦はお茶を選んだが、吹雪ちゃんは大きいマグカップを選び、コーヒーを並々と注いだ。


「ここのコーヒーはマズくて癖になるのよ」


安彦は思わず笑ってしまった。


「そんなにマズいの?」


「淹れて三時間は立っているわね」


まるで高級ワインのティスティングをするように、吹雪ちゃんはマズいコーヒーを語った。


「香りが飛んで、淹れたての時には気づかない苦さや酸味が現れてくるのよ。

さらに長時間煮込まれることで濃度が増して、ドスンと胃に来る深い臭みとエグっぽさが生まれるのよ。

まさに深夜に入れて早朝を迎えた、誰も客のいないパーキングエリアの風味が再現されているわね」


大真面目に、吹雪は説明した。


「特にここのコーヒーは豆が特別に安いから、雑味が凄いのよね。喉にイガイガとまつわる感じが痺れるわね」


話を聞いているだけで、壮絶な危険物らしく思われてきた液体を、大事そうに揺らさないようにしながら、丸テーブルの間を歩き、やがてテーブル席の一番後ろのガラス戸を抜けて、テラスのテーブルに着いた。


カフェテリアなので、自分のトレイは返さなくてはいけないため、そこまで出てくる人間は殆どいなかった。広いテラス席の反対側で、男子が一人、本を読みながらラーメンを啜っている他は、鴉が三羽、手摺に止まっているきりだった。


テラスの一番端の席に、吹雪のカバンがあった。どうも、ここが吹雪ちゃんの指定席らしい。


「カバンまで持ってくるんだ?」

「あんたも知ってるでしょ。魔はいつでも私を狙っているのよ。カバンも手元に置いておくに限るわ」


椅子に座ると、コーヒーを旨そうに啜った。


安彦は向かいに座り、ドンブリに蓮華を差し入れた。

すると中から、トロトロに溶けたゴーダチーズが絡まったご飯が現れる。

チリビーンズの軽い辛さとトマト味のソース、チーズが合わさり、濃厚な旨味が生み出されていた。


「うっ! うまっ…!」


熱さも相当だった。

ハフハフと口の中に空気を入れながら、安彦は叫んだ。


「そうでしょ」


言いながら吹雪は大盛ドンブリをかき混ぜている。


「豆、トマト、肉、チーズ、そしてチリ、唐辛子。栄養バランスもばっちりなのよ」


吹雪ちゃんは見た目より、ずっと大食だった。山盛りドンブリをモリモリ口に入れていく。


そりゃあ、と吹雪は笑った。


「毎日が戦いだもの。食べられるときに、しっかり食べるのよ」


ちょっと武士のような返答が返ってきた。


「あ、そうだ。吹雪ちゃん、俺、さっきの黒猫先生の授業の時さ…」


安彦は吹雪に謝ろうと思った。


「ああ、あれね。

黒猫先生は心を読めるんだから、仕方ないわよ。あたしも同じことを言われたわ」


ああ、そうか、と安彦は笑った。


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