接触
安彦は部屋のベッドに横たわっていた。
絶対ゼロ霊感の安彦にも見えた、あの巨人。
体は今も筋肉痛だ。
吹雪ちゃんは、だから人を寄せ付けないんだ!
三百六十度地雷原などでは無かった。
仲間に迷惑が掛かってはいけない、と思っての行動だった。
神様が育つまで、吹雪ちゃんは魔に襲われ続ける。
毎日毎日…。
安彦の頭上には赤い球体がフワフワ浮かんでいる。
神様…。
安彦は赤い球体を見つめた。
もし安彦の神様が何らかの力を持てば、少しは吹雪ちゃんを助けられるのかな?
赤き球体は漂い続ける。
触ってみようか…。
不意に、安彦は思った。
思ってから、ハッ、と我に返り、いやいやいやいや、語るだけで死を賜るような神様に、触るなんて有り得ないでしょう、と自分に駄目出しする。
まだ、神学の授業も受けていないんだし、何の知識もなく、迂闊な行動をとって、なんかなったらどうするの?
ベッドの上でジタバタするが、一度、そう頭に浮かんでしまうと、逆に頭から離れなくなってしまった。
なんだか、物凄く触ってみたい!
しばらくは思い悩み、ふと天啓に撃たれるように、滝に打たれて修行するイメージが頭に広がった。
安彦はベッドを跳び起きると浴室に向かった。
シャワーを浴び、特に手を丹念に洗った。
白い、洗濯したての服を着て、神棚のある道場に走った。
神棚の前に正座して、柏手を打ち…。
「…神様、少しだけ触らせてください…」
念じながら頭を下げ、目の前の、赤い球体に手を伸ばした。
安彦の指が、赤い球体に触れた瞬間。
波の音が、体内に響き渡った。
茫洋とした世界で、安彦は波に流され、渦に巻かれて、激しく揺れ踊っていた。
水中?
安彦は、波間を漂うプランクトンになった。
上になり、下になり、右に流れて、左に揺れる。
呼吸は出来る。
寒くも暑くもない。
ただ荒い水流の中で、流れに乗って漂い続ける。
とん、と道場の床に体が倒れ、安彦は気が付いた。
あ…、と安彦は、上空の神様を見上げた。
神様が、心臓のように鼓動していた。