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箱庭物語  作者: カモミール
第1章 始まるサバイバル
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第8話 ~遺跡の最奥と初めての死闘~


 扉を開けると地下へ続く階段があった。だが扉の絵を見たせいか、先の見えない暗闇が一層不気味であった。骸骨はそんな尻込みする璃緒は気にせず、階段を下りていく。璃緒もグッと腹に力を籠めその後に続いた。

 階段を下りた先は一本道だった。しかしそれほど長くはなく、かなり広い部屋に繋がっていた。骸骨はその広間に入る手間で手を合わせ座り込んでしまった。そしてカチャカチャと祈るように何かを喋っている。


「この先に進まないのか?」


 悪いとは思ったが尋ねておく。璃緒の目的はあくまでこのマグ・メルト遺跡の最奥に行くこと。テレポを開いてもクエストクリアとは表示されていない。ということはここはまだ最奥ではないのだ。

 骸骨はこちらをちらりと見た後、微かに首を横に振った。どうやら行く気はないらしい。


「じゃあ俺は進ませてもらうからな。」


 骸骨が何か言いたそうにしていたが、どうせ何を言っているか分からないので、気にせず大広間に足を踏み入れる。すると突然大広間の周囲にボッボッボッと次々に炎が灯される。更には入口にガシャンと鉄の柵が下りてきたことによって脱出することが出来なくなった。


 「何だ!?」


 璃緒はとっさに身構え、能力で身体の服を硬化させながら視線を巡らせ様子を窺う。そして警戒している璃緒の前方数mのところにそいつは降ってきた。うねる蛇の尾に山羊の胴体、鋭い爪にライオンの頭を持つ空想上の生物キマイラだ。


「ガァアアアアアァァアァアァアア!!!!」


「ぐっ・・かあぁ」


 キマイラの咆哮による圧は凄まじく吹き飛ばされる璃緒。地面を転がりながら何とか体制を立て直す。キマイラは唸りながらこちらをじっと見つめている。


「はは、これは死んだか・・?」


 乾いた笑いがこぼれるが笑えない冗談だ。武器はペティナイフのみ。硬化能力があると言っても璃緒の能力は相手に直接的な影響を与えない。あの鋭い爪や牙を防ぐことが果たしてできるだろうか。試す気はないのだが。しかしキマイラを倒さないとどうやら生き残る道は無さそうである。周りを見渡してもこの部屋への道は、さっき閉じられた出口とキマイラの後ろにある同じく鉄柵によって封じられた奥へ続く道だけだ。


 璃緒は深呼吸を2回つき、ナイフを逆手に持ち低く身構える。そして勢いよくキマイラに向かって走り出した。


「(先手必勝!逃げ場の無い今様子見は不要。何かしてくる前に倒す!!)」


 キマイラは向かってくる璃緒に右腕を振り下ろす。璃緒はキマイラが腕を振り上げた直前更に加速しキマイラタイミングを外す。そしてキマイラの左側をナイフで切り付けながら走り抜ける。


「硬いっなくそ!!」


 初撃を与えることには成功したが予想以上に硬い皮膚をしていた。薄皮一枚といったところだ。バクバクと心臓がやけにうるさい。山羊の皮膚ってあんなに硬いものなのかと思うが、そもそも相手は空想上の生き物だ。こちらの常識など当てにならないだろう。すぐに動けたことを褒めたい気分だ。

 キマイラはゆっくりとこちらを振り向いてくる。かすり傷とはいえ傷を負わされたことにより、警戒心が高まってきているのを肌で感じる。キマイラはスゥッと息を吸い込む。


「まさか!?」


「ゴオォォォォォォ!!」


 キマイラの動作を見た璃緒は右に走る。そして嫌な予感通りキマイラは口から赤々と高熱の炎を吐き出した。


「熱っ!!」


 硬い皮膚に強靭な牙爪、おまけに飛び道具まであるなんて勘弁してほしいものである。炎を吐き終えたキマイラは獲物に向かって走り出す。狙うは喉元。喰らいついて抑え込んでしまえば自分の勝ちなのだ。


「(硬い皮膚、離れると炎、ならどうする?内部から?どうやって?)」


 璃緒は迫る脅威から目を背けたくなるのを必死に我慢し、必死に倒す方法を考えながら、キマイラの攻撃を不格好ながらも何とか躱し続けた。爪が頬を掠ったときは漏らしそうになった。吐き出される炎は肌をチリチリと焦がしてくる。相手の目は相変わらず獲物に対するそれで心が折れそうだ。しかしそれでも歯を食いしばり決して相手からは目を離さない。そして強く握り締めて既に感覚がなくなっているが、手に持ったナイフを当て小さいながらも傷を与えていく。


「ガアルアァァアァァァ!!」


「ぐはぁっ!?」


 しかしずっと躱し続けるのは無理があった。キマイラの強靭な腕が璃緒の脇腹に直撃する。そして璃緒はそのまま腕を振り抜かれ吹き飛ばされる。璃緒の能力は触れたものを硬化させる。その防御力は高い。しかし常に発動しているわけではない。そんな事をすればガチガチで体を動かすことが出来ないからだ。なのでキマイラの腕が当たったとき反射で服を硬化させたはいいが、直撃の瞬間は普通の服だ。衝撃によるダメージはしっかりと通る。


「ぐっううぅ・・効いた・・。」


 璃緒は脇腹を押さえ膝をつく。一発でこれだ、次また同じのを喰らうと立てないだろう。視線の先ではキマイラがもう勝負は着いたとばかりに悠然とこちらに歩いてくる。


「くそっ・・?」


 少しふらつきながらも立ち上がる。そしてふとキマイラの足元に転がるそれに目が行く。そこには口の空いたリュックと散らばる荷物。その中のあるものを見て璃緒は一つの作戦を思いついた。無茶で無謀な作戦とも呼べない賭けだがなぶり殺しになるくらいならやってやると、目に力を入れキマイラを睨み付ける。


 璃緒の雰囲気が変わったのを感じたのだろう。キマイラは5mほど離れた場所で歩みを止め璃緒を見つめる。そして「グルルッ」と唸り声をあげ息を吸い込む。


「(チャンス!!)」


 璃緒はキマイラに向かって猛然と走り出す。炎を吐くために必要な溜めはおよそ2秒。その僅かな隙をつきキマイラの足元に転がるそれを拾い上げる。そして炎を吐き出しているキマイラの背後に回り込み、噛みついてくる尻尾の蛇を硬化した服で受け、ナイフを思いっきり振り下ろす。


「しっ!!」


「ガア!?」


 振り抜かれたナイフにより断ち切られた尻尾。驚きと怒りの声をあげ、振り向きながらキマイラは璃緒をかみ砕こうと大口を開けて襲い掛かる。璃緒は右腕以外の身に着けているもの全てに硬化を発動する。キマイラの爪が服を捉え、牙が璃緒の喉笛を食い破るその瞬間、璃緒は手に持つペットボトルをキマイラの口に縦にして突っ込む。勿論硬化している。


「ガッハッ!!??」


 いきなり喉の奥まで侵入してきた異物に(むせ)たような声を出すキマイラ。しかし口を閉じようもペットボトルがつっかえになって閉じることが出来ない。


「おらぁ!!」


 キマイラがガリガリと璃緒の服を引っかき抵抗するが、璃緒は気にも留めずもう片方の腕の能力を解く。そしてそのままキマイラの喉奥目がけて手に持つナイフを突き込んだ。


「ゴフアァ!!」


 悲鳴をあげるキマイラ。首をめちゃくちゃに振り回し璃緒を振り払おうと暴れまわる。璃緒も負けじと堪えはしたが、力の差は歴然でありあっさりと放り出されてしまった。


「ぐっ!!?」


 受け身も碌に取れず地面に落ちる璃緒。しかしキマイラからは目を離さない。璃緒の手から離れたことによりペットボトルの硬化は解けてしまい、キマイラは口からそれを吐き出し璃緒を睨みつける。口からは血なのか黒い液体が滴り落ちているのをみるとナイフはしっかりと刺さっているようだ。


「これで駄目だったのか・・?」


 璃緒からしたら会心の一撃だった。もう一回同じことをやれと言われてできる気がしないくらい正に奇跡と言える。しかしキマイラはふらつきながらも一歩また一歩と近づいてくる。璃緒にはもう手段が尽きてしまっているのでズリズリと後退するしかなかった。


「(食われる・・・!!)」


 璃緒はキマイラの顔が目と鼻の先まで近づいたことで目をギュッと瞑ってしまう。



    ドサッ



 しかし前から聞こえた僅かな音を聞きそっと目を開ける。すると目の前には黒い塵になって消えていくキマイラとカランッと転がるナイフだけが残されていた。



「勝った・・・」



 勝者はそう呟いた。



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