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箱庭物語  作者: カモミール
第1章 始まるサバイバル
4/48

第4話 ~それぞれの思いと一日目の終了~


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふっふっふ~ん、ふ~んふふ~ん♪」


 とある部屋。無数にあるモニターの前でDr.Seedは鼻歌を歌っていた。相も変わらずピエロの恰好でコーヒーを飲み、モニターを見ている。世界中の裏の権力者との取引や、根回しといった準備段階に4年、それと並行して『力』を持つ者たちの捜索、その身辺調査。彼は莫大な金と年月をを(つい)やすことで、ようやくスタートするこの瞬間が堪らなく好きであった。参加者の不安に駆られる表情、絶望、怒り、悲しみ。それらを見ることでやっとゲームを始めることができるのだと実感するからだ。そもそも特に苦労するのが『力』を持つ者の捜索だ。あの忌々しい『異端狩り』という事件で計画が随分と送らされしまった。



 事の始まりは今から66年前、ある一人の女性に不死の力があると世間を騒がせたのが原因だ。彼女がそのことに気づいたのは幼少の頃だったらしいが、我が子が研究材料にされてしまうのではと恐れ、両親は彼女に人目に絶対触れないようにきつく言い聞かせていたのだ。

 しかし彼女が16才の時。動画投稿サイトに、自らの腕を切りその傷口が治っていく様子を撮影した動画を乗せてしまった。ただ自分には特別な力があると、すごいでしょ!と自慢したかったのだろう。小さい頃からあんなに両親から注意されていたのにも関わらず、軽い気持ちで投稿してしまったのだ。


 その動画は瞬く間に広がり有名になった。ネット上で、専門家の間で、様々な憶測が飛び交い、不死身少女現る!!などと言われ始めた。彼女はこの結果に満足だった。芸能人になった気分だった。

 するとどうだろう。同じように私は超能力者であるという人物が次々と出てきたのだ。手から炎を出す人、モノを浮かす人、装備も無しに考えられない時間水中に潜っていられる人なども現れたのだ。今まで隠してきたが同じような人が世界にはいると知り、世界中の能力者が名のり出したのだ。


 そして超能力者の存在が注目され始めたとき事件は起きた。無差別連続爆破事件である。加害者は37才の男でリストラされた腹いせに今まで使うことがなかった自分の力を暴走させたのである。その被害者数は1万人に迫る勢いだった。男は手始めに自分をリストラした会社本社を爆破、倒壊させた。それなりに大手企業であったため本社は高層ビル。そんなものが倒壊したので周りにもかなりの被害が出た。そして男は周りを爆破させながら移動。出動してきた警察とも衝突し甚大な被害を与えたものの頭を狙撃され死亡となった。


 この事件から反能力者の組織が結成された。危険人物として能力者は捕らえるべきだと騒ぎ始めたのだ。これが後に『異端狩り』と呼ばれるものである。一人だけでもあれだけの被害を出したのだ。人数がもっと多ければ?もっと強力な能力もあるのでは?そんな考えが人々に恐怖を与えた。

 そして能力者側はこれに反発。無実で捕まるものかと抵抗、中には『力』を持っていない人たちを無能力者として蔑み、私たちこそが人類を導いていくのだと述べる者も現れる始末。警察組織内でも意見が分かれ、日本中でパニックが起こった。今まで仲が良かった友達が、同僚が、恋人が、実は能力者なのではないかと、疑心暗鬼に陥ってしまっていたのだ。


 しかし『力』が発現する確率は現在の調査で100万人に一人とまで言われるほど稀である。上手く逃げ延びた能力者もいるだろうが、抗争によって次第に能力者は数を減らしていき一端事件は収まった。ことの発端となった少女も、お前が名乗り出なければと騒動の最中、過激派によって頸動脈を切られ、出血多量、ショック死してしまった。そして今でも根強く反能力者の意識は大部分の人たちの中にあるのだ。




 そんな希少な存在を100人集めるのにどれだけ苦労したか。この事件があった為、近年の能力者は『力』を隠す。見つかれば警察が監視するために動く、そうでなくても反能力者たちに何をされるか分かったものではない。下手をすれば殺されるのだ。そして現代、事件を起こす能力者はいるものの、年に10件あれば多いくらいで発生件数は更に減っている。しかしその苦労も今日で報われる。


「さてさて、サバイバル初日終了だぁ~ね。みんな頑張ってくれぇ~よ。」


ピエロは笑っていた。




    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「甘っ!!」


 拠点となる木の上に帰ってきた璃緒。流石にいきなり(かじ)るということはしなかった。水で洗ってから皮を剥く。ナイフなどは持っていないので苦労したが、剥いた皮を二の腕に張り付ける。所謂(いわゆる)パッチテストというのもだ。10分ほど貼り付け、異常はないか確認する。問題なさそうなので舌を付けてみる。舌先に痺れは感じない。少しだけ実を食べる。そこで最初の言葉だ。まず驚くほど甘い。食べたのは小指の爪ほどの大きさだ。だというのに感じた甘さは今まで食べたことのない甘さが口の中にジワーッと広がった。思い切って一口齧る。


「これはっ!!?」


 璃緒から思わず驚きの言葉がでる。まずは圧倒的な甘さ。果肉は梨のようにシャリシャリしている。そして噛めば噛むほど果汁が溢れ、喉を潤す。またほのかに漂う甘い香りがまた食欲をそそらせる。気が付けば取ってきていた果実全部を平らげてしまった。


「はぁぁぁ~。上手かった。見かけによらずなんて上手い果物だ。名前なんて言うんだろうな?

よし決めた、明日も朝一で取りに行こう。」 


 そうと決まれば後は休むだけだ。そして寝床をどうするのか。昔、ロープを木の枝ごと体に括り付けて寝る方法をテレビで見たが、そんな事はしない。テレポを取り出しある項目を探す。


「おし、あったあった。TPも・・足りてるな。」


 璃緒が選択したものそれはハンモックだった。必要TPは250である。森の中、星空を見ながらハンモックに揺られる。ささやかな夢であった。まず枝にしっかりと結びつけそっと寝転がる。ハンモックは璃緒の体重をしっかりと支え静かに揺れる。


「うん、大丈夫そうだな。」


 辺りは暗くなっており、木の葉の間から星々と綺麗な満月が見え始めていた。


「ここは、どこなんだろうな。母さん、父さん心配してるかな。」


 両親には『力』のことを話している。二人は驚き涙を流したが、それでも変わらず温かく迎え入れてくれた。妹も心配してくれた。だから――――


「絶対に生きてここから脱出してやる。」


 そう呟き璃緒は目を閉じた。





  ――――――――同日、別の人々―――――――――



「ここらで夜を明かそう。」


「ん、了~解。みんな~今日はここで寝るぞ~~!!!」


 男が後ろに続く集団に呼びかける。このグループはサバイバルゲームで一番人数の多いグループで、総勢32人とかなりの大所帯だ。リーダーはこのグループの最初の一人、平野田正成(ひらのだ まさしげ)だ。副リーダーは体格も良く明るい性格の坂下拓三さかした たくぞうである。

 彼らのスタート地点は草原であった。平野田はます自分の能力を周りに明かした。みんなも薄々感じていたのか驚きはしたが露骨ではなかった。彼の能力は浮遊。任意のものを浮かべることができるのだ。そして自身を浮かばせ周囲を見渡し、そう遠くない場所に川を発見、そこに行くことにしたのだ。


「よし最初に決めた探索班と寝床作成班に分かれるぞ。探索班は何か食料となるもの、気になるもの何でもいいから周辺を捜索してきてくれ!但し最低でも2人1組で頼む。ここにどんな生物がいるのかどんな場所なのか分からんからな。」


 そして皆平野田の言いつけを守るように2人1組で探索を開始する。残った人たちはそれぞれテレポを操作して大型のテントを呼び出した。本来ならば最初に与えられたTPは1人500TPだ。大型のテント(2000TP)を購入することはできない。しかしここまで来る途中に、ある一人の女性がTPを分け合えると気が付いたのだ。

 彼女はフレンド登録という形でテレポ同士の連絡を可能としたあと、水を購入しようと操作した。その時画面に【~とTP共有しますか?はい・いいえ】というメッセージが現れたのだ。はいを選択するとフレンド側に【~があなたとTP共有しようとしています。許可しますか?はい・いいえ】というメッセージが届く。フレンド側がはいを選ぶと共有成立。今自分が持っているTPとフレンドのTPを合わせたものを購入することが出来たのだ。

 これにより何人か集まればそれなりに高いものが購入できるのようになった。男はまだいいだろうが、女性が地面に寝転がるのは嫌がるだろうと危惧していたのだが幸運だった。


「何とか初日を終えそうだな。」


坂下が肩を叩きながら平野田に明るく話しかける。


「ああ、みんなまだ不安だろう。疲れもあるだろうしできるだけ早く休みたかった。」


「みんなの事考えてるねぇ~、さすがお役所勤務。」


「からかうなって。まあリーダーになったからにはしっかししないとな。」


そうまだ一日目なのである。これからこの集団を率いて、何処かにある鍵を探さないといけない。安全な場所の確保、食料にも不安がある。まだまだ考えなければならないことは多い。


「さて、俺らもテント作りに協力するか。」


「おう!!」


こうして彼らの初日は無事終わりを迎えた。



  ―――――――――――――――――――――


璃緒

所持TP150

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