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魔道王降臨

「また貴女たちですか!」

 ジュピターが叫び、棟梁が思わず吹き出した。

「セーラ、騎士ではなく騎馬になったのかね」

「魔法戦では剣よりも変態魔法ですわ!」

「変態魔法とは失礼な! 私の至高の実業魔法は世界最強です!」

「変態魔法だよね」「失礼かもしれないけれど、変だよね」「変態だな」「五百年の間でも見ない変態ですよ」

 私、お兄ちゃん、棟梁、そしてジュピターまで意見が一致した。っていうかジュピターお前もか。

 サリーはうなりつつセーラさんの背中から降りると、背中の背負袋からベージュ色をした半透明の袋を出し風魔法で膨らませる。袋はなんかタライのような形になり、そしてセーラと自身が乗り込むとそのまま空に飛んできた。

「携帯型飛空タライ! 私とレティーナの共同研究最新作ですよ!」

「「「「「やっぱり変態だ」」」」」

「セーラさん、突き落としますよ」

 冷たい声にセーラさんは慌てて私に手を伸ばす。私は溜息をついてセーラさんにも飛行魔法を付与した。

「つまりあれだ、氷の魔道士ジュピターの目指した幸せな国の魔法、その到達点の一つということか」

「棟梁、それ絶対に違うと思うよ」

 なんか良いこと言った風の表情を浮かべる棟梁に私は突っ込む。うん、なんか五百年前でも見たことないほどジュピターがいらついているのがわかる。

 王都はさらにキノコが次々と生えては道路が食い破られていく。路面が剥がれた下には青白い氷結の光が現れた。それは都市計画に紛れて埋め込まれた方形の魔法陣だ。それもキノコが根を張るたびに切り刻まれていく。

「私もよくわからないのですがー、魔道王の遺産となっている魔法具のエネルギーがこのキノコの栄養源に最高なんですよ。これで王室に独占販売で値段付け放題で研究費がっぽがっぽを狙っていたんですが残念です」

 私たちにとってはすごく都合が良いはずなのに、なぜだろうサリーが敵に見える。

「財政的にはジュピター以上の巨悪だよね、サリーって」

 お兄ちゃんが冷たい声で算盤を構えた。そこだこれ。

 そんなおばかなやり取りをしつつ、既に棟梁とセーラさんはジュピターを襲撃していた。

「この娘の肉体を傷つける気かね!」

「私の剣は敵を屠るのみにあらず! 今の時代は人を生かしてこその騎士だ!」

 セーラさんは叫んで二振りの剣を振るう。その剣はなんと、刃がついていない剣だ。見ると棟梁も剣の刃に覆いをつけて揮っている。ジュピターは氷の槍を次々と現出させながら叫んだ。

「五百年間のうちに! 爆炎は……甘くなったか!」

「ああ、果てしなく甘くなった! 次代の棟梁がマカロンと紅茶を喜ぶぐらいには、だ!」

 私は魔法陣を展開し、漆黒の邪法を呼び覚ます。怪異と絶望が天空に広がる。穢れた血が雨となり、十三本の脚を生やした蜘蛛が這い出た。

「憑物を喰らえ」

 私の声に蜘蛛が三人に飛びつく。途端にジュピターに支配されていたアデリーヌの肉体が青白く輝いた。

「いやああああああああああああああっ!」

 アデリーヌが叫び、全てを押し返すような手つきをすると、アデリーヌから莫大な冷気が発される。私の放った蜘蛛が瞬間に凍結して粉砕され、さらにアデリーヌは自分の喉に手を突っ込んだ。

 喉からずるりと光玉が取り出され、いきなりアデリーヌは脱力する。光玉は巨大な人の姿をとって、その胸にアデリーヌを取り込んだ。

 青白く輝く巨人。それはかつてのジュピターの姿だった。そしてジュピターは私を指差して叫ぶ。

「化物め! 大魔王は本当に化物だ! 何だあの穢れた魔生物は!」

「ダークマターと一緒に腐れ貴族を粛清したときに見つけたんだよ、異世界で。召喚できるようにしたよ」

 彼だって私がどんな戦いをしていたか、全てを知っているわけじゃない。

「あははははははははははははは」

 私は笑った。何が五百年の王位だ。永久に幸せな国だ。全て破壊してやる。破壊に勝るものなどありはしない。

「かははははははははははははは」

 私の両手両足に魔力が集まる。

 天空と大地に魔法陣を展開。

 天空には悪霊の呪詛を、大地には全ての生命力を吸い上げる呪詛を。

 我が胸には破滅の印章を。

「アリス、ちゃん」

 唐突に耳朶を打つ声。紅く染まった私の瞳がアデリーヌの涙を捉えた。

 お兄ちゃんが私を背後から抱きしめる。

「ダメお兄ちゃん!」

 お兄ちゃんの肉体が呪詛の侵食を受けてしまう。慌てて全呪詛の展開を緊急停止。それでもお兄ちゃんの両腕には何本もの裂傷が走っていた。

「アリス、違うぞ。僕たちは、破壊じゃなく、街に帰るんだ」

 あらためて眼下の街に視線を向けた。怯える人たちと気丈に王都の人たちを守ろうとする騎士。

 子どもを必死に抱き抱える母親。

 老人を抱えて店の奥に避難させる店主。

 お互いを守ろうとする若いカップル。

 自主登校中の生徒を避難誘導する、魔法学校の先生方。魔力は弱いはずなのに、体育の先生は本気で肉体で守ろうとまでしている。

 私リルは。私アリスは。

「形勢逆転ですね。人質がやはり効果ありでしたか」

 一気にジュピターが天空へと昇る。巨人の姿すら人間の大きさに見えるほどの高所に飛び、そして彼の上に魔法陣が展開された。

 それは方形化された王都の道路よりも大規模で複雑な魔法陣だ。私の知る魔法陣は円形だから見慣れないけれど、それでも概要は読み取れる。支配と幻惑の魔法陣。

「さあ、永久な幸福を取り戻しましょう」

 私リルは。私アリスは。

 私は。

 「「私の望む幸せは、そんなものじゃないの!」」

 リルの覚醒から初めて、リル・アリスが完全に一致して叫んだ。

 私の体が暗黒の雲に包まれた。


 暗黒雲が吹き去ったあと、私は傷ついたお兄ちゃんを腕の中に抱きしめていた。

 私は全裸になっていた。そして脳内に呪文が広がった。

『魔道王の解禁年齢に達しましたので、全呪力及び装備を解禁します』

 手を広げると、地上にある魔道王の記念館が崩壊し、そこから魔法杖が飛び出して私の手の中に収まる。魔法杖を一振りし、五百年前の予備用戦闘服を異界から召喚して身にまとった。

 うし、サイズぴったり。

 いやちょっと、胸が余る気がするけど。

「アリス? 大人、の?」

 お兄ちゃんが赤くなる。私は戦闘服に仕込んである包帯を魔法でお兄ちゃんの腕に巻いた。治癒魔法も使えず薬草も腐食する大魔王ができる、唯一の応急手当てだ。

「魔道、王だ。少しだけ姿は違うが、伝承の魔道王の、姿だ」

 棟梁が怯えた声を発した。だから私は声をかけた。

「おじさん、大丈夫。また一緒にマカロン食べよう!」

 そしてお兄ちゃんの額に手を当てて声をかけた。

「お兄ちゃん、お願い」

「よしやれ」

 何をとすら聞かないお兄ちゃん最高。

 私はジュピターに向け魔法杖を振りかざして叫んだ。

「超絶演算魔法、開始!」

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