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十歳アリスちゃんは元大魔王でした  作者: hiroliteral
学園ときどきお兄ちゃん
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告白、もう一度

「君たち、ほんっとーに健全な兄妹なんだよね」

 ビアンカさんのじっとりした視線に、お兄ちゃんは慌てて私のフォークから肉を手掴みで奪って口に放り込んだ。ビアンカさんは椅子の上に胡座で座り、何かの作業から戻ってきたのか腰に下げた手拭いで顔をごしごし拭いている。

「なんか先日のそれで、そのままの雰囲気でというか」

 お兄ちゃんはまだ慌てたまま言い訳をして私にちょっと恨みがましい視線を向ける。私は小さくぺろっと舌を出し、てへっと笑って誤魔化した。

 先週の魔法遺物事件で、警備官対応もあったし、何か医者や私の見落としがあると怖いので、お兄ちゃんにはあのあと二日、部屋の中で安静にしていてもらったわけ。もちろん、そんなわけで私も看病と称して一緒にいて。

 さすがにお兄ちゃんも怖かったらしく、その二日間はほんと、私の言うとおりにしていてくれて、これならと悪戯して「はい、あーん」とかやったら普通に受けてくれて。嬉しくなって二日目は三食そんな感じで。

 で、今もちょっとしたときにやってみたら慣れちゃったのか普通に受けてくれたと。

「カンヴァス君、妹は怪しい子なんだから君がしっかりしないと」

「気をつけます」

「って私のどこが怪しい子なの? お兄ちゃんも普通に答えない!」

 ビアンカさんは、はあ、と溜息をついて私の額を指先で突いた。

「あらゆることが、だよ。サリーに聞いたぞ。あの魔法器、大魔王リルにしか反応しない呪文系だったはずだって。まるで五百年前の伝承さながらの魔道王のような魔法を君が駆使したって。そして、その行動だ」

「……ビアンカさん、魔法の話と今のアリスの悪戯は関係ないでしょう」

「関係あるんだよ。アリスはまだ十歳。でももう十歳だ。そろそろ初恋とかいうお年頃だぞ。それでお兄ちゃん、あーん、って何か違わないか」

「アリスは奥手だし、まだ料理を覚えられないからせめて、みたいな」

「この天才児が本気で料理を覚えられない理由は? 同じ家庭環境で育って?」

 ビアンカが目を細めて低い声で言った。

「魔道王だろ、君は」

 いきなり。ビアンカさんが核心を攻めてきた。政府関係者や学者相手は想定済みだけど、まさか寮長からというのは想定外。回答に迷う。

「あー、頭ひねって逃げ口上探さなくていい。君がカンヴァス君に自分の出自叫んだとき、偶然に部屋の前にいたんだ。それに状況証拠がそれしかない」

「私が、魔道王とかありえないでしょう。魔道王は死んだんです。生き返るわけがない」

「アリスの体を乗っ取った」

「乗っ取ったりしてない! この体は初めから私のもの!」

「何で、『私はアリスだ』と言わなかった?」

 しまった。誘導。いや間違いなく私はアリスでもあるんだけど。でもリルとしての部分が生き残っていて。でもアリスの部分は、私はアリスと言い切る割り切りの心が育っていなくて。だから。

 子供っぽい引っかけにかかった。

「でも、アリスはアリスだよ」

 言って。お兄ちゃんは私を右腕で包み込むように抱き寄せた。ふんわりとお兄ちゃんの匂いがする。頬をお兄ちゃんの胸に預けてうっすらと目を閉じてしまう。

「僕、寮長として事実を把握しておきたいだけだ。本当に魔道王ならどうせ勝ち目はないし」

 迷う。お兄ちゃんが私の頭をぽんぽん、と撫でた。もう一度ビアンカを見つめる。理知的な視線だ。もしかしたら、アリスとして出会った中でお兄ちゃん以外では最も理知的な。

「確かに、私はアリスでありリルだよ。でも今は、魔道王とか大魔王じゃない。そんな地位はない、ただの魔法狂のリルだよ。転生だから、この体は私の体。途中で覚醒したから、色々おかしいけど」

「何で、十歳で止まる呪いを?」

「まあ、色々とありまして」

 私は慌てて視線を逸らした。金庫の鍵を金庫の中にしまってしまいました、なんて恥ずかしくて言えない。するとお兄ちゃんは私の頭をゆったりと撫でて言った。

「そっか、大魔王様もドジっ子だったのか」

「お兄ちゃん何それ!」

「アリスがドジして誤魔化すとき、顔を逸らしてつま先で床を蹴るんだよね、癖なのか」

 お兄ちゃんと顔を合わせらんない。

「おー、本当だ蹴ってる蹴ってる」

「うるさいビアンカ燃やすぞ」

 げしげし。もういいやどうでも。

「まあ、本来ならお伽話なんだけど、これで辻褄が合うね。アリスちゃんが急に覚醒したこと、魔道王の魔法を使え、魔道器が反応すること、でも生活は本気で幼いこと、そしてカンヴァス君への愛情」

「愛情って、なんかビアンカさん」

「アリスとしてはお兄ちゃんでも、リルは大人の女性で、カンヴァスは一人の思春期の男子だろ」

 言われて気づく。私は、お兄ちゃんを。いやそんな目で見ているはずがない。

 はずが、ない。本当だろうか。

 恋の経験も無いのに。

「ま、年上の女の経験としてね。女の勘ってやつさ」

 お兄ちゃんが吹き出した。ビアンカさんは意外そうな顔でお兄ちゃんを見る。

「年下で男だとわからんだろうと言っているのに」

「だってビアンカさん、作業ズボン履いて椅子の上にあぐらかいて腰には手拭いって、それで女の勘って」

 私も一緒になって笑ってしまう。

「あのなあ、これでも僕、心も体も乙女なんだぞ! そこまで図星言われて子供にまで笑われると傷つくんだぞ!」

「体だけ乙女の間違いではございませんこと?」

 いきなり背後に現れたセーラさん。ビアンカさんは私たちそっちのけでセーラさんに噛み付く。

「これでも男子を好きになったりするんだよ! 恋愛話も嫌いじゃないぞ!」

「安心しましたわ。そのうちあなたに求婚されたらどうしましょうと恐れていましたの。あなた、せっかくお茶会にお呼びしてもレティーナさんと酒盛りする方がお好きでしょう?」

「そこは単に趣味だけだ、このお嬢様ぶりっ子戦闘狂」

「私のどこが戦闘狂ですの! 私は見てのとおり立派な淑女(レディ)ですわ ! 今すぐあなたを剣の錆にしてあげましょう!」

 いきなりスカートの中から短剣を二本取り出しビアンカさんに飛びかかる。

「望むところだお前を土の中に埋めて肥料にしてやるよ! っつかいきなり戦闘態勢でまんま戦闘狂だろうがこの馬鹿女!」

 お兄ちゃんが黙って首を振り、私の手を握る。私も黙ってうなずき、二人の暴風から離脱する。

 何を言われようが。結局、私とお兄ちゃんは以心伝心なんだ。

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