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十歳アリスちゃんは元大魔王でした  作者: hiroliteral
学園ときどきお兄ちゃん
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兄妹、歓迎会へ

 今日は顔合わせの歓迎会があるとかで、部屋で待つようにビアンカさんの指示を受けた。

 お兄ちゃんは真面目に予習復習を欠かさず、おかげで私もあまり遊び呆けているわけにいかない。何よりアデリーヌのような友達はできていないし、ビアンカさん以外の寮生とも会う機会は無い。そんなわけで宿題をやるんだけど。

 開発魔法理論については私が体系立てた当時とほぼ変わらず、退屈すぎる単純作業だ。先日の授業中には、ちょっと教科書の間違いに気づいたので無意識に修正していたら先生に見つかり、魔力だけではなく理論も天才かもかとか言われる始末。面倒くさいのでオババに聞いたことにした。ごめんオババ。

 楽しいのは安定魔法の授業だ。こっちも元々は開発魔法でできているとはいえ、開発魔法で作った部品をパズルのように組み立てるので、開発魔法から追いかけると煩雑過ぎて考えるのも面倒くさい。

 それを安定魔法独自の手順で考えることで見通しが晴れるということがわかった。ただし部品の種類や流儀が実はろくに整理されていないので覚えることが山ほどある。結局これも面倒臭い。一貫した理論でガツンと計算、一気呵成(いっきかせい)に呪文化して総攻撃、という私には煩わしい。

 でもお兄ちゃんが。

「無理はいけないけど、集中力も必要だぞ」

 お兄ちゃんが私の横で必死に計算し、法律を暗記しているのを見るとやっぱ恥ずかしくなっちゃう。そんなわけで真面目に勉強する羽目になるわけだ。

 お兄ちゃんはやっと宿題が終わったらしくベッドに寝転がる。私も真似して自分のベッドに飛び込む。まぶたが重くなる。クマちゃんのぬいぐるみを家から持ってきたら良かったのに。もう大人だから大丈夫、だなんて意地はらなきゃ良かった。

 いやそんなことより。

 私は立ち上がり、いきなりお兄ちゃんの上に飛び乗った。

「アリス、重いぞ」

「私、重くなったかな」

 ふっ、とお兄ちゃんの視線が逸れて笑顔で答える。

「アリスは相変わらずスタイルが良いね。将来は美人さんになるよ」

 ありがと、と言ってお兄ちゃんの胸に顔を埋めた。

 知ってる。お兄ちゃんは違うことを思ったこと。私リルが覚醒した日から私は。

 もう十一歳になるはずの私は、普通なら自宅の服のサイズが合わなくなるはずだ。

 年齢から言えば、体つきも変わってきて当たり前。

 お兄ちゃんにはわからないかもしれないけど、魔力も年齢とともに変わることは理論化されている。

 でも何一つ、あの覚醒した日から変わらない。

 私はすっかり成長が止まっている。

 ずっと、私は十歳のままだ。

 優しくお兄ちゃんの腕が私の体を包み込み、頭がそっと撫でられる。また瞼が重くなってくる。

「慌てなくていいよ。アリスはアリスだから。ずっと僕の大事な、妹だからね」

 お兄ちゃん、と声をかけ、何だか気恥ずかしくなって再びお兄ちゃんの胸に顔を埋める。背中に腕を回し、ぎゅっとしがみつく。

 前向きに考えよう。誰にも甘えられなかったリルに、思い切り甘えられる時間が与えられたんだって。

 私は今の時間を手放したくなくって、ぎゅっとお兄ちゃんの腕を抱きしめた。


 遂に歓迎会の時間がやってきた。こんこん、と部屋の戸を叩く音が聞こえる。失礼の無いように、お兄ちゃんは制服、私は藤色のワンピース姿で顔を見合わせた。

 お兄ちゃんがそっと戸を開けると、ビアンカさんがいかにも魔法戦闘コースらしい、革のパンツに革ジャケットといういでたちで立っていた。ご丁寧にも頬には森林用の迷彩メイクをしている。それ、歓迎会の服装ですかと訊いてみたいいところだが、あまりに堂々としているので聞くに聞けない。

「歓迎会の用意ができたから行こうか」

「ビアンカさんは、なんかこう、格好良い服装ですね」

「わかっているね君。僕は堅苦しい服装が嫌いで実用的なものが大好きさ。こういう大切な場では、自分の力を発揮出来る格好がよろしい」

 そうですね、と言ってお兄ちゃんは腰を叩いてポケットの算盤を叩いた。

 事前に何回か得意なことを訊かれていたので、お兄ちゃんは用心に算盤を持つことにしたわけ。私も腰の真新しい魔法杖に触れる。まだ慣れない安定魔法だと魔法杖の補助が欲しいが、開発魔法なら無くても困らない。ただ、お兄ちゃんに心配させないために持っただけの話だ。

 どんな歓迎会なのかな、とお兄ちゃんは笑顔で語りかけてくる。楽しみだね、と返しつつ私は先導するビアンカさんの背中を見つめる。隙の無い歩き、軽い緊張感。

 単に寮長の緊張なのか、それとも何か企んでいるのか。幾らビアンカさんが男の子っぽいとはいえ、今日の服装は度が過ぎている気がする。お兄ちゃんはどうもぬるい。

 そのぬるい温かさが大好きなんだけど。

 お兄ちゃんと手をつないだまま、私たちは大食堂の前に着いた。やはり、普段は談話室として使っているからと開放している扉が、今日に限ってぴったりと閉じている。ご丁寧にも、扉の向こうの物音が聞こえないよう防音の魔法まで施している。何か嫌な胸騒ぎがする。

 もう一度、私はお兄ちゃんの手をしっかりと握った。お兄ちゃんが優しく握り返してくれる。

 ビアンカさんはゆっくりと扉を開けた。

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