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7ページ目 卓球勝負

回線トラブルなどもあって三日ぶりとなります。今回もよろしくお願いします。

「いつも決闘じゃつまんないだろうしたまには別の対戦方法にしたら?」

(絶対何かたくらんでますね……)


ザイラスの決闘申し込み記録と連敗が20に伸びたその日、闘技場に現れたドラ猫はそんなことを言い出した。それを聞いて即座に嫌な予感しかしないと感じる明花。


「別の対戦方法だと?」

「そうだ。まぁこれも決闘としてはありだと思うよ? とりあえず疲れただろうし……風呂? テルマエ? 湯浴び? ……まぁなんでもいいから汗を流してくるといい」

「ほう……入浴ができるのか……ありがたく使わせてもらおう」


先日オープンした露天風呂は常連客にも評判になっていた。何せ日本人よりそれ以外、そもそも地球人ではない連中のほうが多いので物珍しく感じるのは当然の流れであった。


なお、入浴マナーなんて細かいことは教えていない。そこは世界の狭間流である。


「君もせっかくだしひとっ風呂……」

「さて、何を企んでいるんですか?」

「信用ない! 僕そんなに信用ない!?」

「少なくとも今日の朝からそわそわしている時点で信用ないです」


ガーンという擬音がよく似合うようにうなだれるドラ猫。今更だが二足歩行で猫が歩いても誰も気にしない。日本人でも気にしない。まぁアニメとかで見慣れているという原因もありそうだが。


「ホントに大丈夫だから! やましいこととか考えてない!」

「ホントですかねぇ……」


ジト目でドラ猫を見る明花。やはり信用はない。


「とにかく! 君も入ってくるといい! 先に言っておくけど隠しカメラなんて探してもないからな!」


               ○

以前のトラウマ(胸揉まれ)があるので若干露天風呂に来るのは抵抗があったが、実際、汗はかいていた。その状態で何かをするのは相手がいる以上失礼にあたる。そう思い、彼女は更衣室に向かう。


(……本当にないようですね。ドラ猫さんには悪いことをしてしまったでしょうか)


更衣室をひとしきり探して監視カメラがないかを確認する。本人? が言うように隠しカメラ、盗聴器のようなものは見当たらなかかった。ドラ猫を疑ったことに若干の罪悪感を覚える明花。とりあえず汗を流そうと風呂へと向かう。……しかし、彼女はもう少し考え、警戒するべきであった。なぜ風呂に入るように言ったのか、そしてドラ猫が何をしようとしていたのか。


「フフフフ……」


そして彼女が風呂場に行くのを見計らっていたこのドラ猫がドアの外にスタンばってたことを。


 


(あのドラ猫ー!)


明花は風呂からあがって服を入れておいたはずの籠を見た瞬間、ドラ猫の真意をつかんだ。普段着ているゆったり目で胸が目立たない服や長めのスカートなどがなく、代わりに置いてあったのは浴衣。温泉、浴衣、対決といえばもうお分かりだろう。ドラ猫は彼女に卓球をやらせようとしているのだ。


(そういうことですか……カメラを仕掛けて見たら倫理に反しますが、浴衣を着た状態で卓球をした結果起きたハプニングは合法……そう言いたいのですねあのバカ猫さんは!)


ドラ猫がバカ猫にランクアップしているとかそんな事実はどうでもいいが、明花の予想は当たっていた。わざわざ卓球を選んだのは風情もあるが明花の予想したようなことが目的の大半であった。


(そういうことならこちらにも考えがあります……思い通りにはさせませんよ?)


                  ○

やはりというべきか卓球で勝負であることがドラ猫から告げられ、首を絞めたくなる明花だったが、すでに対戦場には来客があった。


「あの……セルディレルさん、どうしてこちらに?」

「いやー! そこのドラ猫さんから面白いものが見れると聞いての、史料探しのついでにきたっとわけじゃ……うぃ」

(すでに酔っているのでは? ってこれよく見たらグラスの中身ビールだ……どこからもってきたんでしょう?)


以前来た冒険者たちにここを紹介したある世界の賢者セルディレルが呼ばれてきていた。他にも顔なじみの来館客の姿が多く見える。おまけにおっさんや爺さんが多いからか軽く宴会になったらしくすでに酔いが回っているらしい。


「しかし、司書の嬢ちゃん、いい体しとるの? ちょっと触らせて……」

「そういうエッチなことはダメです。酔っ払ってても容赦はしませんから」

「いだだだだだ! 嬢ちゃん痛い! 痛いぞい!」


ギリギリと明花が使う腕から頭蓋骨が悲鳴を上げている音がするような気もするが気にしない。なぜならここは夢の世界なのだから。


ただ、セルディレルの言うことも一理はあった。普段は胸を意識したくないため、割とゆったりした服を着ることが多いがこの浴衣はほぼサイズがぴったり。そのため、なんだか色気というものが数割増しになっていた。当然本人も気づいているので言葉とは裏腹に結構真っ赤になっていたりする。


どうこの場を切り抜けるかを考えていると首謀者が姿を現した。


「さぁ皆さんお待たせいたしました! これより大図書館司書、天ヶ崎明花とザイラス第二皇子による卓球対決始めるぞー!」

「よっしゃああああ!」

「まってましたぁぁぁ!」


その開始宣言に合わせて周りの観客たちも歓声を上げる。ずいぶん根回しをしたようで男性中心に卓球台の周りには多くの人が集まっている。少なくとも物理的にこの場を切り抜けるのは難しいと明花は判断した。


「フフフ……俺の力、今度こそ証明してみせる!」

(そういえば卓球のルールとか知っているのでしょうか?)


ふと、そもそもザイラスは卓球のルールを知っているのかという疑問にたどりつく。割と簡単ではあるが地球のスポーツなのである。知らないと思って先にサーブするザイラスの様子をうかがう明花。


「行くぞ!」


気合を入れたと同時にボールをラケットに当てる。そのボールは一直線にこちらへと向かってくる。一直線にである。


「はっ!」

「ニャっ!? 危ないじゃないか! こちらにボールを弾き返すのは!」


そのボールをドラ猫の方に向けて弾き返す。危ないと言うがそもそもの問題があった。


「ドラ猫さん、やるならせめてルールぐらいは教えておいてもらえません?」

「何!? 違うのか?」

「……ドラ猫さんからなんて教わりました?」

「ボールを打ち合って点を取り合うゲームだと聞いたが?」

「…………」


とりあえず、ルールをはっきり理解していないということだけは確かなようだった。


               ○

「よし、ルールは理解したし、始めるぞ! 今日こそお前に勝つ!」

「お手柔らかに♪」

「明花ちゃんかわいいよ!」

(すごく、やりにくい……)


営業スマイルを浮かべるが周りはさらにボルテージが上昇している。やりにくさを覚えながらのスタートとなった。


「そらっ! くっ! この!」


初体験であろう卓球に苦戦しながらも徐々にコツをつかむザイラスに明花は舌を巻いた。


(ザイラスさんは基本的になんでもやればできるんですが……飽きっぽいようなんですよね。突き詰めればたぶん第一人者にも劣らないんでしょうけど……)


ただそんな飽きっぽい彼でも明花に勝つということにはずいぶんと執着しているようにも見える。実際、彼は明花を超えるためにそろそろ修行の旅に出ようと考え始めていた。


「スピンサーブ!」

「!? もうそんな技術まで!?」


中学時には卓球部に所属していたこともある明花からすればスピンサーブを使うこと自体に不思議は感じない。しかし、始めたばかりの初心者がこうもきれいに決めてくるのは想定外であった。


(久しぶりに楽しめそうですね……さて、その前に一つ)

「ニャぶし! 僕に恨みでもあるのか明花!」

「すいません、手元が滑って♪」


彼女の眼にも徐々に闘志の炎が燃え盛りつつあった。ただし、原因の猫に一発くれてやることは忘れない。ある意味での感謝の意味はあったが。


さて、一方でギャラリーたち。卓球という道のスポーツの説明は先ほど明花がしてくれたこともあり試合も楽しんでいたがそれ以上に釘付けになっていたものがる。


(おおっ……おおっ! 揺れて揺れる! なんという眼福!)

(浴衣のはだけ具合もまたいい!)

(いやいや、あの健康的な汗、そしてそれによってもたらされる浴衣の湿り気具合! なんともよいエロスだ!)


一言でまとめると卓球をしている明花そのものに釘づけになっていた。徐々に白熱していく戦いで双方ともに汗をかきながらも死力を尽くす。結果として汗をかきながら浴衣でスポーツするエロいお姉さんというものが目の前に現れることになった。


「ハァ……ハァ……私の勝ちですね」

「ハァ……くそっ……だが、いい勝負だった」


勝負自体は明花の勝利。だがザイラスもいい動きをしていた。観衆からは喝采があがる。


「こういうのも……悪くないですね」

「ああ……そうだな」

「どうかしましたか?」


久しぶりに本気で卓球をやったことで息があがり気味の明花に対し、明花と観衆を見てじっと立ちつくしているザイラス。その姿を不思議に思って明花が理由を尋ねた。


「俺は今まで皇子として育てられた。だが王宮に引きこもっているのが嫌で街によく繰り出してた。そんときにはやんちゃして後で親父から大目玉だ」

「そうなんですか……」

「俺にとっては街はやんちゃする場所でしかなかった。ただここに来るといろんな奴がいる。俺は本なんか読まないがな」

「まぁ、いろんな世界の方々がいらっしゃいますから」


人間であっても同じ世界ではない者も多い。特殊な能力を持った者もいる。果てには人間ではなく別の種族の物、しまいには生物ではないものまで様々だ。


「俺は旅に出る。新たな世界を見てみたい。そして必ずあんたを倒すすべを見つけて見せる」

「そうですか。その時が来るのを楽しみにしておきますね」


そんなザイラスの決意表明に対しても明花は淡々と反応した。負けるわけがないという自信を含めてのものだった。


「余裕だな」

「それはもちろん。今日で20連勝ですから」

「だが、明日は勝つ! お前の魔法はもう見切っている!」

「じゃあ新しい魔法使いますね」

「なんだと! まだあるのか!?」


いつも通りの会話が繰り広げながらセクハラまがいな来館客を卓球のボールで張り倒していく明花。大図書館の日常はまだ終わらない。


「……ところでこの猫寝ているが放っておいていいのか?」

「大丈夫ですよ。寝てもらっただけなので」


実を言うと故意にドラ猫に当てに行ったボールにはちょっとした術が入っていた。眠りを誘う術と幻想を持たせる術……ようは夢見の術である。夢の中で夢を見ると言うのも変な話だが。ちなみに現在、こんな夢を見ているという。


『ドラ猫さん……汗いっぱいかいちゃったから拭いて?』

「にゃにゃにゃ! これは男これは男……」

『ねぇ……ドラ猫さぁん』

「ぬ、脱ぐんじゃない! 僕はチラ見えぐらいが一番いいんだ!」

『本当は見たいんじゃないの?』

「ち、近づいてくる!」

『見たくないの?』

「み、みみみ、見たいです、見たいですニャー!」


こんな感じの夢を見ているようだ。久しぶりに本気で卓球ができたことへの感謝、疑ったことへの若干の後ろめたさをツンデレ風に返した格好だ。


一時間後、夢オチにドラ猫さんは大層プンスカしていたそうである。

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