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3ページ目 先輩の姿

今回は難産でした。ギャグのつもりが気付いたらシリアスに……

「しかし久しぶりだな昌弘。どうだ? 仕事にはなれたか?」

「はい、大門先輩もお元気そうでなによりです」


世界の狭間の司書、天ヶ崎明花。その中の人である安間昌弘には本職がある。現実世界では普通のサラリーマンとしても仕事をしている。司書は半ばアルバイトのようなものなのだ。


その彼も今日は本職は休日。大学のサークルの先輩であり雑誌で記者の仕事についている大門健輔と食事をしていた。大門は昔、柔道をやっていたこともあり非常にガタイがいい。頼れる先輩という物を体現した人物と昌弘は評している。今日の食事も大門のおごりである。


「今は何の取材をしているんですか?」

「まぁいろいろやっているが……最近は雪男を追ってヒマラヤへ行った。なんとそこで我々は足跡を発見してだな!」


頼れる先輩なのだが、同時に変わった人物でもある。特にオカルト関係の話になると目がなく、学生時代にも長期休暇になると海外まで足を運んでそういったオカルト関連の調査をしていた。その際に世紀的な発見をしたりもしている。現在もミステリー関係の雑誌で記者として働く一方、大学で講義をしたりテレビのコメンテーターとして出演したりとかなりマルチに活動している。


今や有名人に片足を突っ込んでいる大門。明るいキャラクターとゴツい見た目とのギャップがあるのも人気の秘密なのだろう。


都内の某高級焼き肉店で舌鼓を打つ二人。ここ最近の話や大門の海外でのエピソードなどで話に花が咲く中、ふいに大門がこんなことを言い出した。


「そういえばよ、この間知り合いから面白い話を聞いたんだ」

「へぇ、どんな話なんですか?」

「それがよ、世界の狭間にある図書館っていう面白そうな話なんだこれが!」

「!? げほっげほっ……」


お互いに悪酔い出ない程度に酒がまわってきた頃であったために気軽に話を続ける大門と昌弘。すると突然飛び出してきた世界の狭間というワードに飲みかけていたお酒を吹き出しそうになる昌弘。どうにかこらえたが体に回りかけていた酔いが一気に覚めるぐらいには衝撃的だった。


「おい、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。ちょっとむせただけなので……それよりなんですか? 世界の狭間って」

「ああ……なんでもいろんな世界の間にあることから世界の狭間って呼ばれているらしい。詳しくはわからんがしゃべる猫と美人の司書さんがいるって話だ! そいつは振られたらしいがな!」


どうにか動揺をごまかしつつ先を促す昌弘。真剣な昌弘の視線に大門も少し驚くが話を続ける。話の内容を聞く限りまず間違いなく自分のことだとはっきりした。


「なんか夢物語みたいですね」

「そうだな……竜彦も寝てたから夢だったのかもしれないって言っていたな。ああ、竜彦っていうのはアイドルのTATSUだ。本名知れ渡ってるから大した秘密じゃないんだが」

「……相変わらず人脈広いですね」

「テレビで共演してたら仲良くなっただけだよ」

(必死になって俺に付き合ってくれって言っていたなんていえないな……)


他人事のように振舞いながらも心中は決して穏やかではなかった。そういえば先日イケメンが図書館に迷い込んできたことを思い出し、あの人物かと記憶から該当する人物を呼び起こしてあたりをつける。


その後もこの大門からすれば不思議な図書館、昌弘にとってはバイト先の話がしばらく続いたが、さすがにミステリー好きでも異世界までは入れないといったところでお開きとなった。この話の後、おいしいと感じた肉の味が分からなくなるぐらいには彼の精神は緊張の頂点にあった。


                ○


(はぁ……緊張した……ただ今後もしかしたら来るかもな)


大図書館に入ってくる来館者は大きく分けると二つに分けられる。一つはTATSUというアイドルのように就寝時に迷い込んできた者、もう一つは前日、七日連続で明花に挑みに来ているザイラスのように強い意志を持って入ってくるものである。昌弘のように関連人物についてはそれ以外の例外もあるが今は割愛。


大門という人間は見たいと思ったものはすべて見てきた人間である。彼がテレビでコメンテーターを務めている背景には取材時の幸運によってさまざまな物を間近で見てきている運の持ち主でもあった。つまり、異世界であっても来たいと思えば来れる人物といえる。


(少し手は打っておきますか……)


警戒するほどのことではないかもしれないが影響力は大学時代などをはるかに上回っている。念には念を入れようと狭間の図書館へと沈みながら昌弘は思った。


         ○

「ここは……まさか竜彦の言っていた大図書館!?」

「ええ、私たちはここをそのように呼んでおります(まさか本当に来るとは……驚きです)」


この日の夜の仕事が始まってしばらくたった頃、来訪者があった。来訪者はある意味予想通り大門であった。予想はしていたので何とか平静を装って受付で対応する。後ろの方では大門のプロフィールに目を通したドラ猫が明花の先輩であることに気付いたのか声を殺した笑いを浮かべているのを感じ取った。司書は図書館と世界の狭間の防衛のために相当強力な力を与えられている。力を応用すると空気の流れの変化も感じ取れるのだ。


(ドラ猫さんは後でお仕置きすることにして……さて、どうしましょうか)


そう考えて明花が大門の方を見やると大門は固まっていた。


「…………」

「大門さん?」

「お願いします……」

「え?」

「お願いします! 俺にトレジャーハントされてくださいぃぃぃ!」

(えええええええ!? ちょっ……い、痛いっ!)


どうしたのだろうと声をかけると肩を掴まれて前後に動かされるせいで先日エレンに揉まれた結果、若干成長してしまった一部分が激しく揺れる。そのせいで付け根のあたりの部分が非常に痛い。


「ちょっと……落ち着いて……ください!」

「ハッ! す、すいません……初対面の方になんて無礼を……」


本当は初対面どころではないうえに女性ですらないのだがそのことに気づくことはない。明花は痛みと後ろの方で腹を抱えて笑いだしているドラ猫に対して震えを滲ませている。


「実は私、世界を駆け巡っているトレジャーハンターでして」

(正確にはオカルト好きな記者ですけどね)

「いままで世界でさまざまなお宝を見つけてきましたがそんなものはもうどうでもいい!」

(それだともう仕事がなりたたないんじゃ……)

「あなたという宝物を見つけた今、ぜひこの宝を持ち帰らせていただきたい」

(……ところで私を口説く人はなぜみなさん揃ってポエムみたいなしゃべり方になるのでしょう?)


大門の必死のポエムも明花には全く届いてすらいなかった。むしろ突っ込みを入れられる始末だ。


「それは困りますね。私はここの司書ですので。ここを離れるわけには……」

「いや! 竜彦に聞いた話ではあなたも私と同じ世界の住人のはずだ! せめて電話……いや、メールアドレスだけでも!」

(そこまで知られていましたか……さて、どうしましょうか?) 


まず前提としてこの好意にこたえるのは不可能である。なぜなら彼女は男性だからだ。電話番号を渡す選択肢もアウト。向こうの世界で明花の声を出すことはできない。ならばメールアドレスはどうか。こちらもやはりアウトだ。大学時代、しつこいぐらい女性にメールを出して振られたという過去を持っている以上相当メールを送ってくるだろう。それも時差を考慮せず。真剣なのはいいことなのだが、度を超えることもあると知っている彼女は渡すという選択肢は取れない。


ならば渡さなければいい……が、これもそうはいかない事情がある。このまま渡さなければ大門はザイラス同様に毎日のようにここに来るだろう。ザイラスは一騎打ちを所望しているだけなのですぐに済むが求愛はそうはいかない。いくら寝ている間だからといってもここで疲れをためてしまえば多少の無茶がまかり通るこの世界でも限界がある。それに彼自身の問題もある。このままなら最悪今やっている仕事を捨ててでもこちらに来るだろう。


では正体を明かすか? そうであっても昌弘のことを嫌いにはならないだろうが……弱みを握るような形になるのは嫌だった。

 

(そうなるのを私は見たくない。やっぱり先輩は旅をして、何かを見つけ出すことのできる人。ここをゴールにさせるわけにはいかない!)


大門健輔のゴールはここではない。そして弱みを知るのは私だけでいい。その思いが天ヶ崎明花を動かした。


「大門さん、一つ勝負をしましょう」

「……勝負?」

「あなたが勝てばあなたの要求をのみます。ただし、負けた場合は……ここでの記憶、なくしてもらいます」

「……記憶をなくす?」

「はい、あなたにここで終わってほしくないからです」


少しの間、静寂が訪れた。ここまで笑い転げていたドラ猫も静かに成り行きを見守っている。どれくらいたったか。しばらくして大門が口を開いた。


「わかった、受けよう。ただし、俺が勝てば君は僕の物だ」

「わかりました。受けましょう。ではこれを」

「!?」


明花が出したのはザイラスの時にも使った誓約書。そしてトランプだった。そのトランプを見た猫が一瞬驚いた顔を見せる。


「ルールはポーカーで行きましょう。一回勝負です」

「いいだろう」

「では、ドラ猫さん、手伝って下さい」


後ろにいたドラ猫に明花が声をかける。珍しく静かに出てきたドラ猫は猫とは思えない手つきでカードをシャッフルすると二人にカードを配った。互いにカードを交換し勝負となる。


「フルハウス」

「4カードです」


結果は明花の勝ち。大門のここでの記憶は消されることになった。


「いつか、本当のゴールを見つけた時に、また会いましょう」


明花は用意しておいた術式を作動。大門のここでの記憶はなくなった。


                ○

「……本当にこれでよかったんでしょう?」

「そう思ったからあんな手を使ってまで勝ちに行ったんだろう? 私お手製のイカサマトランプを使ってでも」


明花が取り出したのはドラ猫が趣味で作ったイカサマ用のトランプだった。ドラ猫に対して『手伝ってください』といったのもイカサマについてのことだった。


「……先輩はこんなところで終わっちゃいけないんです」

「真実を伝えるという選択肢もあったと思うけど?」

「……確かに先輩は笑って許してくれたかもしれません。とんだ偽物だと笑い飛ばすかもしれません。だけど私は……幻想に惑わされた先輩を見たくなかったんです。とんでもない偽善者ですね……」

「…………さて、どうかな。失敗は若いうちにしておくもんだよ。年取ったら失敗すらできなくなる」


図書館内には今はだれもいない。二人の会話は広い空間の中に消えていった。


「今度先輩に会うときにはご飯おごれるようにします。罪滅ぼしになるとは思ってはいませんけどね」

「そうだな、そうするといい。……どうやら、今日も来たみたいだね。八日連続か」

「そうですね……行ってきます」


ザイラスの到来とともに大図書館は日常を取り戻す。若干のしこりを一人の青年に残したまま。

正直、正体を明かすルートとこのルートとで考えたのですができる先輩を保つルートに……どっちが良かったのか作者もよくわかりません。できればぜひこのことについてご意見とかいただけるとありがたいです。

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