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11ページ目 少女と魔除け石

「マスター、もう一杯頼む」

「かしこまりました」


酒場というものは情報の集まるところである。さまざまな仕事をする人々が集まり杯を交わす中で自然と情報がやり取りされるようになった。特に、ある国の第二皇子であるザイラスが今訪れているこの港街は物流の拠点であり、他の街よりも賑やかなで男たちの笑い声も響いている。そんな中ザイラスはカウンター席に陣取り酒を楽しんでいた。ぼっちなのかと思われるのかもしれないがそういうわけではない。


(頼みがあると書いた紙の通りに来たが、いつになったらくるんだ?)


ザイラスは国を出て以降冒険者としての経験を順調に積んでいた。辺境の村の近くに巣くっていたドラゴンを相手に戦い勝利をおさめ、一部では有名になるぐらいには活躍し活動の幅を広げていた。そんな中、宿泊先の部屋に奇妙な手紙が放り込まれた。


『頼みがある』とだけ書かれた用件が書かれ、日時とこの場所を記されていた手紙だ。わけがわからないが、とりあえず酒を飲みながら待っているのだが、一向に現れる気配がない。


(一杯喰わされたか?)


だまされたということを想定するが思い当たる節がない。そもそもお金を取られたわけではなく、少し時間を食ったぐらいだ。


(だとすると……まさか! あいつをさらうことか!?)

「どうかしました?」

「……なんでお前ここにいるんだ?」


差出人の目的が保護している少女かと疑ったザイラスははっとした表情になったが、直後かけられた声を聞いて振り返った。そこには今、その少女がいた。


「暇でしたので」

「……ここはお前が来るようなとこじゃねーよ。十年早い」

「むっ……私子供じゃないです。それと私はお前ではなくリサです」

「十分子供だよ。というか宿からどうやって抜け出した」


信頼できる宿の主人に少女を預けていたが、少女ことリサが街中の居酒屋に出没したということは抜け出したということ。半分くらい理由ははわかっているがザイラスは聞いてみた。


「お腹がすいたといったら部屋から出してくれたので抜け出してきました!」

「はぁ……気を抜かないように言っておかないとな。孤児院のひとが手を焼くわけだ」


宿の主人はもう高齢だ。孫ほど差のある少女の言葉にあっさりと耳を貸してしまったのだろうと当たりをつけるザイラス。


「何かお飲みになりますか? お嬢ちゃん?」

「コーヒーをミルク染めで!」

「おい、勝手に頼むな。というか酒場にコーヒーなんかあるわけがないだろう」


マスターが気を利かせてリサに注文を取る。ザイラスは抗議するがそれより早く注文を済ませていた。ただ、ザイラスはここにコーヒーは置いていないと思っていたので軽く抗議するぐらいだった。


「かしこまりました。少々お待ちを」

「あるのかよ!?」

「お願いします!」


注文を受けたことに驚くザイラス。一方でリサはそれ見たことかと言わんばかりのドヤ顔をザイラスに向けて決めていた。


「うぜぇ……」

「酒場でもコーヒーは扱っているんです。世間知らずですね。だからそんなザイラスさんより私は大人なんです」

「いや子供だ。ミルクティーならともかくコーヒーにミルク染めは邪道だろう」

「ミルクで染めて何が悪いんですか! コーヒーは自分で作り上げるものなんですよ! ザイラスさんの飲み方は野菜をそのままかじっているのに等しいです!」

「俺からすればソースをかけすぎているのに等しいがな」


ミルクで染めると言うのは地球的にいえばミルクたっぷりという意味にあたる。コーヒーはブラックがポリシーのザイラスからすれば素直にミルクティーを頼めと言いたくもなるのだ。一方のリサからすれば素材のままより自分好みのアレンジこそ至高という考えであった。出会って一月ほどになるがザイラスとリサは年からして10前後は離れており、かなり身長差もある。人によっては親子ともとらえられるほどだ。


「というよりなんでそんなこと知ってるんだ」

「近くの町で覚えました!」

「シスターに迷惑かけすぎだろう……」


ザイラスとリサの出会いは一月前、この港街から少し離れたところにある田園地帯の教会だった。その日、雨に降られたザイラスはここに宿を求めて、その時に彼女と出会ったのだ。


「興味を持つのはいいことだが、周りのことも考えた方がいい。心配するやつもいる」

「ザイラスさんは私がいなくなったら心配ですか?」

「当たり前だ。預かっている以上責任は持つ。だから勝手にいなくなるな。この前は運が良かったが、今度やられたら俺が困る」


抜け出す癖は教会にいた時からすでに傾向はあった。時々近くの町や山にに行っては拾いものや好意でもらったものを持ち帰っては他の子供に配っていた。その教会の管理をしていたシスターにとっては頭の痛い問題であったが、子供たちはそれがカッコよく見えたのだろう。次第に抜け出す子供も多くなっていった。注意はしても抜け出す子供は後を絶たなかった。それにシスター自身はそんなに子供にきつく言える性格でなかったのも災いした。そんな時、ザイラスが滞在していた際にリサが山に行ったきり帰ってこないという事件が起きた。


「……あのときはごめんなさい」

「もうそれは言わない約束だ。お前のおかげであいつを倒せたんだからな」


山の中で足をくじいて動けなくなったリサはモンスターにも囲まれ完全に身動きを封じられていた。そこに探しに来たザイラスがモンスターを倒し、それにリサも協力したのだ。その結果、子供たちの抜け出し癖も少しおさまったようでシスターから泣いて感謝されたのだがそれはまた別の話。


「しかし、なんでわざわざついてこようなんて思ったんだか」

「外の世界を見て回りたいからですよ。まだ知らない世界を見に行くのにザイラスさんと一緒に行くのがいいなって思ったので」

「物好きな奴だ」


そう言ってザイラスは飲みかけの酒を口にする。氷がとけていて本来望んでいた味ではないがこれがこれで悪くないと思った。といっても同行を最初は断っていた。一回り年齢が違うわけだし、まだまだ旅に出るには早い。しかし、本人の強い希望と戦闘での立ち回りから自分ががんあればどうにかなるだろうと判断し、同行させていた。


「それより、なんで置いていったんですか? さびしかったんですよ?」

「仕事の話に付き合わせるわけにはいかねぇよ。ほら、部屋に戻ってろ」

「もう暗くなっている街を私一人に歩かせるんですか?」

「……ちっ」


正論を返されて思わず舌打ちするザイラス。どんな仕事かは分からないが好奇心の塊である彼女を危険にさらしたくないという思いは常に持っている。危険な仕事であれば間違いなく反対するために首を突っ込んでくるだろう。できるだけ穏便に部屋に返すにはどうしたらいいのかと考え、ポケットの中に手を突っ込む。考え事をするときのザイラスの癖だった。すると何かが手にあたる音がした。


(ん? なんだ? ペンダント?)


気になって取り出してみるとそれはペンダントであった。どこで手に入れたのかと記憶の海を探る。すると、該当することが一件あった。


(そうか、あの司書から教わって作った奴だ!)


                  ○

「相談ですか?」

「ああ、今日は決闘はいい。ちょっと話を聞いてくれ」


一週間ほど前、世界の狭間にあるという大図書館の受付にザイラスはいた。ほぼ毎日決闘を申し込んでいるザイラスだがこの日は違い相談を持ちかけた。


「珍しいですね。ザイラスさんが相談とは。それでどのような用件でしょう?」

「預かってる10歳の子供が時々勝手に街中を走りまわっているときがあってな。どうにかしたい」

「……ザイラスさん誘拐犯だったんですね。しかもロリコン」

「おい、後半の意味はわからんがいい意味で使われた気がしないぞ!」

「冗談です」


椅子に座って向かい合った司書、天ヶ崎明花はそんなザイラスを茶化していた。毎日会っていることもあってかかなり気軽な間柄になっていた。


「冗談はさておき、走り回るのを防ぐと言うのは難しいと思います。子供は好奇心で動きますから」

「やはりそうか……」

「となると、悪い人に連れて行かれないような何かがあればいいんですが……」

「なら、魔除けの石を持たせるというのはどうだ!」

「魔除けの石ですか……どんなものなんです?」


聞いたことのないアイテムに興味がわく明花。先を促すように少し身を乗り出している。


「ああ、現物はないが蒼い石でな。透き通っているものだ。少しごつごつしているがこれを持っていると敵意や悪意をもった魔獣や人が近づけなくなると言われている」

「……少し待ってください」


明花は目を閉じるとザイラスが話したものをイメージする。そして手をかざすように構えるとそこに光が発生した。おさまるとそこにはザイラスの話した特徴をもつ石が鎮座していた。


「こんな感じでしょうか?」

「あ、ああ。そんな感じだ。相変わらずだがこんなこともできるのだな」

「まぁ多少は無茶が効く空間ですから。現実ではできませんけどね」


いつものことだと笑う明花。一方のザイラスは半分驚き半分呆れと言った表情で明花を見ていた。


「ただ効果があるのかがわかりにくいですね。ちょっと試してみましょうか」

「どうやって試す気だ? ここにはモンスターはいないはずだが」

「まぁ見ててください。」


そういうと明花は後ろの司書室のドアを少し開け中にいるドラ猫にこう呼びかけた。


「ド、ドラ猫さん! スカートが引っ掛かって破けてしまったので替えを……」

「喜ん……にゃあああああ!」


焦っているように聞こえる明花の言葉に反応してものすごい勢いでスカートの替えを持って突撃して飛びかかってきたところで薄い障壁に阻まれた。電撃のようなものが流れズルズル空間を落ちていく。


「大体1メートルぐらいなら悪意は防げますね。魔獣への反応は後でダンジョンで調べておきますね」

「……その猫管理人なんだろ? 大丈夫なのか?」

「大丈夫です。いつものことなので。それと提案なのですが」

「提案?」

「効果があるのはわかったのですがこのまま持たせるとどこかに落とす可能性も高いと思います。ですので……」


                    ○

(このままだと落とすから加工してペンダントにしたらどうかと言われてこの形にしたんだな)


もちろん明花の意図としてはそちらが大半を占めているのだが、もしかしたら面白いことになるのではないかと思って提案しているという事実をザイラスはまだ知らない。


「ほら、これやるよ」

「えっ!?」

「プレゼントだ。これがあれば夜道も安全に帰れる……ってどうした?」

「な、なんでもないです! ありがとうございます! 部屋に戻りますね」

「なんかわからんがまぁいいか」


プレゼントといった時、リサの顔はとてもうれしそうな表情だったのだがザイラスはそれには気づいていない。ザイラスには突然部屋に戻る気になった理由はわからなかったが、明花の裏の思惑、贈り物で好意にどう影響があるかという興味本位の調査という目的を知り、はめられたという事実に気づくのはまだ先の話である。

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