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文学シリーズ

物にも魂は宿る

作者: 桜 舞華

 ギシリ、ギシリ、と老いた体が軋んだ音を立てた。

 この歳になると、忘れっぽくて困ってしまう。大事なことも、やらねばならんこともすぐに忘れてしまう。

 ふぅ、と乾いた吐息を吐いて部屋の中を見渡した。

 至る場所にある人形、人形、人形。


 素材は布に綿に木に陶器。実に様々だ。


 ここはとある人形師の住んでいた家だ。


 ああそこの君。もしよければ、この老人めの話を聞いてくれまいか。

 老いるとダメだね、誰もいないというのは寂しくてかなわんよ。古びたここで、古びたこの体を持て余すばかりだよ。


 さて、話そうか。


 大事にされた人形や物には、魂が宿る、などという話を知っているかね?


 私は知っているよ。信じてはいないがね。君はどうかね。


 ロマンティックではないかな。

 例えば大事にしていた文房具。一番魂が宿りやすいのは人形かもしれんね。

 わからんがね。



 私のいるここに昔いた人形師は、それはそれは人形を大事にしたよ。

 当たり前だね。自分の作った作品たちなのだから。それを考えると、作品というのは全て彼の子供のようなものなんだろうね。


 彼は愛したよ。全ての人形を。例外なくね。


 私は長く生きた。

 彼を最初から見ていた。


 そうそう、ここにはね。彼が作ったわけではない人形もまた、置かれているんだがね。

 それは特に関係がない。


 要するに、彼が人形を愛したということが一番大事なのさ。



 さて、話題は変わってしまうが。

 人形に〝死〟はあるのかね?


 老いた私には、1日1日が長い。

 最近のもっぱらの暇つぶしはそれだよ。答えは出ない。

 なぜなら、人形は喋らないからね。死んだとしてもわからないのさ。

 死人に口無しとはよく言ったものでね、人形また死んで仕舞えば何も話さないのさ。生きていても話すことはないがね。


 人形にも〝死〟があるといいね。最近思うよ。

 だってそうじゃなければ、彼と共に過ごすよう生み出されたというのに彼に置いていかれてここでひとり過ごさねばならないからね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 悪い点ではないのですが、文字で見て17行目に「それはそらは」となっている部分があります。おそらく「それはそれは」ではないでしょうか。 [一言] 人形に魂が宿る。よく分かります。 人の形…
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