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F級の誕生

魔法が使えるのが当たり前の世界に産まれ落ちたロニムー。

しかし、彼は稀にみる魔法適正の無い子供だった。

それでも、魔法学園に入学をして、皆に認められようと努力をしていきます。

-琥珀歴(こはくれき)15008年 10月14日 -


ロムデガル王国最南端、『巨大樹の森』

凶暴な魔物が棲みつき、濃霧に覆われ、人が滅多に立ち入ることのないこの森に『妖精の泉』と呼ばれる場所がある。

湖は水深90mはあるも、底がはっきりと見えるほど透き通り、波ひとつなく静寂に包まれている。




その日は珍しく霧が晴れ、雲一つない満月が輝く夜だった。

月光が湖に注がれ、水面がキラキラと反射して辺りを照らしている。

その湖底で一つの輝く光の球体が姿を現した。

球体はゆっくりと上昇し、水面まで上がると「パンッ!」と静寂の中に小さな音をたてて破裂した。

その残骸が水面に浮かび、その上で眠っている妖精の姿があった。



「ん…」


妖精は目を覚まし、目を擦りながら辺りを見回す。

すると、何かを思い出したかのように顔を上げ、目には涙を浮かべると、満月に向かって囁くようにそう言った。


「やっと…マスターに会えるのですね...」



次の瞬間…水面に波紋が広がり、妖精はそこから消えた。




---

その頃、サンドリア王国北部に位置する『ロデアス村』で1人の男の子が産まれていた。



「んぎゃぁぁ」

「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」


医者はそういうと、生まれたばかりの赤ん坊を、

用意しておいた布でやさしく包むと、彼女に差し出した。


「…ありがとうございます」


彼女はかすれた声で返事をした。

赤ん坊を両手でやさしく抱きしめると、目に涙を流しながら微笑んでだ。

すると、ガチャッ!と部屋の扉が勢いよく開いて男が入って来た。


「無事に産まれたか!?」


男は心配そうな顔をして大声でそういうと、彼女と子供を見て喜びの顔へと変わった。



「エリーザ、よくやったな」

「はい、元気に産まれて来てくれました」


男はエリーザから、赤ん坊を手渡され、

慣れない手つきで赤ん坊を受け取ると「そうか、この子が俺達の子か」と目に涙を浮かべながらそう言った。


「クロード、この子の名前を考えてきてくれましたか?」

「ああ、ロムニーと名付けようと思う」

「ロムニー...ふふ、ステキな名前ですね」


こうして産まれた子は『ロムニー・ファイブル』と名付けられた。


赤ん坊は産まれてすぐに魔法の適正検査を受けることになっており、ロムニーも別室に連れて行かれ、検査されることになった。

十数分後、ロムニーはエリーザに引き渡された。


「それで、このこの魔法はどうでしょうか」


エリーザの質問に医者が困った顔をした。


「どうした?どうして答えない」

「誠に申し上げにくいのですが…その子は」


クロードが問いつめると男は答えた。


「測定不能でした………つまりは魔法階級はF級ということになります」

「えっ?!」

「なん…だと...」


男の言葉にエリーゼとクロードは固まってしまった。


---



-10年後の春-



「ロムニー、いつまで寝てるの!今日は学園に行く日でしょ」

「…んー、あと少しだけ…」

「早く起きなさい!馬車に乗り遅れるわよ」


僕の名前は『ロムニー・ファイブル』

ロデアス村産まれの魔法階級はF級。

今は『王都アルティア』にある『バーナード王立魔法学園』に通っている。

今年3年生になり。学園は家から遠いので、学生寮で暮らしている。

今は春休みで実家に帰って来ていた。



僕を起こしに来たのは、母親の『エリーゼ・ファイブル』

金色に染まった髪が肩にかかり、眉間にシワを寄せながら、青みがかった透き通るような瞳でこちらを見ていた。


「ニーナはもう起きて朝ご飯食べてるわよ!」


エリーザは部屋にやってきてそう言うと、僕の体を包んでいた毛布を無理やり剥がした。

仕方なく学園指定の制服に着替え、朝ご飯を食べる。


「ロムニー、今日はニーナも一緒に連れて行ってあげてね」

「あ…」


エリーザに言われて思い出した。


「ニーナ、わからないことがあったらお兄ちゃんに聞くのよ」

「はーい」


この少女は『ニーナ・ファイブル』

魔法階級はB級

僕の妹で、今年からバーナード王立魔法学園に入学することになっている。

顔立ちは母親に似て整っていて、キレイな茶色の髪をいつもツインテールにしている。


「ニーナ、そろそろ行こうか」

「あ!お兄ちゃん、まって」


そういって、ニーナがこちらに駆け寄って来た。

新品の真っ赤な靴に、学園(うち)の制服を来ている。

制服は、男女で違い、男子はジャケットにパンツ。女子はワンピース。

制服の色は魔法階級によって異なり、僕はF級なので全体的に黒色で、ニーナはB級なので青色だ。



家を出て、馬車の停留所に向かった。

家からはそれほど遠くなく、10分ほど歩けばすぐ着く場所にある。


王都アルティアまで行く馬車は1日に5本しか出ておらず、

夕方以降は魔物が出るので、馬車は出ていない。


時間通りに来た馬車に乗り込んで空いている席に座った。

僕たちの他に、お客さんは2人だけだ。

黒いローブを着た老婆1人に、大きな空の籠を持った女性が1人。

家からの荷物は、ニーナの分と一緒に寮へ先に送ってあるので、僕は手提げカバン1つしか持っていない。

王都まで片道一人あたり5パルで行ける。




---



出発から4時間ほどで王都に到着した。


「王都に到着しました。ご利用ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」


お金を渡して、馬車を降りる。


「お兄ちゃん、人がいっぱいいるよ!」


となりでニーナが目を輝かせている。

ニーナは、王都に初めて来たので、道を埋め尽くす人を見て驚いていた。


「迷子にならないように、ちゃんと手を離しちゃだめだよ」

「うん」


そういって、ニーナの小さな手を握って歩き出した。

王都は治安がいいので、子供だけで遊んでいるのを良く見かけるが、危険な場所もあり、知らずに間違って迷い込んだら大変だ。

ニーナを見失わないように、しっかりと手を繋いで歩き出す。



「お兄ちゃん、あそこはなぁに?」


ニーナは初めて見る物が多いので、見つける度に質問してくる。


「あれは、魔道具屋さんだよ。道具に魔法を封じたものが売っているんだよ。」

「へ〜、お兄ちゃんは持ってるの?」

「あれは高いから僕じゃ買えないな」

「ふ〜ん、そうなんだ」


ニーナはきょとんとした顔でお店を覗いている。


魔道具とは、物に魔法を封じ込めたもので、それを使うと誰でも封じられている魔法を一定期間使用できるようになる。

魔法は、一人ひとり使える魔法の能力は異なり、便利な魔法ほど高く取引されている。


---



バーナード王立魔法学園に到着した

ニーナがいろいろ寄り道するので、1時間ほどで着く所を3時間もかかってしまった。


「ほぇー、大きいんだね」

「まぁ、一応王都の中の建物の中でも最大の大きさからね」

「お城みたいでステキ」


満面の笑みで校舎を見つめている。

そうだねといいながら学園の中に入って行く。


「寮に荷物が届いているはずだから、まずは寮の手続きをしないとな。ニーナは女子寮だから僕は行けないけどさ」

「え〜、お兄ちゃんと一緒がいいな」


うれしいことを言ってくれる。


「しょうがないさ、男子寮に女子は立ち入り禁止だから」


ニーナは不貞腐れた顔をしてこちらを見ている。

気にせず寮の管理事務所に向かうことにした。


「こんにちは、寮に入る手続きをしたいんですけど…」


受付女性が出て来て、僕の服を見て一瞬驚いたよう顔をした。

しかし、すぐに手続きの用紙を取り出して渡された。


「ではここにお名前と魔法名、魔法階級をご記入ください。ご記入が終わりましたら男子寮までご案内致します。」


受付の女性は僕が手続きをしに来たと思っているらしい。

さっき驚いたのは、きっと僕の制服にだろう。

僕の制服は黒色だ。それは魔法階級がF級だという証拠。

魔法階級はS級〜F級まであり、魔法の能力によって産まれた時に決められる。

A級に近づくほど、稀少で強力な魔法を使えることになり、訓練次第で昇級も可能である。


しかし、S級のみ例外で、ある条件を満たした者のみが与えられる最高階級『妖精使い(フェアリーマスター)』と呼ばれ、上級貴族レベルの権力を持つ事ができると言われている。


逆に、F級というのは、ほぼ魔法のセンスがないということの証でもある。

そして、F級はこの学園で僕だけだ。

レアな階級なので受付の女性も驚いたのだろう。



「手続きしに来たのは妹の方です」

「あ、失礼しました。では、こちらの用紙に記入してください」


そう言って女性は違う用紙を差し出してきたので、名前と魔法名、魔法階級を記入する。



ニーナ・ファイブル 

 人形操縦(マリオネット)B級



ニーナの魔法は『人形操縦(マリオネット)』。生物以外の物を意のままに操ることができる能力である。

階級はB級。

B級は、非常に有能な魔法を使える者に与えられる階級である。



「ありがとうございます。ではご案内致しますので、こちらへどうぞ」

「はい」


ニーナは元気よく返事をした。


「女子寮になりますので、ご案内はニーナさんだけになってしまいますが宜しいでしょうか?」

「あ、はい。僕は自分の寮に戻りますので」

「かしこまりました。では、ニーナさんこちらへどうぞ」


なぜか手を繋いでいる。

ニーナは緊張しているのか無表情になっている。

なぜか受付の女性の方はすごく嬉しそうだ。

なんだかすこしいやらしい目をしているような…


---


ニーナの手続きも終わり、自分の寮に向かうことにした。

男子寮は校舎から歩いて1時間30分程かかる。そのため、男子寮から校舎までの間には、通学用の乗り物『魔列車(ランブルトレイン)』と言うものが出ている。

もちろん、校舎から男子寮までの間に女子寮もあるので、女子も利用はしている。

大きさは、50人ほどが入る事が出る大きな箱が6つ繋がって動いている。

これも魔法を動力にして動いているらしいが、詳しいことはよくわからない。


今日は、王国中に帰省している生徒が学園に帰ってくる日なので、かなり混んでいる様子だ。

人ごみは苦手なので、あまり乗りたくはないけど、日も傾いて来ているので時間的に乗るしかない。



「あれ?黒色の制服なんて学園(うち)にあったっけ?」

「F級の制服でしょ。私初めて見たよ」

「F級って本当にあるんだな」


ボソ…ボソ…


魔列車の中では、いつもこうしてジロジロと見られてしまう。

F級は学園で幻の階級となっているため、教師ですら珍しがって見てくるくらいだ。

今まで自分以外にF級の人を見た事がないししょうがないのかもしれない。

しかし、この視線は未だになれない。



10分ほどで男子寮に着いた。

1時間30分が10分だ。本当に便利だな…

しかし、魔列車の中で黒の制服は目立ってしまう。


「お!ロムニー、久しぶりだな」

「…」

「なに黙ってるんだよ、今年もよろしく」

「…ああ」


会いたくない奴に会ってしまった…。


この男は『ターナス・ゴドフス』僕と同じ3年生

同じ寮に住んでいて、部屋が隣なので何かと構ってくるめんどくさい奴だ。

階級はD級。こいつに興味がないので何の魔法を使うのかは知らないが、

D級なので大した魔法は使えないはず。


「さっそくで悪いんだけどさ、2パル貸してくれねぇかな?今度返すからよ」

「…」

「なぁ…2パルくらい持ってんだろ?」

「…この間もそう言って返してもらってないんだけど」

「今度はまとめて返すからさ」

「次返さなかったらもう貸さないからな!」

「ああ、サンキュー」


お礼を言うとさっさとどこかへ消えて行った。

できれば喋りたくない相手なのでその方がうれしい。

なんだかカツアゲされているような可哀想な子に見えるだろうが、僕はできるだけ争いごとはしない主義なのだ…


しかし、学園でも僕がF級というだけで、珍しがって変な奴が近寄ってくる。

そういう時は、波風立てずにやり過ごすのが一番だ…。



部屋に着いてからは、送っておいた荷物の整理と、明日の入学式の準備で一日を終えた。


「ニーナも入学するし、あんまり格好悪い所は見せないようにしないとな…」


---


こうしてロムニーは3年生を迎えた。

ときどき内容に修正をしています。

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