04:『パイルバンカーの価値』
街に着いてまずはナニルさんのお店へ。
思っていたよりも大きい。
入り口だけで隣の店の三倍はあるし、奥行きを入れたら十倍を超えるだろう。
荷物を下ろすのはお店の人がしてくれるようなので、僕達はお店の中へ。
ナニルさんは白髪頭の男性と話しをしている。
おそらく親父さんだろう。目元や鼻が似ている。
「カンイチさん。こちらが我が商会の代表ルモルです。」
「うちの息子と馬車を守ってくれて感謝する。」
「通りすがっただけですから。それにこちらも助かりました。」
馬車に乗せてもらえたし、お金も出してもらった。
「今夜は礼をしたいし、是非うちに泊まってくれ。護衛の皆さんもよかったらどうぞ。」
「ありがとうございます。」
お金がない現状、泊めてもらえるのは助かる。
ナニルさん達は商品に付いての話しがある様なので、トウキ達と冒険者ギルドへと向かう。
トウキの呼び方が”さん”付けでなくなったのは、恩人にそう呼ばれるのは勘弁して欲しいと申し出があった為だ。ナニルさんは大分上だけど、トウキ達の年は近そうなので特に抵抗は無く、呼び捨てになった。
「ここが冒険者ギルドだ。」
「ありがとう。あそこが受付だよね?」
指南書をインストールしたおかげで文字も読める。
もっとも書く事はできないけど・・。
「ああ。ちょっと待て。シェスタ。」
「うん。」
「申し込みに字を書かないといけないし、金もかかる。知らなかったのか?」
「知らなかった・・・。」
水晶みたいなのに手をかざせば終わり。とかじゃないのね・・・・。
「だからシェスタが付いて行く。金に付いてはナニルさんが出してくれているから気にするな。俺たちは依頼の報告とビックボアの報告をして来る。終わったらあそこで待っていてくれ。」
「了解。」
シェスタさんはあまり喋らない。
馬車の中でもそうだったし、普段もそうらしい。だから気分を悪くしないでくれと言われたけれど、美少女が黙って付いて来るのは、全然嫌な気分がしない。
むしろウェルカムかも。
受付に居たのはウサ耳の男性。
「登録かい?」
「おねがいします。」
すかさずシャスタさんがお金を置く。
銅貨二枚。たしかこれで2,000セル。街の入場にかかったのが銀貨一枚だったから1/5ほどの値段か。
「こっちに記入をしてくれ。」
シェスタさんに頼む。
上から名前、年齢、職業、武器、魔法だけど、名前については自分で書かないといけないらしい。ただし、自分の国の言葉で良いとの事なので助かった。フリガナは書いてもらったけど・・・。
「カンイチ・ハチヤか。見た事無い文字だな。」
「そうですか?」
「ああ。まぁ俺もそんなに詳しい訳じゃ無いけどな。職業は特に何もなかったのか?」
「はい。」
あえて言うなら学生かな?
「武器は無手。魔法は有り。属性は?」
「属性ですか?」
「知らないなら魔法ギルドでチェックできるから試した方が良いが、知らないと言う事は固有魔法か。」
「そうだと思います。」
「まぁ登録には関係ないが、依頼に属性が必要となる場合があるから気を付けてくれ。」
「はい。」
「あとは、ギルドに付いての説明だが、必要か?」
男性がシェスタさんの方を見る。
「大丈夫だと思います。」
馬車の中で色々と教えてもらったし。
「そうか。わからない事があったら何時でも聞きに来てくれ。」
「ありがとうございます。」
「うん。これが君のギルドカードだ。」
渡されたのは黒いカード。書かれているランクはF。
このランクが上がるごとに色も変わり、順番はランクがS,A,B,C,D,E,F。色が金,銀,赤,黄,緑,青,黒となっている。
ちなみにトウキ達はランクDの緑色。これでルーキーを脱出したとみなされているらしい。
「あとこれ。討伐証明。」
シェスタがビックボアの牙を4本並べる。
「これは?」
「カンイチが討伐した。」
「ふむ。」
「証言はあっち。他の部位はクライブ商店。」
シェスタが指差すのは何やら話し込んでるトウキ達。
「少し待ってくれ。」
「はい。」
男性がトウキ達の所へ向かい、二言、三言はなして戻って来る。
「今、職員が確認に向かっているらしいので少し待ってもらいたい。確認が取れ次第カンイチ君のカードの更新と、審査を行おう。」
「よろしく。」
シェスタは自分の仕事が終わったとばかりに、待ち合わせのテーブルへと向かう。
「よろしくお願いします。」
その後を慌てて追う。
「カンイチも同じので良い?」
「えっと。」
「お金は気にしない。」
「お願いします。」
シェスタさんがカウンターで飲み物を二つ買って来てくれた。
どうやらカウンターで買ってセルフで持って来るらしい。
「冒険者ギルドは持ち込みも可。ただし騒いだら追い出される。」
「ありがとう。」
受け取ったジョッキを軽く合わせて同時に口にする。
「これは?」
「ミルク。嫌い?」
「いや、」
「健康に良い。身長も伸びる。」
普段飲んでいたミルクよりも甘い。
砂糖が入っているのか、それともこうゆう物なのか・・・。
美味いのでどちらでも良いけどね。
「シェスタは身長が低い事を気にし過ぎだ。」
「胸が小さいのもね。」
「五月蝿い。」
シェスタが声の発信元を睨む。
話しが終わった様だ。皆もそれぞれジョッキを手に持っている。
「あとは職員の確認待ちだな。」
「とりあえず、お疲れさん。」
お互いにジョッキを合わせる。
そのまま30分程話しをしていると、先程のウサ耳の男が近づいて来た。
「確認が取れました。皆さんはあちらに。カンイチさんはこちらにいらして下さい。」
「はい。」
「それじゃ、またあとでな。」
ジョッキをカウンターに戻し、男の後に付いて行く。
どうやらギルドの裏手へと向かっている様で、受付脇の扉をくぐる。
「受付じゃないのですか?」
「はい。カンイチさんには試験を受けていただきます。」
「試験ですか?」
「はい。ビックボアを単独討伐できる人をFランクにしておけませんから。」
「そういうものなのですか?」
「勿論戦闘能力だけでランクを上げる事はできませんが、EやDに上がる分には問題ありません。騎士から冒険者になれる方や、魔法師で登録される方なんかには多いですから。」
質問をしている間に石畳の広場へと着いた。
「確認になりますが、戦闘手段は固有魔法のみですか?」
「そうなります。」
武器は持っていないし、そもそも魔法がどのようなものかよくわかっていない。
「固有魔法を内密にしたい場合は試験を断る事もできますが。」
「その場合はFランク?」
「はい。依頼をこなしてランクを上げて行ってもらうしかありません。もっともDランク試験の時に再び同じ試験が有りますが・・。」
「なら、受けます。」
「わかりました。基本的にギルドが個人情報を公表する事はありませんが、犯罪捜査等には使用するのでご了承下さい。」
それは、他の情報についても同じ事が言えるはずだ。
「ギルドは国とは異なる組織であるが、犯罪や治安維持と言う観点からは協力する事もある。」
そうトウキ達に教えてもらった。
「では、こちらの鎧に向かって攻撃してみて下さい。」
示されたのは所々かけた鎧で、柱に固定されている。
拳が触れる距離まで近づく。
「魔法ですよね?」
「はい。まず試してみても良いですか?」
「どうぞ。」
拳で一発撃つ。
ガインッ
結果:鎧前面に拳大の穴。相変わらず拳に異常は無し。
「右手装着。」
現れたパイルバンカーの先を鎧へと向けて撃つ。
キャインッ
ゴト
結果:胴の部分が吹き飛び、頭の部分が地面に落ちた。柱もへし折れている。
両手装着も試してみたかったけれど、これは無理みたいだ。
「そこまでで結構です。」
「はい。」
パイルバンカーを消す。
「初めて見る固有魔法ですね。」
「そうですか。」
驚かない。
むしろ使っている人が居た方が驚くだろう。
「珍しい固有魔法の情報は魔法ギルドで買い取ってもらえるので、行ってみるのも良いかもしれませんよ。公表しても構わないのでしたらですが。」
「少し考えてみます。」
「とにかく、Dランク相当の戦闘力はありそうです。知っているかも知れませんが、Dランクからは対人戦の可能性が増えますから気を付けて下さい。」
「はい。」
Dランクからは護衛任務も出て来るので、盗賊と戦う様な事もあるらしい。
Cランクになると、盗賊討伐任務や貴重品の護衛などの任務がある為に戦闘力だけでなく人柄もチェックされるのだとか。
もっとも僕の場合、基本的な剥ぎ取りとかを覚えないと仕事になりそうも無いけど・・。
とにかく合格らしいので先程の受付に戻ってカードを更新してもらう。
「どうぞ。」
緑色のカードと共にお金をくれた。
「ビックボアの牙はですが、こちらで買い取らさせていただきました。本来であれば任務外の討伐に報奨金は出ないのですが、今回は、普段でない所で遭遇した情報の証拠として買い取らせてもらっています。」
「わかりました。」
この情報についてはトウキ達が報告してくれていたことで、ビックボアは本来、もっと北の方に現れるらしい。
そもそもビックボアは一匹でDランク相当、複数になるとCランクからが適正レベルなので、ビックボアの出現する地域の護衛任務はDランクパーティーを複数か、Cランクパーティーを必要としている。
この動物や魔物のランクは冒険者のランクと同じで、同じランクの獲物をパーティーで狩るのが丁度良いとされている為、今回の場合トウキ達の手には負えないと判断される。その為、荷物を諦めてでも人命を守った事は評価に値するらしい。
こっそりと受付の男の人が教えてくれた。
その後トウキ達と合流して門番の所へ。
ギルドカードを提示してお金を返してもらう為だ。
良くある事らしく、すんなりと返してくれた。
そのお金を持って今度はナニルさんの所へ戻る。勿論、借りパクする事は無く、お礼を言って返した。
夜まは店の裏に建てられたナニルさん達の家で過ごす。
風呂に入り、良いしてくれた着替えに着替えると今度は食事に。
広間には既にルモルさん、ナニルさんが待っていてくれた。トウキ達も居るし、他に初めて見る女性の姿もある。
「カンイチさんまずはお座り下さい。」
ルモルさんに促されて椅子に座る。
「家内のアニスとナニルの嫁のネリス、その娘のリリンとエリンだ。」
「この度は息子を助けてくれてありがとうね。」
「「ありがとうございました。」」
4人揃って深々と頭を下げられた。
「僕も泊めてもらえて助かります。」
娘二人はそっくり。恐らく双子だろう。
まだ幼く見えるのに、しっかりしているのは商家の教育の賜物かな?
「まずは食事を楽しんで下さい。」
そうしてクライブ家での宴が始まった。




