17:『パイルバンカー玄斗と会う。』
設定チックです。
苦手な方は流し読みで御願いします。
さすがに早い。
サイカの下に見える景色が次々と変わって行く。
5年前よりも早くなったサイカの速度は既に竜族の中でも上位。
一日あれば世界の端から端まで行けると豪語するだけのことはある。
「海?」
途中で弁当を食べて更に飛ぶと眼下に広がったのは海。
それもずっと続いている。
「サイカ。道間違えていないか?」
これまで竜王国に何度か尋ねているけどこのような広い海には出会ってない。
「間違えてないよ。」
「そっか。」
竜王国の大体の場所は知られているけれど正確な入り口は知らされていない。これは僕だけでなく何処の国に対してもそうであり、竜達を守る為なのだとか。
勿論、竜であるサイカは入り口を知っている。そのサイカが間違えていないというのだから任せておけば良いはず・・。
それに季節によっても入り口が変わるらしいので今回は海から行く必要があるのかもしれないし・・・。
そう思っていたのも束の間。
「絶対間違えているって・・・。」
サイカが止まったのは海の上。
少し先には大海滝。その先は星々の広がる宇宙。
つまり世界の端っこである。
「間違えてないもん。でもちょっと待ってね。」
クアァァ
明らかに人の言葉ではない言葉を発するサイカ。
ゴォゥウ
サイカの言葉に応える様に音がした。
「あっちだ。カンイチは落ちない様にしっかり捕まってて。」
言われるがままにサイカにしがみつくと、そのまま急転直下。
世界の端から飛び出すサイカ。
海は落ち大水爆の隙間をぬってサイカが飛ぶ。
全身が濡れるけどそれどころじゃない。速度と水圧に落とされない様に必死にしがみつく。
(握力がオカシクて良かった・・・。)
水を抜けたときに思っていたのはそんなことだ。
「着いたよー。」
そう言ってサイカが降り立ったのは小さな陸地。
あれほど激しかった水もここには落ちて来ていない。見れば結界の様な物で遮られ、見えない奥へと流れて行っている。
「ここは?」
「「よくーきーたーなー。」」
僕の疑問はとてつもなく大きな声で遮られた。
「なに?」
とっさに耳を塞いだけれど頭に響く。
「玄斗じいちゃん声大きいよ。私は良いけどカンイチが可哀想!」
「おーお。すーまーん。」
声は下から響く。
「すーこーしまーてー。」
「うん。」
地面が小さく揺れると目の前に少年が現れた。
「久々で上手に調節ができなかったよ。初めましてカンイチ君。僕は玄斗。そしてここは僕の頭の上。」
「頭!?」
「そう。サイカちゃんに聞いてないのかな?僕は世界を支えている。」
この世界が丸くは無いということは知っていたけれど、まさか支えている生き物が居たとは・・・。
「よくわからないかもしれないけど、君たちの言う所の『陸亀』の大きな様な物だと考えてくれれば良い。甲羅の部分に君たちの世界が乗っている。水の循環は結界によって陸地へと吸い上げられているんだ。まぁそんな事しなくても良いんだけど、大いなる母様が落ちる水が美しいと褒めて下さったからね。」
「はぁ・・・。」
スケールがでかすぎて何から聞いて良い物かわからない。
「大いなる母様とは君たちの言う所の創世神かな?厳密に言うと違うのだけど、細かい事は気にしなくていいよ。わかりやすく考えて。」
「じいちゃん。」
「なんだい?」
「聞きたい事があるの。」
「それでわざわざ来てくれたのか。最後にサイカちゃんが来たのが40年前。それから誰も来ないから忘れられちゃったかと思っていたよ。こう見えてこの世界の始めから生きているんだけど、それでも誰も来てくれないと色々と思う所があるよ。こうして頭の上に陸地を作ったのも気軽に遊びに来て欲しいからだし。ああ。人たるカンイチ君には家とかもいるかな?直に作るからちょっと「じいちゃん」。」
マシンガンの様に話す玄斗さんの言葉をサイカが遮る。
「ああ。ごめんごめん。何か聞きたいことがあったんだよね。」
「うん。地震が長いからカンイチ達は不安なんだって。」
「そのことか。カンイチ君。視力は良い方かな?」
「えっ。あっ。まぁ眼鏡がいらない程くらいなら。」
突然の質問にビックリした。
「なら見えないかな・・・・。」
そういって懐から筒状の物を取り出す玄斗さん。
「これであちらを見てみてくれ。」
言われた通りにする。
「蟹ですか?」
「うん。あれに追われてて逃げているんだ。」
「蟹から?」
「そう。ああ見えても僕と同じだけの大きさがある。小さく見えるのは距離があるからだけど、向こうの方が早いからそのうち追いつかれちゃうかも。」
「サイカにも見せて。」
筒をサイカに渡してあげる。
「確かに蟹だね。」
「蟹といっても僕と同類であちらの世界を支えているんだよ。その名も『万州』。種族は『世界礎蟹』だったっけ?」
「いや、聞かれても・・。」
初めて見るし、初めて聞くことなのでわかる訳が無い。
「何で逃げているの?」
「んー。聞きたい?」
「駄目?」
「駄目じゃないけど少し長いよ?」
「教えて。」
「竜族の王には昔語った事があるんだけど・・・。」
そうして始まったのはこの世界を取り巻くお話だった。
彼が知る始まり、それは大いなる母様と呼ばれる女神は世界を支える十種の生き物を生み出したのは最初。鰐・亀・蟹・蛇・象・蟻・蛸・蝸牛・海月・烏のそれぞれに似た十種のモノ達は、ソレゾレが世界を保有し生まれたのだという。
大いなる母が彼等に伝えたのは世界を守ること。
それだけを伝えると大いなる母なその姿を消したが、それでも彼等が困る事は無かった。世界を守る方法も世界に干渉する方法も全ての知識は与えられてたからだ。
彼等は同時に生まれた兄弟でもあったが、それぞれに世界の守り方は違った。
それは性格の違いと言っても良かっただろう。
自分の世界に対して積極的に干渉するモノ、干渉しないもの。話しが好きなモノ、独りが好きなモノ。寝るのが好きなモノ、動くのが好きなモノ。凝り性なモノ、飽きっぽいモノ。
鰐は一番大きな世界を持つが、干渉はせずに独りで寝ている事が多い。
カラスは一番小さな世界を持つけど、動くのと話すのが好き。
蛇は動き回り、飽きっぽく世界に干渉するのが好き。
等々。
特に玄斗が仲良かったのは蝸牛のエユミール。
あまり動かず、干渉もしない。話しを積極的にはしないけど決してお喋りが嫌いな訳ではない。お互いの世界が干渉し合わない様にずっと一緒にいた訳ではないけれど、ある程度世界が落ち着いてからは百年に一度くらいの頻度で会っていたらしい。
彼等の関係に変化が訪れたのは二千年に届かないくらいの頃。
「久々に会ったユミールが少しし小さくなっていたんだよね。もっとも元々僕の方が大きかったのもあるけれど、あきらかに小さくなってたんだ。それで訳を聞いたのだけど、ヨルムと言ってもわからないか。さっき言った兄弟の中で蛇の形をしている彼に襲われたんだって。ヨルムの特性は毒、ユミールの特性は再生。その相性のおかげで助かったらしいけど、回復しきれない部分はヨルムに取り込まれたらしい。」
特性とはそれぞれの世界礎獣が持つ特殊能力で、蛇のヨルムは毒、蝸牛のユミールは再生、亀の玄斗は結界、烏の矢胤は飛行、といった様に皆異なる特性を持ち、世界に住む生命にも影響を与えるらしい。
例えば今いる玄斗の世界では結界を始めとする魔法の存在、ヨルムや矢胤の世界では毒を持つ生物や宇宙を生物が多数派であること等といった風に。
「その話しを聞いて矢胤が尋ねてくれたんだけど、ヨルムは他の兄弟を倒してその世界を吸収する事によって自分と世界を強化し、安全を守ろうと考えていたらしい。」
「考えていた?」
そういうと言うことは今は違うのだろうか?
「うん。ヨルムは同じ様に考えていた万州に吸収された。万州の特性は頑丈。それだけならヨルムの勝ちだったかもしれないけれど、その前に蟻のトールに買っていた万州には吸収という特性もあって万州の勝ちとなったみたい。」
「それで次に玄斗さんが狙われていると。」
「僕が狙い目なんだろうね。動きは遅いし・・。それに矢胤は飛べるから捕まえにくいし、鰐の痕佐は象のディアを吸収して強大と巨大の特性を持っているからおっかない。海月のムニルは蛸の苦都を吸収している上に強くは無いけれど、狙うメリットはないんだと思う。彼等の世界は淡水と海水だけが存在する世界だから。まぁ僕を倒した後はわからないけど。」
「その鰐の痕佐さんやムニルさん達も戦ったのでしょうか?」
「いや、同意の元と聞いているよ。同意で吸収しているから、ディアと苦都の意識は残って残って居るけど主導権は二人の物といった形だね。僕とユミールもそうだし。」
なんでも小さくなり、再び狙われる危険を感じたユミールさんが吸収してくれる様に頼んだらしい。それに吸収されるなら仲の良かった玄斗に吸収されたかったんだとか。
その時大きくなった世界に出現したのが竜族と獣族、そして彼等の住まう大地という訳だ。
確かにそのに種族の回復力は高い。それこそが再生のユミールさんの世界から来た事による証拠でもあるそうだ。
「ちなみに吸収されるとどうなるかはわかっているのですか?」
玄斗さんには悪いけれど、今の様に共存していけるのだったらどちらの世界が吸収しても変わらない。
「うーん。確定ではないけれど向こうに吸収されたら淘汰かな。」
「淘汰・・・。」
共存と程遠い言葉だ。
「万州の世界に住む人口は約3万人。この3万人は5人の人間に使えているのだけど、何故5人かと言うと万州が自分の世界に干渉して戦わせ5人を選ばせているから。その戦いの時以外は彼等を支える存在でもあるけど・・・。まぁそうして生まれた5人は神、ここでは万州のことね。その万州の神兵となり他の世界に挑む時の戦力となっている。そもそも万州が僕を狙うと予想できたのが5人が出揃ったと矢胤が教えてくれたからでもある。」
「つまり僕らが向こうに行ったらその5万人に含まれるという事ですか?」
「多分ね。もちろんトップの5人に立つ事もできるかもしれないけれど、向こうには他者を倒して自分の力とする概念があるから中々難しいとは思うよ。」
「こちらに吸収した場合は?」
どちらにせよ向こうが圧倒的に強いなら侵略される恐れがある。
「諍いが無いとは言い切れないけれど、それでも向こうの概念をこちらに取り込んでゼロベースから始まるからカンイチ君が心配している様なことは起きないと思うよ。僕は積極的に干渉するつもりはないけれど無干渉では無いから色々と調整もするつもりだし。」
「なら勝って下さい。」
「簡単に言うねー。」
そうは言っても戦いの規模が違いすぎる。
例の5人ならまだしも世界の大きさを持つ敵と戦えるとは思えない。
「まぁ勝つというよりもどう逃げ切るかが問題なんだけどね。」
「戦わないと?」
「戦うつもりなら何ヶ月も逃げたりしないさ。そもそも向こうは攻撃手段が沢山あるけれど僕の場合は口で噛むか足で踏むくらい。その上見ていてわかるかもしれないけれど僕の動きは遅いからね。」
確かに話している間にも歩みを止めてはいないけれど一歩一歩がとても遅い。
それに比べて万州の方は幾つもの足を持つ上に大きな鋏を持ち、尾からは蛇の頭。よく見れば触覚の先には蟻の頭が見える。
「同意ではなく戦いで吸収するとああなるんだ。」
僕が見ている事がわかったのだろう玄斗さんが教えてくれる。
「他の方に助けを求めるのは?」
「矢胤には頼んだけど、彼も戦う力は大きく無いし、痕佐は動く事は無いし、ムニルも似た様な物だね。
」
「そうですか・・・。」
助けが無い以上自分達でなんとかしないといけないけれど、外をみても黒い地面が広がるばかりで障害物はなさそうだ。
せめて痕佐さんの所まで逃げ切れれ場よいのだろうけど、速度差から考えるにはここから見える範囲で捕まるだろう。
「とにかくその五人の事だけでもなんとかしましょう。」
「サイカ。」
「・・・。ん?」
話しが長くて寝ていたらしい。
「悪いけどクリスティーナさんと信長さんにこの事を伝えてくれる?少なくとも側近の誰かには来て欲しいってことも。」
「わかったー。」
話しばかりで退屈だったのだろう、あっという間に飛び出していった。
「さて、僕達ができることがあるかどうかわかりませんが、話し合いましょう。」
「そうだね。まずはあちらに移動しようか。」
何処か嬉しそうな玄斗さんに促されて何時の間にか出来ていた家へと向かう。
追いつかれるまでにどれだけの事が出来るだろうか・・・・。
後数話で終わる予定です。




