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16:『パイルバンカー進化した?』

 あの立ち会いから5年が経つ。


 あれから信綱さんはを大和の国で過ごし、きっちり二年後に旅立って行った。

 新しい武術や強者との立ち会いが目的の様だけど、何をしているのかはわからない。それでも毎年武闘大会には出場し優勝しているらしいので元気なのだろう。

 ちなみに今年で三度目の優勝を果たし、それに合わせて一時帰国するとの連絡を武者修行と称して一緒に付いて行った孝三さんから手紙で知らされた。

 その為、鬼頭家では小春さんが張り切って出迎えの準備をしている。


 この五年で変わった事がいくつかあるけど、まず一番大きな変化は僕に子供ができた事。

 それも三人?

 疑問系なのはいまいち確信が持てないからだ。

 子供ができたのに会わせて結婚もしている。相手はシェスタと三冬。


 子供の名前はシェスタとの子供がトリー。女の子で長女でもある。

 次の子が三冬との子供で信明。男の子でいずれ鬼頭家を継ぐ予定だ。ちなみに名付け親は信長さん。

 三人目がサイカとの子供で雪。


 雪はサイカとは異なり真っ白な体を持ち、目は僕と同じ黒目の女の子。クリスティーナさんやアカリさんに言わせると僕に似ているらしいけどよくわからない。だって竜だから。

 卵から生まれたし、そもそもサイカと男女の関係になっていない。

 シェスタと三冬に付いては二人同時に告白され順にそう言う事になったが、サイカに付いては二人の子供を見て羨ましがったあげくに子供を作ると宣言。翌週には蜂谷家の庭で卵を温める黒竜の姿があった。

 なんでも契約によって得られた僕からの魔力をサイカの体内でサイカ自身と合わせ、卵となったらしいけどよくわからない。サイカ自身もそういうものだと思っている様なので説明を聞いてもさっぱりなのだ。

 ちなみに雪は今ここにいない。竜族の掟に則り生まれて一年目に竜族の里に連れて行った。人形になれるまではこちらに出て来る事はできないらしい。

 サイカはこちらに残って居るが、一週間に一度くらいは会いに行っている。


 他には蜂谷家が大和国の上級貴族にできた。これは僕の知識が国の為に生きると判断した信長さんの決定だ。ただし一代限り。僕としては役に立っている気はしていないので住む家ができてラッキーくらいに思っている。

 もちろん修行もしたし、二人が妊娠する前には近くのダンジョンに潜たっりもし、そのうち一つは制覇することができた。ダンジョンの最下層まで潜りそこに巣食っていた蝸牛の化物を倒しただけなのだけど、これによりそのダンジョンの所有権は僕達の物となり、入場制限や近くの土地などを利用して収入を得る事ができるらしい。

 これは大和の国やいくつかの国で行われている制度で、これによりダンジョンの制覇を皆に推進しているとのことだ。

 もっとも管理とかは面倒なので、信長さんに丸投げしているけどね・・・。

 

 さて、僕は面倒な事を信長さんに任せてはいるけれど、別に遊んで暮らしている訳ではない。

 

 「旦那様そろろお時間です。」

 「ああ。わかった。」


 三冬は結婚・・・っというか僕のパイルバンカーが彼女に侵入した翌日の朝から僕の事を旦那様こう呼ぶ様になった。その所為で翌日には関係が小春さんたちにバレたのだけど、良い思いでと言う事にしておこう。


 「では、本日はここまでという事で。」 

 「ありがとうございました。」


 三冬の声で稽古に付きって貰っていた鬼影きえい克人かつとさんに御礼を言ってその場を後にする。ちなにみ克人さんは孝三さんのお父さんであり、それと同時に鬼影流柔術の師範でもある。

 孝三さんは入り婿で、柔術よりも剣術に惚れ、また小春さんに惚れてしまい家を飛び出したのだ。

 現在は孝三さんのお兄さんである功一さんが当主となり、お体があいているという事なので蜂谷うちに滞在してもらい、稽古を付けてもらっている。

 その克人さんと別れると井戸で汗を流す。


 「こちらを。」

 「ありがとう。」

 

 三冬が用意してくれた着物を纏う。

 さすがに着物にも慣れたけれど、着付けを手伝ってくれるのは助かっているので、これも毎朝の光景だ。


 「「いってらっしゃいませ」」


 シェスタと三冬に見送られて家を出る。

 おそらくサイカはまだ寝ているのだろう。もっともサイカに見送られる事なんて殆どないけれど。

 

 「貫一殿こちらだ。」


 筋骨隆々の男が街の入り口で待っていてくれた。


 「頭領。待たせてしまった様で。」

 「いや、儂が楽しみで早起きしただけのこと。それに年寄りの早起きは最早習慣だ。気にせんでくれ。」

 「むっ。」


 地面が揺れた。


 「またか。」

 「最近多いですね。」

 「困った物だ・・・。」


 ここ一年程地震が多い。

 数百年の周期で地震が多くなるらしいのでサイカや信長さんは動じていないが色々と不都合もある。


 「ここですね。」

 「ああ。折角通してもらったのに申し訳ないがもう一度頼む。」

 「いえ、僕も完成が楽しみですから。」

 

 その不都合の一つが地震による崩落の危険。


 「では少し離れていて下さい。」

 「うむ。」


 頭領が離れたのを確認して唱える。


 『長尺杭打ボーリングパイルバンカーVer.500m』


 本日の仕事。それは数日前に崩落してしまった縦穴の修繕。

 よくわからないけれど、縦穴の強化は親方が住ませてくれているので僕がするのは用意された穴にパイルバンカーを打ち込む事。


 『二連』


バシュッバシュッ

 一度目で岩を砕き、二度目でお湯まで辿り着いた。


 「退避ー。」

 

 親方の言葉でその場から立ち去る。

 もっともお湯がかかる範囲に居たのは僕だけだけど。


 「助かったぜ。」

 「狙い通りに行きましたね。」

 「ああ。もう少しすれば湯量も落ち着くだろう。そうなれば配管に繋いで完成さ。」

 「楽しみです。」

 「儂もな。」


 完成するのは温泉。

 それも大小の温泉施設を組み合わせた『大京温泉郷』。

 修練によりパイルバンカーの杭の部分を長くできる様になった為に井戸掘りを請け負っていたのだけど、ある時温泉を掘り出せないかという話しになり、火と地属性の魔法使いの協力により温泉の源泉を発見したことにより話しは加速。

 これまでに施設の建設を含めて約一年。ようやく完成が見えたのだ。

 ちなみに街の外だけど、塀に囲まれているので魔物の侵入は防げる。いずれは街と繋げ、直接行き来できる様にする予定である(信長さん談)。


 ここのところ僕の仕事と言えば温泉堀りだったけれど勿論それだけではない。

 魔獣の討伐に始まり、井戸掘り・鉱石掘り・基礎工事(穴開け)・木材伐採・トンネル掘りと色々ある。まぁ土木系に偏っているのはご愛嬌であるが・・・。


 「おっと。」

 

 汁をこぼしそうになったシェスタを支える。

 家に帰るとシェスタが食事を用意していてくれたが、その配膳中にまた地震だ。


 「ありがとうございます。」

 「それにしても多いな。」

 「本当に・・・。」


 地震大国日本出身の僕としても、これだけの頻度の地震は味わった事がない。


 「確かに今回のは長いかも・・・。」


 目をこすりながらサイカがそんな事を言う。

 まだ眠い様だけれど、寝坊助のサイカもこの時間には起きる。以前はそんな事がなかったので進歩と言えば進歩だ。もっともこの時間に起きて皆と食べないと朝食を自分で用意しなければならず、サイカは料理もしなければお金も無い為に食欲と睡眠欲が戦い食欲が買っただけだと思うけど。


 「昔のは違ったのですか?」


 サイカにも配膳をしながらシェスタが尋ねた。

 三冬がいないのは子供達を見ているからだろう。シェスタが家事をしているときは三冬が、三冬が家事をしている時にはシェスタが子供を見るのはうちでは既に見慣れた姿だ。勿論僕も面倒は見るが、母親二人には勝てそうも無い。


 「うん。前回は一ヶ月くらいだったはず。その前は生まれてないからわからないけどー。」

 「既に三ヶ月ですものね。」 

 「移動距離が長いのかなー?」

 「移動?」


 地震と関係あるのだろうか?


 「あー。人には内緒なんだっけ?」

 「なんのことですか?」 

 「まぁパートナーだしいいのかな?数百年ごとに玄斗の爺ちゃんが移動すると地震が起きるんだぞ。」

 「そうなのですか。」

 「うん。」


 その玄斗とやらは大型の魔獣かなにかなのかな?


 「何故移動をするのでしょうか?食事の為とかでしたら対策の取り様もありそうですけど。」

 「何でだろう?姫様なら知っていそうだけど、後で聞いてみる?」

 「そうだな。話して良い様なら聞いてみてくれ。」

 「わかった。」


 人達には話せない竜族の秘密ならクリスティーナさんがそう言うだろう。

 それに竜族が原因を知って放置しているという事はそれほど大変な事でもないのかもしれない。そうであれば時期が過ぎ去るのを待てば良いだろう。

 子供達がもう少し大きくなるまでは旅に出ないと決めているのだし、家でゆっくりするのも悪く無い。


 「折角だしカンイチも一緒に行こう。」

 「わかった。」


 今日はもう予定もないし、久しぶりにクリスティーナさん達に会うのも悪く無い。

 それに竜族の国へ行けば雪にも会えるしね。


 

 シェスタと三冬は留守番。

 子供達の面倒を見るという事も必要だし、僕一人だけの方がサイカも飛行速度をあげられる。

 その代わりではないけれど、シェスタがお弁当やお土産を用意してくれるというので楽しみにしておこう。






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