15:『パイルバンカーVS剣聖』
信綱さんは食べ終わると寝てしまった。
眠くならないと言ったのは何だったのだろう・・・。
まぁお腹が一杯になったからだという事にしておこう。
日も暮れ始めた頃に起きて来た信綱さんと話していると来客が告げられた。
「邪魔するぞ。」
僕達が出迎えるまでもなく部屋に入って来たのは30歳程に見える女性。
長い黒髪を後ろで一つに結わえていえる。
「久しぶりだ。今度の体は女か。」
「あれから退行が始まて今度はこれだ。それにしても今回は早かったな。」
「うむ。紹介しよう。此度の来訪者。貫一殿だ。」
「初めまして。蜂谷貫一です。」
紹介を受けて頭を下げる。
「源蔵からも聞いておる。この国を預かっておる織田信長だ。かつては六天大魔王とかうつけと言われておったが知っておるか?」
「はい。桶狭間の戦いとか色々と有名ですし。」
「今の世にも名が残って居るか・・。」
「嬉しそうだな。」
「わかるか?」
「まぁ儂も新影流の名前が出たときは嬉しかったしな。」
「以前来た者も知っておったしな。」
「ああ。」
僕の前に来訪者(僕達の様な存在をこう呼んでいるらしい)は約50年程前。
話しを聞く限りだと、第二次世界大戦中、乗っていた戦闘機に被弾、墜落の途中で意識を失ってこちらに来たらしい。最後まで日本の心配をしていたらしい。今度彼の眠っている場所に報告しに行こう。
その時に出会った神様は風の神なんだとか。
これまで来訪者が出会った神様についてはそれぞれ社が構えられており、今回僕が出会った神様に付いても奉られることになる。
その上で、あの神様の名前は僕が決めることになったのだけど、悩んでいる。
ちなみに、信長さんが出会った火の神は「種子島」。
生命の神は「糞悪魔」。
信綱さんが出会った武の神は「建御雷之男神」。
戦闘機に乗っていた久保田さんは愛機の名前から「月光」。
生命の神様は最初むかついていた時につけた名前なので突っ込むなといわれた。そう思うなら名前を変えれば良いと思うのだけど、なんでも一度命名して奉ると名前を変える事ができないらしい。
名前を書き込んだ石碑を削っても同じ名前が浮かぶのだとか。
うーん。どうしよう?
取り合えず今日中に決める必要もないので、決め次第知らせる事になった。
その後も話しは尽きる事が無く、色々と面白い話しを聞かせてもらった。そうして信長さんも一緒に夕食を食べ、最後帰り際にこんなことを言ってくれた。
「この国を自分の国だと思って過ごすが良い。」
嬉しかった。
この世界で根無し草の僕の戻る所ができたということが。
今後世界を見て回るつもりだけど、結局の所ここに戻って来るのだろうと思う。
食べ物もおいしいしね!
翌朝。
朝食前に信綱さんと立ち会う事になった。
場所は街から少し離れた湖の辺。
見学をしている孝三さんが道場を貸してくれるとも言ってくれたけど壊しそうなので遠慮しておいた。
他にも三冬さんや小春さんシェスタ、信長さん、朝稽古に来ていた人達等が見学しているが、サイカだけは未だ夢の中だ。彼女はお寝坊さんなのだ。
「では始めるか。」
そういう信綱さんの手には刀が一振り。
これは神社の御神体として奉られていたもので、信綱さんの愛刀でもある。
なんでもこの地に居た邪竜の牙を研いで作られたものなんだとか。
「はい。お手柔らかに御願いします。」
そう。お互い本気ではやらない。
僕の場合は街への被害が出る可能性があるし、信綱さんが本気になった場合は僕の命の危険があるから。
あくまでも目的は僕の能力を見たいという信綱さんの希望を叶える事と、その信綱さんのウォーミングアップ。
『右手装着』
手始めに撃つのはエアパイルバンカーだけど、三冬さんに効かなかったものが剣聖とまで呼ばれる信綱さんに効くとは思えないので、最初からエアハンマーを混ぜてランダムに発射。
「ほほう。空気圧か。」
直に正体を見切られて避けられるけど、予想通りといったところだ。
さらに弾数を増やして逃げ道を無くす。
チンッ
抜く手も見えなかった。
どうやらエアハンマーは斬られると消滅してしまうらしい。
空気の塊なら切った後に風が巻きあがりそうなものだけど、信綱さんが言った様に圧だけが存在しているのだろうか?
チンッチンッ
その間にも次々に斬られて行くエアハンマー。
エアパイルバンカーが斬られていないのはハンマーを斬った方が逃げ道が大きいからだろう。
『両手足装着』
このまま続けても攻撃が通る事はなさそうなので接近戦に変える。
戦法は三冬さんの時と同じ。
土埃を建てて強襲。
「甘い。」
刀の一振りで土埃は除けられたけど、気にせず直進。
色々考えたってやれる事は多く無いのだ。
「エイッ。」
気合いと共に右手を突き出すけど、避けられた。
続く左手も同じ。
手だけでなく足も全て避けられる。
「これだけか?」
僕は予想して通りなのだけど、信綱さんに取ってはそうではなかったらしい。
余裕しゃくしゃくに避けながらそんな事を言われた。
「ではとっておきを。」
予想通りとはいえ、男として一泡吹かせてやりたい。
『退路遮断』
登録しておいたキーワードで発生するのはエアハンマー。
その数は四つ。今の僕が同時に出せる上限でもある。配置は間合いの外に四方。
近づけば斬られるのだろうけど、目的はその名前の通り逃がさない事なので構わない。
発動を確認する前に飛び上がり次なるキーワードを唱える。
『全身之杭撃武器也』
僕から見えるのは足下の杭と前面に広がるシールどのみだけど、周りの皆には巨大なパイルバンカーと映っていることだろう。
杭の太さは僕の胴の太さ。杭の長さは僕の身長。それを打ち出す本体部分は杭の大きさに比例して大きい。
これが今の僕が出せる最大のパイルバンカーだ!
「こい!」
ニヤリと笑って信綱さんが刀を構えた。
逃げるつもりはないらしい。
こちらは自由落下に任せるしか無く、狙いを変える事ができないのでありがたい。
「くらえ!!」
間合いにはいった瞬間に杭を打ち出す。
「はっ!」
巨大な杭に大して信綱さんがした事は、気合いと共に杭に斬りつける事。
「なっ!」
その結果は杭の切断。
驚いた・・。避けられるとは思っていたけれど斬られるとは思ってなかったよ。
それでも杭は打ち出される。先端を50㎝ほど失って・・。
「くっ。」
今度の驚きは信綱さんから。
本来のパイルバンカーは一点にその威力を集中させる事によって敵の装甲を打ち抜くのだけど、これだけ巨大なパイルバンカーから生み出される余波はそれなりにある。
地面にクレーターができる程に。
特に今回は先を斬られた事により、地面に当る面積が広くなったのが大きいと思う。以前実験したときよりもクレーターが大きい。
生み出された風と土砂に体勢を崩している信綱さんを掴む。
もう逃がさない。
『三点バースト!』
これが僕の最速のパイルバンカー。
右手に生み出されたパイルバンカーが信綱さんを打ち抜く。その前に右手に電気の様な痺れが走り、掴んでいた信綱さんの襟を放してしまった。
驚く間もなく次の瞬間には刀が突きつけられている。
それも御丁寧に右手の装甲を貫いて。
「参りました。」
「武術を学んだ事がないというのは本当の様だな。威力や発想に比べて動きが素人のそれだ。」
「信じてくれました?」
「ああ。日本は平和になったのだな。」
「はい。」
昨日の話しの中でできた話題の一つが僕が武術を学んだ事がない事について。
その中で日本は平和になり、信綱さん達の様な修行をする人はほとんど居ないと話したのだけど、いまいち信用してくれなかった。僕の前に来た久保田さんも戦争中にこちらに来た様だし、しょうがないのかもしれないけど・・・。
「戦乱無き国。」
「世界中を見ればそんなことはありませんけど。」
「それでも・・・。いや言うても始まらん。我らのする事は故国を思う事よりこの大和の国をより豊かに安全にする事。貫一殿暫くの間頼むぞ。」
「お役に立てるかはわかりませんが、こちらこそよろしくお願いします。」
僕に求められたのは現代日本の知識。
政治家でも研究者でもない普通の大学生である僕にやれる事は多くは無いと思うけれど、それでも良いと信長さんも信綱さんも言ってくれた。
今までも来訪者に知識を教えてもらってきた。それがこの大和の国が若くして他の国に認められるまでになった一要因であるらしい。
僕が教わるのは武術。
この世界を生きて行くための力。
これは心配していた様に力だけでは倒せない敵もいると教えられたので僕から頼んだ。
期限は信綱さんが旅に出るまでの二年間。
本人は直にでも旅立ちたいらしいけれど、信長さんに怒られて渋々了承いていた。
確かに国の重鎮が自分の国を放っておいて旅に出ちゃ駄目だよね?
それも約50年ぶりの出仕なのにさ・・・・。
こうして僕の大和の国での生活が始まるのだった。




