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14:『パイルバンカーと剣聖』

 大和の国について三日目。

 人が寝静まった深夜、付きに照らされた砂利道を僕は歩いている。

 ちなみに一日目は疲れているだろうという事で早めの夕食とお風呂で就寝。二日目は三冬さんの帰国と優勝のお祝い、それに僕達を歓迎する宴だった。


 (賑やかだったな・・・)


 そんな事を考えていると、遠くにある色町の喧噪が聞こえた。

 だけど、それも大分静かになった。こんな時間に歩いているのは酔っぱらいか盗賊、若しくはそれらを世話する警備の人達くらいだろう。


 「ここか。」


 砂利を踏みしめ辿り着いたのは、京でも一番大きく古い神社、その拝殿の裏手にある池。

 池は涸れる事が無いと有名で、その水は懇々と湧き出て、小川となって流れ出ている。その池の中心。二本の木に挟まれて存在している祠。

 僕はその祠に用がある。


 三冬さんの話しでは、祠は年に一度神主が世話をするくらいで他の人がお参りする事は無いらしい。武術の神様が祭られているだけ有り、尋ねる人は少なく無いらしいが、殆どの人は中央に存在する拝殿に参るし、武術が盛んな大和では分社も多いらしいので日参する人も居ないようだ。


 「さて、どうするか。」


 寒く無い時期だとはいえ泳いで渡るのは濡れるし嫌だ。

 神主さんの使用する為であろう小舟があるが、水から上がっている手前勝手に使うのも悪い気がする。


 「まぁ大丈夫だろう。」


 目測で計算して準備をする。


 「両足装着。あの辺かな・・。」


 最悪水に落ちるだけだ。

 それでも落ちない様に気を付けながら飛び上がる。 

 正確には横移動。いつも使う直進のダッシュだ。

 どうも目的地までの移動は足を使っているのではなく、飛んでいる様だと思った僕の意見は正しかった様で、水に濡れる様な事は無く、目的の祠の前に着いた。


 「反対側が見えるなら崖も飛び越せそうだな。」


 そう呟いて懐から酒瓶を取り出すと祠に向かって二礼二拝一礼。

 続いて祠の中に祭られている小刀を取り出し抜くと、その刃を同じく祠の中に祭られている石碑に書かれている文字の真ん中に刺す。

 書かれている文字は『上いず封のぶ綱』。その封の文字に突き刺しその上から酒をかける。最後に石碑を蹴倒すと粉々に砕けた。

 これで何も起きなかったらただの罰当たりだけど、そんな事は無く、地面から光が生まれた。

 もっとも本人が頼んでいたのだから罰当たりと言われても困るけど・・・。


 「ふむ。今は何年だ?」

 「さぁ?この国に来たばかりなのでわかりません。」

 「一応聞くが、儂が誰かわかっているのかな?」

 「上泉信綱。柳生新影流の創始者ですよね?」

 「正確には新影流、柳生が付くのは儂の死後に変化した一つだ。」

 「そうなんですか。」

 「驚かんのか?」

 「あらましは石碑で読みましたし、お二人とも過去の偉人ですから。」

 「そんなものか。以前儂を呼び出したのは興奮していたがなぁ・・・。」

 「まぁ僕は剣術をやっていた訳ではないですし。」

 「なら信長の方が良いか。」

 「うーん。実際有名人にあっても興奮しないタイプなんだと思います。」

 「そうか。」

 「まずは移動しませんか?」

 「構わぬが船は?」

 「ありません。」

 「泳げと?」

 「いえ。ちょっと失礼します。」

 

 一言断って持ち上げる。所謂いわゆるお姫様抱っこだ。

 相手が30程のおっさんというのが楽しくは無いけれど・・・。

 

 「変な気分だな?」


 そうだと思うけど、気にしないで飛ぶ。


 「ほ、凄いな。これがお主の祝福か。」

 「そのようなものです。」

 

 岸に着いたので地面へ下ろす。


 「まずは神主を叩き起こす事にしよう。」


 彼の中では決定事項らしい。

 ごめんね。神主さん。


 始めてこの国に来た日に見た石碑。

 それにはこの国の起こりと、起国に多大なる影響を与えた二人の話し、それと神主さんを叩き起こしている彼、上泉信綱の起こし方ともう一人の国の祖、織田信長の秘密が書かれていた。


 起こし方は先程僕がした通り。

 二人の秘密とは日本からやって来たという事と二人に与えられた祝福と呪い。


 「まぁざっと話すな。」


 神社の一室で酒を飲みながら語ってくれたのはその祝福と呪いについて。


 まず上泉信綱その人に与えられた祝福とは転移と若返り、そして封印召喚。

 転移と若返りはこの世界に来る時に若返ったということ。封印召喚とはこの神社で眠り、起こされた時のみ年を取らず生きて行けるという事。これは、自分の武を更なる高みに持って行きたいという彼の望みを叶える為でもあった。

 この祝福を与えてくれたのは『武の神』。この神社はその神様を奉っているのだとか。


 そしてもう一人の国の祖、織田信長に与えられたのは祝福と呪い。

 与えたのは火と生命の神。

 祝福は死の淵にあった命を生き延びさせたという事。

 呪いとは他の人よりも力が弱い事と命が繰り返されるという事。

 かつて授業でも聞いた事がある本能寺の変。その炎の中で彼が望んだ生き延びるという事は、祝福によって叶えられたが、それまでに彼が奪った命の量とその人達の恨み。それに命の神の怒りから呪いを与えられたらしい。

 この二柱の神についても神社が建てられている。


 「見付けたときは大火傷をした子供でよ。信長だとは思わなかったわ。」

 「大火傷ですか。」


 傷は治してもらえなかったという事かな?


 「ああ。助からないかもしれないとは思ったが、生き延びた。もっとも死なない呪いもかけられているようだが、なんでも転生間際に「焼ける苦しみを味わえ!」とか言われて生命の神にやられたらしい。」

 「焼ける苦しみ・・。」

 「彼奴が奪った命、その死と同じ苦しみを死ぬ前に毎回味わう。」

 

 毎回というのは、何度も命を繰り返すから。

 ある程度の年まで生きると、火傷なり切り傷なりの苦しみを味わい徐々に若くなっていき、最後赤ん坊間で戻る。およそ一歳くらいまで戻ると再び年を取る。それの繰り返し。

 二人の予想では、奪った命の数だけ繰り返し、その者が死んだ年まで生きるのではないかということだ。


 「彼奴は始めは悪態ばかり吐いていたが徐々に慣れ、儂を含む幾人かの仲間と世界を見て回ったわ。異なる世界というものがこうも興味深いものだとは思わんかった。貫一も見て回ってみると良い。」

 「はい。暫くここに滞在した後に見て回りたいと思っています。」

 

 竜の国や魔物の森、アイテムが眠るダンジョン。気になる事はいっぱいある。


 「もっとも危険も多い。暫く滞在するなら儂が鍛えてやろうか?」

 「ありがとうございます。でも僕は刀を使いませんから。」

 「ふむ。急ぎすぎてフラレタか・・・。まぁ明日お主の力を見せてもらってからにしよう。」

 「はい。」


 明日、再び会う約束して一人神社を出る。

 一人なのは、この神社には代々信綱さんのことが言い伝えられていて、彼用の部屋もあるらしいからだ。

 もっとも神主さんは驚きまくっていたけど・・・。

 今は興奮の方が強いらしいので大丈夫だろう。


 

 


 

 「頼もう!」


 その声で起きた。

 玄関の方へは誰かが向かってくれた様だけど、恐らく信綱さん。

 昨日聞いた声な気がするけど、早くない?


 この世界の朝が早いと言っても早過ぎる。

 朝食もまだだし、朝稽古の人達が集まりつつあるくらいだ。

 それに昨日別れたのも遅かったのに・・。


 「貫一殿。起きていられるか?」

 「あー。起きてます。今、着替えたら行きます。」

 「お願い申します。」


 部屋に来てくれたのは爺やさん。

 色々言わなくても僕が了承している事をわかってくれたらしい。

 それだけ言うと扉の前から気配が消えた。



 「こちらへ。」

 

 気配が消えたと思っていたのは僕の勘違いだったらしい。

 扉を開くと爺やさんが膝を付いて待っていてくれた。 


 「剣聖様がお待ちでございます。」

 「剣聖?」

 「はい。お知り合いとうかがっておりますが・・・?」

 「信綱さんじゃなくて?」

 「剣聖、上泉信綱様でございます。」


 どうやら信綱さんは剣聖らしい。


 「大和において古今最強、武を起こした御方です。」


 爺やさんの言う所だと、大和に数ある道場、その各流派の祖を辿ると、ほどんどが信綱さんの弟子になるらしい。

 そりゃ凄い。


 「貫一殿をおつれしました。」

 「うむ。」


 部屋に入ると正面に信綱さん、その向いに孝三さんと三冬さん、それにもう一人三冬さんのお爺さんである鬼頭家当主鬼頭源蔵さんが座っていた。


 「それでは私共はこれで。」

 「朝稽古の邪魔をして悪かったな。」

 「いえ。」


 それぞれが一礼して部屋を出て行く。


 「貫一。」

 「はい。」

 「さっそく立ち会おうかと思ったが、朝食を出してくれるらしい。その後で良いか?」

 「はい。というか早すぎです。あの後飲んでいたのではないのですか?」

 「うむ。朝まで飲んで刀家とうけの奴が眠ってしまったのでそのままここへ来た。」


 刀家とうけの奴とは神主さんの事だろう。代々の神主は刀家の当主であるが、当主になると名を捨て

る。これは信綱さんが望んだ訳ではないけど、代々の仕来りで刀家とうけの祖であり、信綱さんの弟子でもあった人から続いているらしい。

 この祖となった人は名字も名も持たなかった孤児であった為、信綱さんがとうの名前を与え上泉の名前を名乗る事を許したのだけど、最後まで名乗る事は無く「とう」の一文字だけを自らの名前と定めた。その為に代々の当主が「とう」を名乗るのだろう。


 「寝てないのですね・・。」

 「ああ。大体封印が解けた後は眠くならんのだ。寝すぎて眠く無いのか、興奮していて眠く無いのか判らぬが・・。」

 「失礼します。」

 

 そんな話しをしていると小春さん達が膳を運んで来てくれた。


 「有り合わせですが。」


 そうは言うけれど、炊きたての白米に根深汁、魚の干物、卵焼き、菜の花の和え物、お新香と見た目にも美しい。


 「これは何よりだ。早速いただいてもよろしいか?」

 「貫一さんもどうぞ。」

 「いただきます。」


 手を合わせて箸を取る。

 まずは根深汁から。


 「美味い。」


 その言葉は僕の口からではなく信綱さんの口からでた。


 「うれしゅうございます。」

 「起きて始めの食事がこれほどのものとは嬉しいのう。」

 

 昨夜の酒盛りは急だったため食事らしい食事はなかったしね・・。


 「しかしこれほどの食事が用意できるとは、この国は平和な様だな。」

 「はい。お二人のおかげでございます。」

 「いや、お主達の働きだろう。礼を言うぞ。」

 「もったいないお言葉でございます。」

 「頼んでも良いか?」

 「はい。」

 「どうも腹が減っておってな。」

 「でしたら。」


 小春さんが外に声をかけると更に料理が運ばれて来た。

 

 「お話は聞いております。更に作っておりますので御召上がり下さい。」

 「すまぬな。」

 

 なんでも封印が解けた後は毎回沢山食べるらしい。

 そりゃ何年も寝ていたらお腹もすくか・・・。

 信綱さんにつれられて二回もご飯をオカワリしたけれど、彼はそれ以上に食べる。ご飯だけでもオヒツ四杯はいっただろう。それに出されたおかずも片っ端から食べた。どこにこれほどの量が収まったのか不思議なくらいだ。

 途中から参加したシェスタもサイカも驚いていたし、朝稽古が終わった源蔵さん達が食べ終わっても食べ終わる事はなく、昼食までこの食事は続いた。


 食べていた信綱さんも凄いけど、ずっと給仕をしつつ台所への指示も完璧だった小春さんも凄いと思う・・・。

 

 


 歴史上の偉人なので色々と思う所はあるかもしれませんが、あくまでもフィクションですので・・

 ほら、この日本とあの日本が同じとは限らないし?


 適当にスルーを希望します。

 ごめんなさい。

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