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13:『パイルバンカーヤマトに降り立つ。』

 「ようこそヤマトの国、首都キョウへ。」


 街へ一歩踏み入れたと同時にミフユさんがこちらを振り向いて言った。


 「本当なら国境の街で言うべきなのだろうが、今回はここまで飛んできたからな。」

 「サイカのおかげで大分早かったね。」

 

 三ヶ月と言われていた道のりをまさか二日で踏破するとは思っても無かった。


 「ふふん。人を乗せてなかったら一日もかからないぞ。」

 

 あれで全力ではなかったのか・・。

 

 「確かに威張るだけの事はあるな。助かった。」

 「パートナーの為だ。普段は人を乗せないんだからな。」

 「サイカちゃんありがとう。」

 「うん。シェスタも友達だからな。」

 「うん。」


 サイカの中ではシェスタもミフユさんも友達らしい。

 昨夜、野営をしながら話してそう言う事になった。ちなみに僕とミフユさんも友達。友達なら名前で呼び合おうという事になったのだけど、その時に面白い話しも聞いた。


 「本当に漢字があるとは・・。」


 一部、読めない字もあるけれど、このヤマトの国の文字は大体読める。と言っても使われているのは名前と地名くらいらしいし、名字を持ち名前も漢字なのは他の国で貴族と呼ばれる上位武士だけ。

 ちなみに、ミフユさんは鬼頭三冬、ヤマトは大和、キョウは京と書く。

 

 「ますますカンイチは大和の出身に思えて来るな。」

 「そうだね。」


 僕の名前も漢字で見せた所、僕の両親が大和出身だったのだろうと三冬さんとその付き人の彩花さんが推測していた。まぁ大きくは外れていないだろう。首都が京と言うくらいだから昔の人かもしれないけれど、この国を作ったのは日本人だと僕も思う。


 「まずは我が家へと案内しよう。」


 これから暫くは三冬さんの家に泊めてもらう事になっている。

 宿でも良かったのだけど、友を泊めるのは当然だと押し切られた。


 


 「これは?」


 案内されて歩いていると見覚えのある赤い鳥居が目に入った。


 「ん?そこは神社だ。他の国で言う所の教会や神殿といったところだな。」


 他の建物は石造りの物も多いけれど、この神社は木造で僕が見た事ある神社と同じ様な造りだ。


 「丁度良い帰国の挨拶だけしてしまってもよいか?」

 「勿論。」


 皆、嫌は無い。

 三冬のあとをついて皆でお参りをする。


 「この石碑は?」


 拝殿と手水舎の間に日本語で書かれた石碑があった。


 「一部漢字で書かれているが、よくわかっていない。他の神社にもある。どうもこののたくった部分も文字ではないかといわれてはいるのだが、今の所わかっていないな。」

 「そうなんだ・・。」


 のたくった部分とはひらがなとカタカナ。

 それに同じ内容がローマ字でも書かれている。


 「まぁ挨拶も済んだ、今度こそ我が家へ案内しよう。」


 暫く歩いて行くと、大きな家が立ち並ぶ一角が見えてきた。

 その一角の一番手前で曲がり街の外側へと向かうと、少し歩いて足を止めた。

 中を覗き込む三冬さん。


 「やっておるな。」


 その言葉は敷地の中から聞こえる何かを打ち付ける様な音を聞いてなのだろう。

 そしてその顔は嬉しそうに綻んでおり、帰郷を喜んでいるのがわかる。


 「ここが我が家だ。小さいながらも道場を構えておるから慣れぬうちは五月蝿いかもしれんが、昼間だけなので勘弁してくれ。」

 「道場を構えているのですか。」


 あれだけの強さの理由か・・・。


 「この国に道場は多い。特に京にはな。」


 慣れた様子で入って行くのでその後に着いてお邪魔する。


 「誰か!」


 音がする道場ではなく、母屋と思われる玄関で三冬さんが声を張り上げると目の前の障子が開かれた。


 「お帰りなさいませ三冬様。」


 障子の裏から出てきたのは白髪頭のお爺さん。

 正座をし、頭をしっかりと下げつつその目は三冬さんをとらえている。


 「相変わらず爺やは出迎えてくれるのな。」

 「暫く聞いておりませんでしたので、足音を捕え損ないましたが、既に奥様と旦那様には連絡しております。」

 「そうか、こちらは・・。」


ドダダダダ。

 丁度僕達を紹介しようとする所で、男性が玄関に走り込んできた。

 

 「三冬帰ったか!」

 「父上。ただ今帰りました。」

 「うむ。よく帰ぇ・・・。」


 僕と目が合って言葉が止まった。


 「初めまして。蜂谷貫一です。」

 

 親子の会話を邪魔するのもどうかとは思ったけれど、目が合って相手がこちらを見続けているので挨拶をした方が良いだろうと判断した。


 「み・・。」

 「み?」

 「三冬が男を連れてきたーーーーーーーーーーー!」


 その叫び声は屋敷中に響き渡ったのだろう。

 道場から、母屋から、庭から人が飛び出して来た。


 「ほ、ほんとうだ・・。」

 「あの三冬様が・・・。」

 「嘘だろ。」

 「彼奴三冬様より強いという事か?」

 「つまり化物・・。」

 「あんな見た目で。」

 「問題は・・。」

 「大先生の一人勝ちか・・・・。」

 「「「あっ。」」」


 その言葉で一瞬の静寂が訪れた。


 「あら、私を忘れていませんか。」

 「母上!」


 人垣が開いて現れたのは着物を着た女性。

 残念ながら髷は結っていないけど、団子状にまとめてあり、その目元は三冬さんに似ていると思う。


 「そう言えばお前も爺様と同じ意見だったか。」

 「ええ。それよりもお客さんをこう囲んで居てもしょうがないでしょう。皆さんは一度解散して下さいな。」


 その言葉でまず家人と思われる人達がはけ、続いて稽古着を着た人達が居なくなった。

 残ったのは爺やと呼ばれた男性と、三冬さんのご両親と思われる二人、それとお母さんの後ろに控えた一人の女性。


 「お客樣方、ご無礼をしました。どうぞお上がり下さい。」

 「母上もこう言っているし皆もよろしいか。」

 「はい。お邪魔します。」


 玄関で靴を脱ぐ事にシェスタとサイカは戸惑っていたけれど、奥の一室へ案内してくれた。

 その部屋は畳敷きと言う事は無く、テーブルと椅子だったけれど妙に和風な家の造りとマッチしており、言うなれば大正モダンといったところだ。


 「どうぞ。」

 「ありがとうございます。」


 出されたお茶は緑茶。お茶請けは羊羹。

 これだけでも大和へ来たかいがあったという物だ。


 「皆に紹介する。この人が私の母だ。こちらは彩花の母上の智花さん。母上の付き人をしていただいている。」


 お父さんは稽古着だったこともあり、爺やさんと別へ向かったのでここには居ない。 


 「初めまして。三冬の母の小春と申します。皆さんには三冬がお世話になっていますようで、お転婆な子ですが、仲良くしてあげて下さいね。」

 「うむ。三冬は友だ。」

 

 何故にサイカは偉そうなんだ?


 「こちらはサイカ殿こう見えても黒竜で、こちらの貫一殿のパートナーでもある。今回はこの国までの運んでくれた為こうして早く帰って来る事ができました。」

 「あら、小さいのに凄いのねぇ。」

 「うむ。凄いのだ。」


 そう言う小春さんの口調は小さい子を褒めるそれだ。

 それでもサイカは満足そうなのでまぁいいだろう。


 「そしてこちらの貫一殿は私と立ち会って勝った程のお方で、大和の文化に興味があるらしい。何分私は料理とか疎いので良かったら母上が教えて差し上げて欲しい・・・。」

 「蜂谷貫一です。この国の文化、特に料理が気に入っていますので、教えていただけるなら嬉しいです。」


 何処かの料理屋か、ギルドに依頼を出して教えてもらおうかとも思っていたけれど、三冬さんのお母さんが教えてくれるなら、丁度良い。

 話しによると料理上手らしいし。


 「あらあら、三冬は昔から剣ばかりだったからしょうがないとはいえ、これを機に少しは覚えてもらいたいわね。」

 「む。それは今後検討するとして、こちらの女性は貫一殿のパーティーメンバーであるシェスタ殿。回復魔法の使い手でもある。」

 「初めまして。カンイチと一番・・古い付き合いのシェスタです。私も料理に興味があるので一緒に教えて下さいませ。」

 「ふふ。良いですよ。」


 シェスタも料理に興味があったのか。

 わざわざ大和まで来たのだから、何かしらの興味を持ってくれれ場よいとは思っていたけれど、良かった。僕の我が侭に付合わせてしまったかと思って少し悪い気がしていたからね。


 「それで皆にはうちに滞在してもらおうと思っているのだけど、良いですよね?」

 「ええ。勿論です。お爺様が使っていらっしゃった離れを使っていただきましょう。パートナーとパーティーメンバーでしたら同じ屋根の下でも大丈夫ですよね?」

 「はい。同じ部屋でも問題ありません。」


 女性であるシェスタにの意見を聞こうと思ったけれど、即答だ。


 「私は同じ寝床でも構わないぞ。」

 「ちょっ。」


 シェスタもサイカも問題あると思いますよ?


 「三冬が帰って来たら使える様にしてあるし、不便は無いと思うわ。」


 滞在の許可が貰えた上に、離れに住むことも決まり後は三冬さんの話しと僕達の話した。

 もっとも話しをしていたのは三冬さんと小春さんそこにシェスタが少し混ざり、サイカは羊羹や煎餅片手に受け答え。僕はもっぱら質問に答えるだけだったけど。

 女性陣のお茶会に混ざった気分はこんなんなんだろうな・・・。


 途中着替えてやって来た三冬さんのお父さんである孝三こうぞうさんは、その様子を見て数分で用事を思い出したと退席した。

 ズルイと思う。


 話しが尽きる事は無く、夕食まで続いたのだった・・・・。



 


 椅子に座ったままでこうも疲れるとは・・・・・・・。







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