人狼
『何の騒ぎだ』
大人ウルフの後ろから人と思わしき影が現れた。"思わしき"というのも声が人のものじゃないんだ。耳から入るのではなく頭に直接響く感じ。
「キミは人狼……?」
『ほう。人間の割には博識だな』
人狼というのは、その文字通り人とウルフの血が混じりあった者のこと。社会的に迫害され、遠い昔に滅びを迎えたと文献には書いてあったはず。
『この地には人間には気付かれぬよう結界を張ってあったはず。貴様は何故此処にいる』
「知らないよ。たまたまこの洞窟を見つけたんだ。結界なんて知らない」
人狼の圧力に負けじと言い返す。
『結界の綻び?いや、しかし、昨日までなかった筈だ。なら、守人が現れたか。祠は開かれたのだろうか』
なにか、よく分からないことを呟いている。守人?祠?
『おい、人間』
「僕はラクル・ナトリス。人間なんて呼ばないで」
いつもなら弱気な僕も、なぜか今だけは強気になれた。
『なら、ラクル。貴様はディバドの者であろう。あの村はどうなった』
「燃えたよ。つい、さっき。村人も2人を残してみんな、死んじゃった」
村の悲惨な風景が瞼の裏にに甦ってくる。焼け野はらとなった村。死んでしまった村人。純白の剣を持ったあの男。
全てが鮮明に甦る。
『やはり、祠は開かれたか。恐らく守人は既に役目を終えているだろうな』
また、ぶつぶつと何か言っている。そういえば、ウルフ達が大人しいな。きっと、この人狼の圧力のせいかな?きっと、強いんだろうな。
「ねぇ、キミは強い?」
『愚問だな。この世界は強者が全てだ。強者でなければ敗北がまつ。ならば、強くなるまでだ』
言っていることは難しいけど、きっと自分は強いと言いたいんだろう。なら、覚悟を決めなくちゃ。
「僕を、僕のことを鍛えてほしいんだ」
何を言ってるんだ、と人狼の目が物語っている。僕だって、自分でも驚いているけど、でも、もう取り消せない。
「僕は弱かったせいで全てを失った。両親。住む処。大事な友人。もう、こんな思いは懲り懲りなんだ。だから、強くなりたい。強くなるために鍛えてほしい」
無言で見つめてくる人狼。ダメなのかな?でも、なぜだかこの人に鍛えてもらわなきゃダメな気がする。
『ラクルと言ったか。我と契約をかわせ。我が貴様を鍛えてやる。その代わり貴様は我の願いを叶えろ』
「それで、強くなれるなら!」
いつになるかは分からない。でも、この人に任せておけば大丈夫だと思う。
『我はルー・ウルファス。この地を任されし古の民。覚悟しておけよ、ラクル』
「挑むところだよ……!」