東の洞窟
「暗い……」
森の東側。たしか、村の大人の人たちが古の魔獣が住むから近づくなって言ってた。
こんなことでもなかったら、来ることはなかったなぁ。
「どっかで体を休ませたいけど……あっ!」
今夜の寝床になりそうな場所を探しながら暗い森を進んでいくと、小さな洞窟が見えた。
一瞬、古の魔獣の話を思い出したが、疲労感が体を襲い洞窟の中へ足を進めた。
「中はわりと広いんだね」
洞窟の中は大人が五、六人なら悠々と寝ることが出来そうな空間が広がっていた。壁際には誰かが使ったであろう枯れ草の束が敷いてあり、なんとか寝れそうな場所になっていた。
『グゥルルル……』
魔物、それもウルフの威嚇。どこから聞こえるのかと思い辺りを見回すと、洞窟の奥の方に幼いウルフがいるのが見えた。反射的に構えてしまったが、ウルフの様子がどこかおかしい。
「け、が?君、もしかしてケガしてるの?!」
目を凝らすとウルフの後ろ足から血が垂れているのが分かった。なぜか、返事をするわけがないウルフに話しかけてしまう僕。警戒をとかないウルフに駆け寄り、傷を見てみる。
『ガゥ!ガゥ!』
「うん。ごめんね、すぐに終わらすから少し、我慢してて……」
傷はそこまで深くはないが、血管が傷ついたのか血は流れ続けている。
こんな状態で一人でここにいたんだよね。それを思うと悲しくて、切なくて。知らず知らずにあまり使ったことがない治癒術を使っていた。
「白の星。光は癒し、彼の者に安らぎを。【クリーレン】」
呪文を唱えると、ウルフの傷は白い光に覆われた。消えたかと思うと血は止まっていて、傷も塞がっていた。
「よし!もう、これで大丈夫だよ?僕はもう出ていくから、ゆっくり休んでいて」
僕は立ち上がり入ってきた方向へ戻る。ところが、入り口を四、五匹のウルフが立ち塞いでいた。
『グゥルルル……』
「あ、ウソでしょ……?」
そうだよ。ここに幼いウルフがいた時点で、親のウルフが帰ってくることをなんで考えなかったんだろう。
『グゥルルル……』
威嚇をしながらジワリジワリと距離を詰めてくるウルフたち。もうダメだ、と諦めかけたとき幼いウルフが間に割って入ってきた。
「君!動いちゃ……!」
幼いウルフがなにやら大人ウルフに吠えている。吠えているというか訴えかけている?
どちらも気持ちが昂っていて、今にも仲間割れが始まりそうな雰囲気だ。