離別
森の中を走り続けた二人はようやく足を止めた。
「もう、こな、い……な?」
「う、うん……」
肩を上下させて呼吸を整える二人。
「悪い。怪我させちまった」
ラクルの左目の傷に触れながら、申し訳なさげに呟くトリガー。それを聞いたラクルは何故かお礼を言った。もちろんトリガーは疑問に思う。不思議そうなトリガーにむかって理由を話す。
「トリガーがいなかったら、僕殺されちゃってたかもしれないから。だからありがと、トリガー」
とても綺麗な笑顔のラクル。しかし、トリガーはあまり浮かない様子だ。
「これからどうしようか?村には戻れないから、どこか寝泊まり出来るとこだけでも見つけないと……」
ラクルはこれからのことを考えている。もちろん"二人で"というのが前提の考えだろう。返答がないことを不思議に思ったのかトリガーの顔を覗きこむラクル。
「トリガー?」
「俺は、別々に逃げた方がいいと思う」
トリガーの口から放たれた言葉はラクルにとって、信じたくないもので、考えたくないことで、この日二回目の絶望だった。
「どうして……どうして!なんで、別々とか言うの?!僕たちもう、二人しかいないんだよ?お父さんもお母さんも叔父さんも叔母さんもみんな、みんな死んじゃった!別々になったら、一人ぼっちになっちゃうんだよ……?」
始めは激昂していたラクルだったが、後半になるにつれ涙声になり、最後には涙を流していた。この日の出来事は七歳の少年には、受け入れられるものではなかったのだ。
「俺だってできれば一緒にいたい」
「それなら、そんなこと言わないで一緒に……」
『一緒に逃げよう』その言葉はトリガーの次の言葉によって紡がれることはなかった。
「でも!アイツが追ってこないとは限らない。もし、追いつかれたら確実に殺される。二人でいたら、行動範囲も狭まって見つかる確率が上がるだけだ」
トリガーの言うことは的を射ている。ラクルもおそらく理解はしているだろう。だが、感情がそれを否定している。
「でも、二人で戦えばどうにか……」
「村のオッサン達があのざまだ。俺達なんか秒殺だぞ」
どうにもできないことに泣き出してしまうラクル。そんなラクルをあやすように、頭を撫でるトリガー。
「お前は、このまま会えないのが恐いんだよな」
泣いているせいで声をうまく出せないラクルは必死にうなずく。
「大丈夫。約束だ。必ず"生きて二人で会う"。そのためにも分かるよな?」
二人の血は繋がってないが、まるで本当の兄弟のような二人。弟を諭す兄のようだ。落ち着いたラクルは決意に満ちた目でトリガーを見据える。
「"生きて二人で会う"。そのためにも一回バイバイしなきゃなんだよね」
「あぁ」
長いようで短い時間の会話。ラクルは立ち上がり東の方へ歩き出す。トリガーも立ち上がり西へ向かう。
「トリガー!絶対に、約束だからねぇ!」
ラクルの叫びを聞き、笑みを浮かべたトリガー。自分たちの選択に後悔することなく道を進んでいく。