オニキスの瞳
「まだ、生き残りがいたのか」
青年の口から出た言葉だけを聞けば、二人よりも早くこの場に着き、この状況の中にまだ生きている者がいる。そう、捉えることができるだろう。それが言葉だけならの話。
青年の右手には元の色が何色か、判別出来ないまでに血で濡れた剣。足元には胸から血を流す、村の猛者たち。青年のオニキスの瞳は何も映していない、冷たい目。
「お前が、殺ったのか……」
トリガー自身、聞かなくても解っているだろう。しかし、聞いてみないことには真実は分からない。僅な希望を胸に青年に問いかけた。
「そうだ。この村の奴等は俺が全員殺した」
トリガーの僅な希望も瞬時に砕かれ、変わりの絶望が二人を苦しめる。
「う、う、うぁぁぁぁぁぁあ!」
ラクルは絶望から泣き叫び、トリガーは無言で唇を噛み締める。青年はそんな二人を気にも留めず次の言葉を紡ぐ。
「安心しろ。その絶望からすぐに解放してやる」
剣を空で振り 、付着していた血を振り払う。見えた剣の色は純白。絶望を二人に与えた彼にはとても似合わない色。そして、純白の剣の切っ先は、二人に向けられる。
「……逃げるぞ」
今にも消えそうな声でラクルに逃亡を促す。しかし、ラクルには届いていない。どうにか気をこっちに向けようと、足元にあったナイフでラクルに斬りかかる。
「目ぇ覚ませ……!」
「──!?トリガッ!」
トリガーの奇襲に気付くことができたラクルは身を捩ってかわそうとする。だが、かわすことができず左目の下に傷を負ってしまった。
「あ、ごめ……」
「言いてぇことは後だ!走るぞ!」
ラクルの言葉を遮り、ラクルの腕を引き走り出す。朝とさほど変わらない行動なのに、朝と様子はまるで違う。
走り出す直前にラクルは青年を一瞥した。青年に殺意は見えず、どこか安心したような感じだった。
そんなことを考えたのも一瞬。縺れそうになる足を一生懸命動かし、無我夢中で森を駆ける。