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Lunatic traces  作者: 十石日色
ここより前は修正済み
9/21

八話 人は見た目ではなく中身だと信じていた頃もありました。

 村に着いた。

 ここで弾薬の補充と聞き込み調査。

 前者は予定通り。

 後者は得られれば儲け物。

 さて、ここで聞き込み調査を行う理由としては『アジト、戦力などの情報』がないかの他に『依頼自体が仕組まれた物』である可能性をなくしておきたいから。

 やはりギルドに来る依頼も偽物があり、人を悪人に仕立て上げて殺そうとしたり、私腹を肥やすために森の守護獣に因縁付けて殺したり、といった悪人が少なからずいるにはいるのだ。

 で、そうならないために前もってこっそり調べておくことを推奨されている。

 まあ俺の場合依頼受けすぎて近隣に顔は知られているから井戸端会議的な手法になりかねないが。




 案の定移動しながら井戸端会議をこなすことに。微妙に情報が入るようで入らない。裏付けくらいにはなるだろうけど。

 何度目かの後、

「あ、ここだ。ちょっと行ってくるね」

 武器屋の近くに来てかなでが言う。

「了解。合流場所は?」

「馬車の前で」

 と、いうことは宿屋の中か。

「了解」

「また後でね」

「OK」

「応よ」

 かなでの背中を見送る。

 彼女が武器屋の中に姿を消してからかけられる声。

「で、あの嬢ちゃんとは本当のところどんな関係な訳だ?」

 ……おっちゃん。

 見れば随分とに~やに~やしてんな。

「だから違うって言ってんだろうが」

「照れる必要はないぜ?」

「どこにそんな要素が……あるにはあったかも知れないけど違うっての」

「ふーん」

 信用してないな、この人。

「……なんだよ」

 半目で睨む。

「いや、ことあるごとに『ヒロインがいない』って言ってるからな。これは珍しい機会だし冷やかしておこうかと思っただけだ。……『フッ。彼女もまた、俺の運命の相手(ヒロイン)じゃなかった』」

「おっちゃん殴るぞ~」

 フリッカージャブ!

「うぉう!」

 チッ!

「おお怖い怖い」

「次になんか巫山戯たこと言ったら二撃目打ち込むから」

「いや、だってお前、事実じゃねえか」

「そーですねー」

「すねんな、すねんな。まあ主役ポジション(ルナティック)のはずなのに見当たらないもんな、補正。期待してた分きつかったもんな。無理もないか」

 難易度ルナティック。

 この世界(ゲーム)での最高難度。

 該当者は現在確認されているだけで六名。

 難易度が高いほど因果が歪み予期せぬ出来事に遭遇する可能性が上がるためか、この難易度は物語の主役に該当するくらい色んなことがよく起こる。

 また認識がややメタ寄りになっていくらしい。

 具体的には師匠もこの難易度に該当するが、子供の頃から戦争で英雄扱いされること五回(終戦の度に偽名を変えて逃走)、邪教の十六幹部のうち二名撃破など様々な功績がある。

 それに対し、俺。



 なし。



 大規模なものは、なし。

 皆無。

 なぜかダンジョンには入ったのにボスの前のどこかしらで置いて行かれてるというか。なんだろ、ゲームで主人公パーティーにいるのに馬車で放置みたいな?

 それを自覚するのにこちらへ来て一年間。去年気付いて恥をかきましたとさ。最大のブレーキである師匠も邪教と戦い始めて既にいなかったし。途中から永久とか放置し始めるし。

 ……自分にも主人公補正が効いてると思っていた時のことは思い出したくもない。今のハイテンションモードよりさらにまずかったんだから。

 よって突っ込まないで下さいな。

 …………

「おっちゃん」

「なんだ? 遠い目してるが」

「俺に相手(ヒロイン)とかいると思う?」

「……いるんじゃないか?」

 なぜに目が激しく泳ぐ(バタフライ)

「どこに?」

「どこかに?」

 おや、疑問系に疑問系が帰って参りましたよ?

「駄目じゃん」

「駄目だとしたら、今まで動かずにどこぞのハーレム物よろしく女の方から寄ってくるとか妄想してたからだろ」

 そんなことは……なくもないです。

 でもそう言われてもアプローチの仕方が分からない。

「じゃあおっちゃんはどうだったんだよ」

 例の掲示を。

「は?」

「奥さんいるじゃん」

「ああ」

 これで実用的なアドバイスが



「なんだっけか? えと、あれだ。お前らの言うところのニコポとかナデポとか言うやつだ」



 ぜっんぜん使えねぇぇええええ!

 そうだよこのおっさん扱い的には難易度上から二番目(マニアック)相当だったよすっかり忘れてた! かなでや永久並に因果が歪んでるよ!

「おっちゃん。神の不公平に嘆いても良いか?」

「別に構わんがこの世界だと人間の営みには基本不干渉だから彼らのせいにするのは難しいぞ?」

「…………ちくしょう」

「いや、お前だってひょっとしたらありえるかも知れんだろ諦めるにはまだ早い」

「勝ち組発言ありがとーございまーす」

「ちょっ、おい、目が死んでるが大丈夫か?」

「気にする必要ないって。今いつものテンションダウン出てるだけだから」

「いや、いきなりさっきまで元気に会話してた奴の目が死んでやばい感じのオーラ出始めたら気にするだろ」

「だーいじょーぶっすー」

「いや大丈夫に見えねえから。ほら、ナンパでもしてこいよ出会いがないなら。あの嬢ちゃんも恋人じゃねえんだろ?」

「いや、ここら辺には手応えありそうな子はいないって」

 大抵既に相手持ちだもの。

「いや、分からんだろ? ほら面識のない子とか探せよ」

「んなこと言われても、この付近だと知り尽くして――」



 視界に黄金が入る。



 腰まで届く髪は金の糸のよう。

 白磁の肌。

 人形のように整った美貌。

 背中には大きな袋。槍か何かを入れてるのだろうか?

 そんな俺より若干年下に見える美少女がそこにいた。

「……あの子は知らない、かなぁ?」

 きょろきょろしてるしあまりここに馴染みがないのかな。

「おい、チャンスじゃねえか!」

 おっちゃん。なんで俺よりあんたの方がテンション上がってんだ。

「いや、でも一人じゃないかも知れないだろ?」

「そんなこと気にしてられる身分か?」

「いや、でも」

「俺だってナンパだったぞ!」

 この男、この顔でナンパでニコポ!? マジで!?

「いや、俺とおっちゃんは違うだろ」

「俺より顔は(・・)マシだろうが!」

 理由になってませんがな。もう面倒になってきてんだろ。

 そして顔はの部分なんで強調した。まるでそれ以外は全部俺が負けているかの如き言葉ですな。


 まあ事実、多分顔のレベルなら俺の方が上だろう。

 顔のレベルで評価すると、

 おっちゃん。中の中から下の中のどこか。

 俺。上の中から中の上辺り。



 ……果てしなく自分に評価甘いなこの野郎と思った奴、挙手。



「どうした、いきなり手ぇ挙げて?」

「なんでもない」

「ほら、さっさとしないと行っちまうぜ?」

「……ああ、分かった」

 覚悟を決めろ、俺。こういう時こそ空回っている気もするけどきっと大丈夫だ。ここで進めなければきっと俺に未来はない!




「あの、すみませ~ん!」

 声をかける。

「……何?」

 こっちを向いた。

 無表情。無感動な声。本当に人形みたいだな、この子。

「いや、あの何かお探しですか?」

 良し。及第点。及第点は低いなという突っ込みは不要だ。落第点でも温情で通ってくれ。

「……捜し物。……探し人でも?」

 旅人確定か? まあこの辺りに定住してる人で知らない人は少ないから、そうだろうけど。

「うん。俺が分かる範囲なら」

 困ってるみたいだし力になってみようかな。下心抜きでそう思えた。

 こういう時は友人とか生き別れの家族とかその辺りだろうか。

「友達?」

「ううん」

 小さく首が振られる。

「ご家族?」

「うん」

 こくりと頷く。なるほど。そりゃ再会もしたいだろうな。力になれれば良いけど。

「で、誰かな? 知ってる人なら力になれると」



「父の仇を」



「ごめん無理かもしんない」

 予想以上に重かった。しかもちょっと待て。ひょっとして父親の仇はご家族ですか。

「……そ」

 特に感慨もなくそう返し、彼女はそのままスタスタと歩いていった。方向的には馬車乗り場か。次の場所に行くのだろう。……なんとなくまた会える気がした。




「失敗しちゃった♪」

「いやまあお前のことだからあまり口出しする気はないけど……途中からナンパだってことほっぽらかしてたな。このままじゃ誰が相手でも良い人止まりになりそうだぞ」

「まあそういう人生だったからね」

 過去形。なぜなら散々経験済みですから。


「……そろそろ戻っておかないといけないんじゃないか?」

 話逸らしにきたな。

「りょーかい」

 乗っておこう。この話題続ける必要性があるとは思えないし。

「……ところで情報大丈夫か?」

 まあ途中で聞き込み中断してたからね。

「一応馬車の中で師匠に『通信』で連絡して返答貰ってるから。現場検証とかの内容も一通り目は通した。だから犯人の顔ぐらいしか見なくても良いと思う。あとはもう殆ど確認だけだったから現地以外で出来ることは殆どないよ。確定情報じゃなかったから伝えてなかったけど一応さっき全員行動の時、最低限は確かめてみた」

「相変わらず便利だな、『通信(それ)』。……いつの間に……って馬車の中か」

「ご名答」

 馬車の中、かなでが寝入った後のこと。『もう出てる』という旨のメールが永久から届いた時。

 ウィンドウ開いたついでにこっそり師匠にメールを出しておいたのだ。……五分もせずに、事の詳細が帰ってきたどころか現場検証の記録結晶まで『通信』利用して送りつけてきたのは驚いたものだ。

 流石過保護、師匠馬鹿と揶揄されるだけのことはある。

「相手、分かってんのか?」

「邪教の下っ端みたい」

 だから師匠も情報持ってたのだろう。そうじゃなかったらある意味、逆に恐ろしい。

「……そうか。無茶すんなよ」

「勿論。みんなが追いついてから突撃予定」

「分かった。そいつらが合流するまでは俺も残るぞ」

「……ありがとう」

「気にすんな……お、やっぱりもう嬢ちゃんもいたな」

 宿屋に停めた馬車の前には既に彼女が着いていた。

「飯食ってから出発な」

「じゃ遠慮なく「奢らんぞ」ちぇっ」




 昼食を食べ終えて馬車の中。

 さて、このままのペースで行った場合、俺らが目的地に着くのは夜。

 後続の面々が全力で飛ばして追いついてくる頃は……途中で日が暮れるから幾つか手前の村で一泊しなきゃならないだろうから朝か。

 ……彼らが合流するまで、何も起きなければ良いんだけど。

 最近冷えてきましたから、体調を崩さないようにお気を付け下さい。

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