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その女はそんなもの

作者: 虎子

「あーん、どーしよ~~~」

「どうしようも無いでしょ?家帰って彼の答えを聞くだけでしょ」

「つーめーたーいー、ミカ!私の話をきいておくれよー」


 私は今朝、2年間付き合って、同棲してきた彼氏に逆プロポーズした。

「結婚しよう!」

「え?」

「う・・・・嘘よはははっははあははははっは」

言ってみたもののその後の対処が分からなくなって頭は真っ白、口から出た言葉は覆水盆に返らず。

恥ずかしくなって、そのまま私は家を飛び出し一目散に会社へと出て行った。

最後に嘘って言って笑いながら出て行く女は、相当頭がオカシイ行動だ。行きの電車の中で後悔した。

おかげで全然仕事が手に付かなくて、ぼーっとしてたら上司が「風邪?僕に移さないでよねっ」だって。


そして会社が終わっても帰る気にはならず、友人のミカを呼び出してカフェに至る。


「家に帰ったら彼が待ってるもん。嫌だ。まだ聞きたくないよぅ」

 めそめそとキャラメルマキアートを啜る。甘くて、ギシギシする心が切なさを増した。

「大体、何でそんな朝っぱらに逆プロポーズ?訳が分かんないんだけど?」

 ミカは少し迷惑そうに、眉間に皺を寄せてアメリカンコーヒーとチョコクッキーを交互に口に含まさせた。


ミカは私の親友で、私はの高校時代からの同級生。とても頭の回転が良い迫力美人な芸術家。

知り合いの知り合いを紹介してもらいながら、その人脈を駆使して芸術活動をしている。

一時期TVのローカル番組にも定期的に出演していた。

 私とは全然違う世界に、自らの行動力だけで成功した女性。憧れるわ、本当。

それに比べ、大学を卒業してからOLやって、毎日平坦な日々。

昇進することも無く、特に大きな人事異動をする事も無く。2年前合コンで知り合った彼氏と同棲をスグに始めちゃって。挙句彼氏は会社辞めちゃって。

今、彼は何故か中国から何やらちいさな雑貨とかお茶とか輸入して、自宅でネットショップ開いて店をやりくりしている。


 お陰で、折角2LDKに引越ししたのに、一部屋は在庫の部屋になってるし!何か家は中国のアングラな匂いがするし!(彼曰く、香辛料の匂い)くさいんだよぅ。家狭いしー。

 それでも、毎日何件かは出荷してるみたいだから、多分彼の小さなお店は細々と成功しているのだろうが。

口に出しては言わないが、私としては、会社に勤めに行って欲しい。

基本暇そうだから、そう儲かってはいないはず。


私は琴子、もう26歳世間で言うアラサー。

私は不安だった。この2年間、もうすぐ私も四捨五入すると30になる。というか三十路が迫ってきている。

このままズルズルと同棲生活を送っていて良いのだろうか?

もし、あと何年か付き合っていってとして、別れたら?また恋人探して、そして結婚までこぎつけなきゃいけない。体力気力、そこまで残ってるのかしら?大丈夫かしら私?!


「・・・、もうすぐ三十路なのに、まだ結婚しようとか言われてないから不安になってね、それで、夕べ突然不安になったの、だから、今朝言っちゃった・・・・って感じ」

「ふーん、結婚したいって、初めて言ったの?」


「だってもう26だよ!今まで自覚無かったんだけど、先月同期の子が入籍したって聞いてさぁ、無償に後から、あぁ、もうそんな歳だよねって、ナーバスになっちゃって・・」


「琴子、それを言ったら、私もう誕生日来て27歳だけど。周りはドンドン結婚していくけど、それだけが正解じゃないでしょう?」

「ミカはいいの、バリバリのアーティストだからっ」

「いやいや・・・・まぁ良いわ、それで?もしOKって言ったら?」


「勿論結婚よ」

「会社辞めるの?」

「辞めない、でないと貧乏になっちゃう」


「ふーん、いいんじゃない?」

「・・・・だよね、だから、もし結婚嫌って言われたらどうしよう」



 そう自分で言った言葉に、自分で気分が落ち込んできた。

もし、嫌って言われたら?


「琴子、良い事を教えてあげよう。案ずるより産むがやすし、百聞は一見にしかず、百見は一行にしかず」

「何?」

「こないだTVでやってた、客家の教えだそうだ」

「ミカ、私それどころじゃないの。結婚嫌って言われたらどうしよぅうううッ」


「あーもぅ、だから、私が言いたいのは。さっさとそのキャラメルマキアート飲んで、さっさと家に帰って、返事をききなさいって事!考えるより行動しろ!」

 そういって、ミカに椅子を蹴られてガタンッってちょっとなった。


「うう、酷いわ。ミカちゃん」

「はやく飲んで、帰るわよ。私も忙しいの、第一結婚したからって、半分の夫婦は離婚するのよ。人間も生き物も、皆出会いがあれば別れもあるの、そんなものなの、陳腐な考えかもしれないけど私はいつもそう思って割り切ってるわ」

「ミカ強すぎる・・・・」



結局、頭を撫でてもらうつもりが、お尻を思いっきり蹴られたような気分になりながら、一人足取り重く家路に帰る。


玄関のドアノブを握る手が震えた。


「た、ただいまぁ」

「おかえりー、今日遅かったね」

「あ、うん、ちょっとね、はは」


彼氏は何事も無いような顔をしてた、家もいつも通り、何か臭いのもいつも通り。

朝のことは何も無かったように、夕飯を食べ、お風呂に行き、寝る支度をする。


しかし、あまりにも朝の出来事を無かったかの様にされるのも居心地の悪い事ではあった。

お互い腫れ物を触るように、気を使っているような気がする。

いい加減この3時間は絶えられない。

「あの、今朝私が言ったコトなんだけど」


結局私から切り出した。

「あの、正直、どう、思ったの?」


そう聞くと、彼は無言で隣の在庫部屋に行ってしまった。そこはかとなく怖くなる、どうしよう、荷物まとめてたりしないよね?

怖くて、私は動けなかった。しかし、ゴソゴソしていた彼は、すぐに私のところへ帰った来た。


そして照れくさそうに小さな木箱を差し出して、「開けてみて」だって。


胸が高鳴る、これはッこの大きさは、きっとあれだ。私が欲しかったあれなんだ!


ゆっくり木箱を開ける、ちらりと見える中身。


ん?


入っているのは、小さく折りたたまれた小さな紙。


「あ」思わず、涙が滲んだ。


「いつか渡そうと思って、でも恥ずかしくて渡せなかった」


広げてみると、婚姻届けの紙と、指輪が入っていた。




フィクションです。こんなクチャクチャな婚姻届は嫌だ!

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