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記憶がない僕には恋人がいるらしい  作者: 鳥魔莉沙


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6/10

初めての部活

火曜日の放課後。

教室の時計が、下校時間を告げるベルを鳴らした。


春先未白は、久しぶりに部活の道具を持って校庭へ向かう。

カバンの重さ、グローブの感触、全てが少し懐かしく、少し緊張を伴っていた。


「記憶なくしてから、初めての部活だね」


横に並んだのは、もちろん松崎リオン。

「うん、わからないこと多いからちょっとドキドキする……」

と未白が言うと、リオンはにこっと微笑んで手を握った。


グラウンドに着くと、部員たちが声を上げて練習していた。

その声、顔、名前、全てが、未白にはぼんやりとした輪郭しか見えない。

先輩や監督のサインも、どう動くかも、全てが初めてのことのようだった。


その様子を見た榎本楓が、ジャージ姿で駆け寄ってくる。

「未白くん、やっぱり変だね」

未白は深く頭を下げて、きちんと敬語で答える。

「はい、先輩……申し訳ありません」


楓は少し溜息をついて、腕を組んだまま言う。

「記憶がないとやっぱ大変?サインも覚えてないし、部員の名前もね……」

「はい……まだ覚えていなくて」

「もう、来月には遠征もあるんだよ?」


未白は必死で頷く。

「はい、先輩。ちゃんと練習します」


楓は少し微笑みながら、未白の頭を軽く叩いた。

「未白くんはやっぱり私がいないとダメだね」


未白は恐縮しながらも、どこか安心した気持ちがあった。

「……はい、先輩」


その後も練習は続く。

投げる、打つ、走る。

少しずつ体は思い出していくけれど、頭の中はまだぼんやりしている。

それでも楓の視線があれば、何とか乗り越えられそうだった。


家に帰ると、リオンがいつも通り迎えてくれる。

「どうだった?」

未白は少し疲れたけれど、笑顔で答えた。

「楽しかったよ」


夕食を済ませ、寝る支度を終えた二人は布団に並ぶ。

リオンは未白の手を握り、いつものおやすみのキス。


「おやすみ、未白」

「おやすみ、リオン」


雨音も、外の風も、今日は二人の世界には関係なかった。

静かな部屋の中で、未白はゆっくりと眠りに落ちていく。

今日も、いつも通りの一日が終わったのだ。

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